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【書評】戦争と報道の罪~『天上の葦』(太田愛)
『犯罪者』『幻夏』に続く、太田愛さんの3部作、最後の作品です。これはすごかったです。私が今年読んだ小説の中で、今のところNo.1です。『天上の葦』。
1、内容・あらすじ
主人公はいつもの3人です。刑事の相馬、興信所を営む元テレビマンの鑓水、その助手を務める修司。
ある日の白昼、一人の老人が、渋谷のスクランブル交差点で、何もない空の一点を指差したまま、絶命しました。
たまたま正午だったため、その様子がニュース冒頭のライブ映像として全国に放映されます。
老人の名前は正光秀雄96歳。死因は心臓疾患で、不審な点はなし。
正光が指差していたものは何だったのか? なぜ白昼の渋谷だったのか? 謎めいた死は世間で話題になり、ネットでも動画が拡散します。
興信所を営む遣水のもとに、その正光が何を指差していたのか突き止めてほしいという依頼が入ります。報酬は何と1千万円。
一方、同じ日に、相馬はある一人の公安警察官の謎の失踪を極秘で捜査していました。
全くの無関係だと思われたこの二つの事件はやがて一つに結びつき、途方もない巨大なたくらみが姿を現します──。
2、私の感想
前の2作『犯罪者』『幻夏』も、それぞれ社会問題を取り上げた良作でした。今回の作品は、前の2作をさらに上回っている傑作です。
これはすごい……。まさに今、読むべき小説だと思います。もう少し後になると手遅れかもしれません。
前半の折々で、戦時中の話が出てきます。非常に生々しく、心を揺さぶられます。
戦況が悪化して初めて貧富の差がなくなった、というのは何という皮肉なんだろう、と思いました。
戦時中のことが今回のテーマに関係してるらしい、と思いながら読み進めて行きましたが、何だかただごとではない不穏な空気。「一体何が始まるんだ?」と胸がザワザワします。
初めて話の全貌が見えてきた時は驚愕しました。話がとても巨大。少々甘く見ていました。
後半はあまりの衝撃に、ページをめくる手が止まりません。
そして、この小説に書かれていることが本当だったら、日本はもう危ないのでは?などと思ってしまいました。
「しかし、いいですか、常に小さな火から始まるのです。そして闘えるのは、火が小さなうちだけなのです。やがて点として置かれた火が繫がり、風が起こり、風がさらに火を煽り、大火となればもはやなす術 はない。もう誰にも、どうすることもできないのです」
この言葉を忘れてはなるまい、と思いました。
エンターテイメントとしてもよくできていますし、扱っているテーマが現代人なら必読のものです。強く強く、オススメします。
3、こんな人にオススメ
・戦争を経験した人
だんだんこういう方も少なくなっていきますが……。あの時代の空気感を知っている方にぜひ。
・戦争の知識がない人
一方で、こういう人も増えてきています。戦時中のことは忘れてはならないと思います。
・報道に携わっている人
おそらく、作中で起こっているようなことが、現実世界でも起こり始めているのではないかと危惧します。ぜひ感想を聞いてみたいです。