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40超えて10年ぶりの漫才~お笑い芸人アンタッチャブル~
以前からのお笑いファンであれば、その中の多くの人が衝撃を受けただろう。
「全力! 脱力タイムズ」にて、アンタッチャブルが復活した。
ここ10年ほど、二人そろってテレビで観るとか漫才するとかそんなシーンを観られなかった。
最初は、ツッコミの柴田の女性問題がきっかけだったのだが、それから後は復帰したものの、どうやら誤解を含んだスキャンダルなどに気の毒にも巻き込まれる。
17歳になる息子は、お笑い好きで事情がわからないと笑えないので説明し、M-1でどのような漫才をしたか、当時のDVDを引っ張り出してきて、二本の漫才を観せた。さらにはリチャードホールという過去のコント番組のDVDも引っ張り出してきて、そのコントも観せた。
「なるほど…」
家族で大笑いした後、息子はその存在と力と事情を知る。
その後、柴田が山崎やアンタッチャブルの話をする度に、息子も「ウムウム」と事情がわかった上での笑いを共有できた。
どうやら柴田はまたアンタッチャブルとして漫才をしたいようだけど、山崎が許してくれないようだった。あれだけボケてばかりフザけてばかりの「ザキヤマ」の、厳しくて繊細な面を知り、そう簡単に解決できる問題ではないのかなと思っていた。
でも柴田のツッコミのキレはずっと健在だった。その反射神経も、テンションの高さも、決して衰えてはいない。それはそれは周りが引くほどのテンション。もうずっと前から同じ。
「全力! 脱力タイムズ」に、柴田はちょくちょく出ていた。
「情報番組」と呼ばれるけど、コンセプトとしては、真面目なところが最初から最後までない。真面目な顔をして話をそらせ、真面目な顔をしてふざけた話をする。たった一人、ゲストとして呼ばれるお笑い芸人が「おかしいでしょ」とツッコミ入れ続け、誰もそのツッコミに応えてくれない。司会のくりぃむしちゅー有田が情報番組として進行していく。
解説者には、ダニの研究者で有名な五箇先生や犯罪心理学者の出口先生、アナウンサーの吉川さん、などなど。やはり真面目な顔をして話をそらし、できるだけ笑わないように座っている。でも笑いはどうしても漏れるし、時には彼らもおふざけに加わってくれる。あくまでも真面目な顔をして。
最後のコーナーでは、呼ばれたお笑い芸人ゲストの相方が呼ばれ、漫才をする時が多い。でもほぼ100%、本当の相方ではない「誰?!」っていうような無名のお笑い芸人。小梅太夫やハリウッドザコシショウや永野の時もある。とにかく、いつもの面白い普通の漫才が成立することはない。
息子がもっとも好きな番組の一つ。
柴田が出た時、最初は山崎と顔が似ていると言われているバービーちゃんが出た。やはりザコシショウや小梅太夫の時もあった。出る度に、柴田は何とかかんとか笑いに変えて、こちら側はその戸惑いや必死さを笑うのだ。
そして先日は、俳優の小手伸也。小手伸也と言えば、最近スキャンダルがあった。柴田で並ぶと何だか笑えてきたけど、こういう人たちが有田の番組に並ぶんだったら、もう山崎も許してやって良いんじゃないかと思った。
そもそも有田と山崎は昔から仲が良いと有名なのだ。お膳立てしてくれないだろうか。柴田が出演する時、ずっとそんな風に思いながら、「全力! 脱力タイムズ」を毎回観続けていた。
そうしたらその時、本当に山崎が手を引かれてやってきた。
柴田が驚いて仰向けに倒れてみせる。
決して共演できなかった約10年間。
きっとずっと漫才したかった柴田。山崎のボケやノリがきっと誰よりも大好きな柴田。顔が紅潮し「ここで?!(この番組で)」と驚き、興奮と戸惑いでウロウロしている。もっとちゃんとした漫才番組で、ネタを作り込んできて、少なくとも練習してきて、メディアで予告して復活するんじゃなかったの? って柴田だけでなく、みんな思っていただろう。
でもこのエセ情報番組で、笑いに紛れたまま二人は並んだ。
家族三人それまで、部屋で用事をしながらなんとなく観ていたけど、三人して動きが止まり「うおおおお!!」と喜びの混じった驚きの声をあげた。
「ヨシ、そういうつもりなら」と柴田が上着を脱ぐ。山崎に向かって「ありがとうございます!」と、軽く、でも深く会釈する柴田に、観ている側がグッとくる。構わず山崎がボケ続けている。観たことのある漫才だけど、知らないボケがどんどん出てくる。戸惑う柴田の表情でアドリブとわかるが、すぐに笑いに変え、とうとう「アドリブ多いな!」とツッコミを入れる。
ツッコミを入れる柴田は紅潮した顔でとても嬉しそうだ。いつものハイテンションで、興奮しながら喜びであふれている。泣いているんじゃないだろうかと思うくらい。
観ている側も、山崎のボケに笑い、柴田の本気のツッコミに笑い、微笑ましく見ている五箇先生たちに笑い、笑っている有田に笑い。
もう泣いちゃう。
良かったねしばっちょ、ずっとこれを待っていたんだよね。
ザキヤマは終始、ちょっと照れていた。
二人のはじけた漫才を観て、私は16年経て再結成した大好きなユニコーンを思い、仲たがいしたままの友人を思った。
歳からしてもう私たち、二度と会えないかもしれないのに、どうして仲直りを受け入れてくれなかったの? と10年近く前を思った。
40歳になる頃、アナタは、この先の人生を思わなかったの?
もう同じようには戻れないだろうってわかってるよ。それでも40歳を超える時。何も思わなかったの?
もう私たち、いい歳をしたおばさんじゃないの。どちらが悪かったわけでもないすれ違いを思って、私は彼女を思い出しながら、ザキヤマとしばっちょを観て、ますます泣けてきた。年齢を重ねて、私たちは許し合えるはずなのに。
歳月を経て、私たちは虚栄心だの競争心だの超えて、お互いの傷ついた心を癒しながら、「もう良いよ」と言えるはずなのに。
40超えて10年ほどのブランクを感じさせない漫才をする、むしろ相方を信頼してグレードアップしている漫才を見せてくれる。そんな関係って、なんて良いんだろう。心底羨ましく、嬉しくなった。
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