個性の強いウエス・アンダーソンの世界~ちょっと興奮しちゃった「グランド・ブダペスト・ホテル」
カラフルな紙芝居か絵本を見ているようだった。「3次元なのに2次元的な不思議な感じだよね」夫は言う。
「グランド・ブダペスト・ホテル」は、私にとってちょっとした衝撃だった。まだまだ私には知らない映画のジャンルがあるんだ。映画の世界は広いなあ。
一番の特徴は見せ方。
「犬ヶ島」を観た時、変わった見せ方をしてくるなあと感じたけど、ストップモーションアニメだからだと思い込んでいた。
ウエス・アンダーソンと言って52歳には見えない青臭くすら見えるアメリカ人は、映画好き友人が好きな監督だ。
友人は映画が好きだけど、私とは好みのジャンルが全然違う上に、稀に好きな映画が一致しても、見ている部分が違う。
クセがあるのは「犬が島」でわかってはいたけど、「グランドブダペストホテル」を観てみると、「犬ヶ島」こそ彼らしさ全開だったのだと知る。
*ネタバレにもならないネタバレが少しだけあります
まるで額に入った絵を見ているような印象的な映像の見せ方。
奥行きを感じさせない平面的に見える建物。窓の外から見える顔の寄せ方。遠近感の強い並び方。特徴的なカメラ移動と画面の移り変わり。
紙芝居がめくられていくような錯覚を起こす。
漫画みたいなシーンもある。例えばスキーを滑るシーンは急にわざと安っぽく描かれていて。それまでコメディっぽく見せていたいくつかのシーンを強調しているかのようで笑える。
コメディ寄りでちょっとだけミステリーなのだけど、私には充分怖かった。
ヒッチコックの映画も連想したシーンがあって。
長い尺でこちらの恐怖心をかきたてる。「怖いー」と例によって私がいやな予感を口にして警戒したけど、それにしてもかなり苦手なシーンとなった。
もちろん見せ方だけではない。内容も良かったのよ。
グスタヴの、周りの人とのかかわり方。
グスタヴはコンシェルジュの中でも細やかな気遣いをし、絶対的な信頼を寄せられるべく秘密は厳守。人と関わるのが上手過ぎてもはや遊び人の域。でも技術やマメさだけではない。きちんと個人個人を思い、歳の離れたゼロとの関わり方に温かみと誠意があって、強い信頼関係が築かれていく様に心が揺さぶられる。彼が人望あるのは、ただの表面的な顔の広さじゃないんだ。
あとコンシェルジュ同士のつながりって実際にあるのね。時にはかなりの緊張感を持って、誰かを救い、誰かを逃し、社会をどこかで変えたり支えたいるのかもしれない。そう思うと、ただの「サービス」だけでない好奇心をかきたてられる職業なんだな。
そして。映画の構造がまた独特なんですけど!
映画ではゼロが語り手となって、今は亡き作家に聞かせる。その内容の本を読んでいる女性。
ってややこしくないですか?
このマトリョーシカみたいな構造が、ウエス・アンダーソンの映像の見せ方を物語っているみたいで、面白い。
四角い映像の中の、四角に見えるように映した床から、カメラは移動し、四角い部屋の中の四角い窓。そして四角い画の後ろに隠された四角い封筒。
いやあ、映画はまだまだ見せ方に可能性を秘めているものだなあ。芸術的でとんがっているなあ。
好みは、タイカ・ワイティティの、丸みを帯びた人間臭さとユーモアセンス、音楽の使い方。でもウエス・アンダーソンの世界も独特でちょっとクセになりそうだ。時々急に残酷で怖いから気をつけながら観ないといけないけれど。
MCU(マーベルシネマティックユニバース)関連の俳優たち含めた有名な俳優陣が贅沢に次々と出てくる豪華キャストにも注目。