君はケニアに行ったことがあるか(中編)
ケニア初日の夜は、マサイ・マラ国立保護区内の宿舎で過ごすことになった。
食堂みたいなところで夕飯。メニューは普通に洋食だった記憶がある。
改めて同行メンバーと顔合わせをして、お互いのことを知る感じになった。
参加メンバーはこんな感じだ。
ゲンさん…この旅のガイド。ビビる大木さんに似ている陽気なおじさん
カワグチ…筆者。18歳大学生。世の中を憎んでいる。
セイコちゃん…筆者をアフリカに連れ出した幼馴染。18歳大学生。明るいしっかり者。
タカハシくん…18歳大学生男子。野球部風の真面目で朴訥な少年。
アイちゃん…見た感じヤンキーっぽいが、かなり真面目で芯の強い女子。18歳大学生。
ムラタさん…一人だけ結構年上の大学院生(25歳とか)。参加グループのリーダー的な感じになった。イケメン。
サカガミさん…大学4年生の女子。人生を達観してる感じのお姉さん。彼氏はインドを放浪中らしい。
あと2人くらいいた気もするが、とりあえず男3女3だったことにしてこの話を進める。ちなみに全員覚えなくてもよい。
ここで注目すべきは18歳大学生の男女が2ペアいることだ。
カワグチ、タカハシくん vs セイコちゃん、アイちゃん。
ケニアに来てまでなんだが、やはり個人的には最大の関心事は雄大な自然でも異文化との交流でもなくギャルとのお付き合いである。
しかもこの構図とあれば、自然に「あいのり」をイメージするのはやむを得ないだろう。
セイコちゃんは幼稚園からの付き合いで、特にそういう対象でもなかったので自然にターゲットはアイちゃんに絞られることになる(怖い)。
アイちゃんは↑にも書いたがかなりしっかり自分の考えを持っている子だった。初手でいきなり「日本は私に合わない」とかましてきたときはビビったが、そこにはかなり明確な理由もあり、話を聞くと「確かに多分日本より海外でやっていくべき人材ですね」と納得させられるところもあった。
今考えると、自分のような何の信念もない、ふやけたプリンのごとき脳みそを持つ男とは相性最悪だと思うのだが、やはり旅のテンションもあいまって、自然に「俺、アイちゃんのこと好きかも…」と勘違いしてきてしまう。「俺も日本に合わないかも…」と。
そんな感じでチラチラとアイちゃんを見ていたのだが、何か違和感を感じた。目の端でなにかが動いた気がしたのだ。
視界には壁があるのみだ。でもその壁が動いた。
……ダメだ、見てはいけない。
本能がそう告げたが、僕は動く壁を見てしまった。
そこには、大人の腕くらいある、30cm大のナメクジがいた。
「ギヤァァァァァ!!!!」という男女の叫びが、マサイ・マラの静謐な夜にこだました。
どこか遠くで獣がそれにこたえて鳴いた気がした。
そんなアフリカの洗礼を受け一行は寝床へ。
部屋は2人部屋だったのだが、タカハシくん(18歳大学生・野球部風)と同室だ。
同い年であるところと性別以外何の共通点もなく、お互いそれまでちょっと距離がある状態だったが、さすがにアフリカの夜となるとテンションは高かった。
二人で国立保護区に広がるエグすぎる星空を見ながらチルしていると、彼がこういった。
「カワグチ君はセイコちゃんと付き合ってるわけじゃないんだよね?」
「うむ」
「おれ、セイコちゃんのこと好きかも…いや好きだわ…セイコちゃんが好きだぁぁぁぁ!!!!セイコぉぉぉぉ!!!!!!!」
これまじで誇張じゃなく、あと腕時計のメーカーを叫んでるわけでもなく、自分でセイコちゃんへの想いを語っているうちに興奮して絶叫しだしたのだ。正直ちょっと怖かった。
が、この旅にきてちょっとあいのりっぽい雰囲気になって恋愛しようとしている不届き者が自分だけじゃないことに安心した。
……タカハシ、お前もさては童貞だな。
聞いたらほんとに童貞だった。頑張ろうな、おれたち。
一夜が明けていよいよこの旅のメインイベント、サバンナでの動物観察記録のお手伝いである。
現地に住む日本人のアフリカゾウ研究者、中村先生について行かせてもらい、色んな動物の行動パターンを記録する。
まあ学生が数日行ってやる作業で研究者の先生が助かるわけないどころか、初めての経験をする学生に教えなきゃいけないわけだからぶっちゃけ足手まといだったと思う。
ボランティアというのは名ばかりで、学習体験みたいなツアーだったのだ。
ともかくもここで色んな動物を見る。ライオン・キリン・カバ・そしてゾウ。
どれも動物園とは全く違う生の迫力にさすがの動物興味なし人間である筆者も感動したが、一番びっくりしたのはゾウだ。
最初に遭遇したゾウがみるみるうちにサファリカーに近づいてきて、「え、これ踏みつぶされないですか??」ってくらいの距離まできたときはビビった。
するとゾウは踏みつぶす直前くらいで足をとめ、鼻を大きく上下させたのだ。顔見知りの中村先生に挨拶したらしい。その後も同じようなことが何度も起こった。
サバンナで一番顔が広い日本人、それが中村先生であった。
2日間くらいこの作業を行い、次は別の町へ移動することに。
移動中のバスが保護区の出口に差し掛かった時、そこにいたのはマサイ族の皆さんだった。
いわゆるイメージ通りのマサイ族スタイル、赤い布を身にまとい、長い棒をもった例の姿でお土産を販売していたのだ。
女子達はハッキリした態度で「いらねえ!(スワヒリ語)」と断っていたが、僕とタカハシ君の童貞コンビは断るに断れず、変な木彫りの人形を買ってしまった。確か2000円くらいだった。どうやっても使い道のない、マジでいらないお土産だったが、「これ…手作りで味があるよ!」と自分たちを慰めた。
ガイドのゲンさんが、「彼らはビジネスでああいう恰好してるだけで、実際家に帰ったら普通に携帯とかいじってるんですよ。洋服も着てるしね」と身も蓋もない情報を教えてくれた。
忍者村の忍者が忍者じゃないのと同じ理屈なのだろうか。
次の町では小学校訪問みたいなことをした。
ナイロビの街と同じく、ワ~~~~!!と子供たちが駆け寄ってきたが今度はモノを売るわけではなく、純粋な興味で寄ってきたようだ。
流れで彼らとサッカーで交流することになった。
さて、筆者は球技が大の苦手である。
特にサッカーは昔、サッカーハラスメントを受けた結果、親の仇のごとく嫌っている。
にわかに信じてもらえないだろうが、なんせ脚がボールに当たらないのだ。
PKとかで止まってるボールをスカしたことも何度もあった。
サッカーの授業で川口が入ったチームはハズレ、という風潮ができ、後に僕が世の中を憎むきかっけにもなったのだ。
そんな極東でも最弱クラスの男が、人類始まりの地、アフリカの小学生の運動能力に勝てるということがあるだろうか、いやない。(反語)
最初のうちは日本からきたお兄ちゃんたちと遊べて楽しい!的な空気もあったし、実際最年長のムラタさんと童貞仲間のタカハシ君はだいぶサッカーが上手かったので、小学生たちのお目目はきらっきらだ。いい感じのゲームが続いたが、僕だけは何もできずに後ろの方でウロウロしているだけだった。
さすがの快活なケニアの小学生も、「こいつがいるチームはハズレ」という空気を醸し出してきた。ごめんなさい、私はサッカーを憎んでいます。と言いたかったが、スワヒリ語がわからなかった。
女性陣はというと、そのサッカーには参加せずグラウンドでゲームの様子を見ていた。となるとやはり昨日まで男ランキングでは同一線上にいた(と思われる)タカハシ君が、"スポーツのできる男"というステータスを手に入れたのだ。これはずるい。ずっこい。
僕が狙ってるのはアイちゃんで、タカハシ君はセイコちゃん狙いなのでライバルではないのだが、心なしかアイちゃんもタカハシくんのプレーに目線を送っている気がした。
しかし、恋愛というのはちょっとしたきっかけで潮目が変わるものだ。まるでサッカーの試合のように。知らんけど。
翌日、カワグチの逆襲が始まる。倍返しだ…!!
(後編に続く)
(続くのかよ)
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