夏の田舎の風景
少し涼しかった先日の夜。
お風呂から上がってパジャマでウロウロしていると、その薄い生地が風を通し、さらさらと気持ち良く肌に当たる。今晩は雨かもしれない。窓を完全に閉めて床に横になった。
「田舎の夏の夜、お風呂上がりってこんなだった」と思い出す。
お風呂は、五右衛門風呂だった。
母方の祖母は岡山県津山市の出身で、祖母には年の離れた妹と弟がいた。妹の方は、私の母に年齢が近い。
祖母の弟一家は多くの人が出入りしていて、家自体も少し新しい造り。お盆には縁側にたくさん盆提灯を出していて、光がくるくる回る様子が静かで美しかった。裏の坂の上には、ふっと手をひと振りすればつかめそうなほど、蛍が飛び回っていた。両手を広げた親戚のお兄ちゃんの、手品みたいに見えた。
祖母の妹の暮らす家はさらに田舎の加茂という所にあり、離れには牛や鶏がいて、それらの鳴き声でめざめた。
五右衛門風呂があったのはそちらの家。
畑も持っていて、時々収穫について行った。きゅうり。なす。すいか。トマト。他にもあったけれど、その実のなり方を鮮明に覚えているのがこの四つ。これから大きくなる前の果物たちは、色もまだ青かったり小さかったり、まだ花だったり。すいかなど小さい球体の時から模様だけは一丁前でかわいらしい。
こちらの田舎では、そのおばさんのダンナさんのご両親と同居。父親は、津山30人殺し(八つ墓村のモデルとなった事件)の現場検証に立ち会った人だった。近所に暮らしていて、自分が住んでいた家は飛ばしてもらえたとのこと。その凄惨な様子を私の兄に話してくれたそうだ。私は怖くて聞けなかった。ただ人をいじめたり、その人に伝わるような悪口を言ったりするもんじゃないという教訓は、恐怖心を伴いながら真剣に聞いた。
そして五右衛門風呂。熱すぎるものであるらしい。年下の従妹が「熱い熱い」と騒いでいると、祖母がその言い伝えを教えてくれて、また恐ろしくなった。今度は「怖い」とつぶやく従妹と、何も言えない私を見て「怖いなら、おばあちゃんにつかまっていなさい」と祖母が言い、三人で静かに寄りそった。
今思えば、祖母の妹が薪を使って一生懸命温めてくれたお風呂だった。
津山では、祖母が私たちをうちわであおぎ、親戚たちとお喋りする声を聞きながら眠ったけど、加茂ではうちわも必要ないほど涼しかった。
畳の上に敷いた布団と、お腹にかけたタオルケットが気持ち良い。従妹といつまでも喋っていると、祖母に叱られ。何度もくり返しながら深い眠りに落ちていく。
うとうとしていると目が覚めた。
床が痛い。
ああここは津山や加茂じゃないんだった。
もう寝る支度しよう。
眠たい身体を起こし、40年ほど前の記憶が出てくるにまかせつつ、寝室に向かった。
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