憶測は、真の理解から遠ざかる
以前、親子関係や家族関係、発達に関する心理学の本を読みあさっていた頃、「少年犯罪心理学」の本にも何冊か出会った。その何冊かを読んでいるうちに感じた、気になる共通点があった。
人の心を憶測する心配についてである。
例えば映画の、あるシーンで心を動かされ、自分が泣いた。子供も泣いた。でもその瞬間、自分と自分の子供は「同じ感情で泣いているとは限らない」ということがある。映画でなくても日常生活で、自分が悲しい場面で子供が泣いていても、子供が同じように悲しく思って泣いていると思うな、ということが子供と接する時に考えるべきことなのだと。それこそが個人個人の抱えている個性なのだ。
これは自分の息子で思い当たるところが多々あったので、「ああわかる。でもウッカリする時あるよなあ。ここ勘違いしちゃいけないな」と思ったし、時々「こう感じているだろう」「こんなことを感じ取ってほしい」などと思ってその思惑が外れた時に、イライラしてしまうことがあるのを反省させられた。
心を憶測して決め込んでいると、大事なことを見逃す可能性がある。
子供の心が追い詰められている時、何らかのSOSが発せられる。それを見逃すと、人を傷つけたり、自分を傷つけたりすることがあるという。そのSOSって、周りは気づくでしょうか。親にわかるものなのでしょうか。スクールカウンセラーに聞いたことがある。彼女は「わかる。ちゃんと向き合っていればきっとわかる」自信持って下さいと私の目を見て言って下さった。彼女の思いこそ、私を信じるという気持ちがあったと思うので、ありがたかったし自信を持とうと思うのだけど、そこでじゃあ「そうなのか!」と安心できるわけではない。だって、本当に「絶対」わかるのであれば、どんな子も未然に防ぐことができるはずだからだ。心を尽くしている親でもやっぱりわからないことはあるのではないか。心配はつきないし100%は無理でも、子供が一緒に暮らしている間はできるだけSOSに気づきたい。そしてしみじみ思ったのが、大人が「察する」ことの危うさだった。
子供に何かいつもと違うことがあったり、子供が「(自分が)大丈夫かな」と伝えてきたりした時に、自分の都合のいいように子供の心の中を憶測、察し、解釈して、「大丈夫でしょ」と言って済ませることで、子供の闇が深く広がってしまうことがある。あなたを信じるという気持ちや姿勢、態度は大事だけど、子供が何を不安がっているか、何を抱えているか、その内容は耳をふさぎたくなるようなものであっても、目をそむけたくなるようなことであっても、そこを受け止めなければならない。自分の思いとは違うものの発見を逃さないようにしたい。
私自身もまだ子育ての最中で、この先の自分の息子の成長にはまったく自信がない。心掛けなければと思ってきたことではあるけれど、今後独り立ちしてもらってから、どうなっていくのか、心配でたまらない。
そしてこれは子供の問題だけでなく、大人同士でも言えることがある。自分の思いを言葉にするのが大事なこともあるし、相手の気持ちを聞かずにただその言動を聞いてわかった気持ちでいると、その中身や真意は違うこともある。
身近な例になるが、夫が育った家庭は、なかなか大変な部分もあった。でも夫はそれを連鎖させないようにしている。無意識に出ている時は、つい私もケンカ腰になったり、その時その時の気付きもあって、お互いに努力してきたけれど、夫自身の努力は尊敬すべきところがある。元々の性格ももちろんある。にしてもだ。何故そんな風に、自分の思いを素直に言葉にできるのかと聞いたことがある。本人も何故かはわからない、たくさんのことが重なってこうなれたと思う、と言いつつ、あるエピソードを興味深く感じた。
それは、夫が外国暮らしを始めて、一人しんどい思いをしていた頃のこと。先輩に電話する機会があって、あれやこれやと話したらしい。あらゆるエピソードを根気よく聞いてくれた先輩がその後に言ったことが、「で、キミはどう思ったの?」「何を感じたの?」だったらしい。それを聞いて「そうか。僕が何を体験し、何をしたかということ以上に、人はそれによって何を感じたのかを知りたいんだな」と気づいたとのこと。
その一つの体験だけで、夫がそれだけ素直に言葉で表現する人間になったとは思わないけど、その言葉は夫の心に残り、そのエピソードは私の心にとまった。
伝えたい相手がいるのであれば、気持ちや考えや感じたことを伝えることに労力を惜しんだり駆け引きしたりでは、真には近づけない。
聞き手となる側もそうだ。憶測で人の心を決めて自分で納得してしまうと、相手の心には近づけない。お互いの理解から遠ざかる。
以前も書いたことがあるけど、言わなくて良い場合もある。言葉にしない方がむしろ伝わる場合もある。でも直接伝え、聞いた方が良い場合をおろそかにしてはいけない。大人同士でもそう。そして親子の間では特に大事にしたい部分だ。