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子供の日常は愛おしくて、大人たちでそれを守りたい~今の世の中だからこそ響く「ベルファスト」~
「ニューシネマパラダイス」「ジョジョラビット」「この世界の片隅に」「インザハイツ」。
様々な映画を思い出された。きっとこれらの映画が好きな人は好きになると思う。
1960年代も終わる頃、北アイルランド紛争があった。私は確かトリイ・ヘイデンの「愛されない子」を20代で読んだ時にようやく知った。20代前半で阪神大震災に遭い、「トラウマ」について少し知ったところだったので、その後読んだ「愛されない子」で、戦争は子供たちの心に強い傷を残すとも知った。
何も知らない自分に対しても衝撃だったし、その内容も強烈だったので一度しか読まなかったけど覚えていた。
そして戦禍の影響を受けながら、その戦いで家族を失ったわけではない子供たちは、日常があったんだと改めて思い知らされる。
日常と憎しみが隣り合うって悲惨なはずだけど、それでも日常はあくまでも日常なんだ。
貧しくても買い物をし、両親と喋って、映画を観て、学校にも行き、好きな子がいたり、成績が気になったりする。
ベルファストは北アイルランドの地域で、田舎ゆえの人々の仲の良さと世界の狭さがあった。
*ネタバレあります
両親や祖父母の愛情に恵まれて育つ9歳のバディ。近所の人たちとも親戚のようで、みんながそこで遊び、両親たちもそこらで踊るのに抵抗もない。そこに宗教の違いは関係なかったはずなのに、少しずつ影響を受けてしまう。
この子がね、まあ親心をくすぐるどこにでもいそうなタイプなのだ。
人々の宗教の違いについてバディは気にしていないフリをしていたし、目の前の日常や会話に素直に反応していた。
でも改めて聞かれた時に「ベルファストを離れたくない!」と駄々をこねるところなんか、すっごいただの小学生。
大好きな子のために勉強を頑張ってみたり、ごまかしてみたり、悪いことに巻き込まれちゃったり。
そんなご時世のせいでケンカしながら互いを思う両親の、時々張り詰めた雰囲気もたまらなくリアル。
この映画の大切な部分は、あくまでも日常で、子供も普通で、両親もどこにでもいそうで、家族の間柄も自然。
ちょっと詳しくは書けないのだけど、「洗剤のシーン」。私もあの立場ならバディのお母さんと同じようにするなあと思って。ムキになってあの場に行って、バディにそう言って聞かせて、姪っ子を怒鳴りつけるだろう。そして事の大きさに気づいてしまう。自分が何にムキになっているのか我に返り、家族をどのような立場に置いているのかを知り、覚悟を決めていくのだろう。あのお母さんの気持ちが、―「動きたくない」は別にして(私はすぐ動きたい方なので)ーわかりすぎて胸が痛かった。
そして多くの人が、バディのおじいちゃんとおばあちゃんを大好きだと思う。
哲学的なようで、当たり前のことをしっかりとバディに伝えてくれる。「わからないのは、聞こうとしないからだ」の言葉や、バディがどこに行こうともみんながバディを想っているのを覚えておけば良いと話した場面。バディの表情も何とも愛らしい。
おじいちゃんとおばあちゃんもお互いを想っていて、特に茶色いストッキングの話をするシーンなんか、自然過ぎて良い。
「互いを想う」って特別な言葉や雰囲気や盛り上がりがあるわけじゃなくて日常の延長にあるんだ。時間は流れ、会話が交わされ、また時間が流れていく。
人の顔がやたらにアップなのも、人ってこうやって表情を見ながら会話しているんだよねと思わされて、ちょっとした変化を感じられるのがじわじわ心を打ちボディブローのように効いてくる。
「どのシーンが」っていうんじゃない。後半、ずっと涙が止まらない。
吹っ切れたダンスのシーンも。
お互いを想い、子供たちを想うお父さんもお母さんも。ずっと内側で考えていそうなお兄さんも。
みんなみんな良かった。
ところでこのストーリーはケネス・ブラナー監督の自叙伝的なものだと言われている。
彼はインタビューの中で「闘争の火がいかに簡単に発火するか」との言葉を発している。近年のロックダウンが制作のきっかけになったそうだけど、皮肉にも今の世界での状況にも通じる。ベルファストは「理想的なところではなかったが、人の絆が強く一体感のあるプロテスタントとカトリック、仕事のある人、ない人が寄り添い生活をしているコミュニティ。社会として機能していたところだった」が、映画で描かれている。大切な考え方として心に刻みたい言葉だ。
パーソナルでありながら普遍的な話。
出来上がった映画を観ると、彼が子供時代に大人たちとのやり取りで得たものはとても大きかったと感じる。
「ジョジョラビット」以来、映画館を出てから胸が詰まってすぐには声が出なかった映画。
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