七・八月の自選秀歌

皆様のいいねのおかげさまもあり、先月はめでたくほぼ一日一首を投稿できました。なぜか一日だけ忘れてた日もありましたがっっ。それなりの数になりましたので、ここ二ヵ月分から自選秀歌にまとめてみました。かつての私は、漠然としたアララギ派的な短歌観の影響のもと、主として自身の生活・体験と心情にのみ、歌の真実性(≒リアリティ)を求めていましたが、王朝文学(古今和歌集・源氏物語など)への愛着の深まりとともに、どうもそういうものではないらしいとの気づきがあったようです。ど文系の学問は書写が基本というのはほんとうですね。まだしばらくはこのペースで投稿をつづけられそうなので、お楽しみいただけたら嬉しいです。

以下は、七・八月に投稿した歌の一覧です。見ての通り、ここでは縦書き画像で投げているので、検索にひっかかるよう文字データ化する意味もあり、掲示しておきます。

虚しさのエアポケットにおちこんで しかたないから背伸びしてみる

あまりにも強い日ざしを浴びてより 色濃くなりぬ 私の影は

どこからかひびいてくるよ スヌーズに 今しも都市のめざめつつあり

ぐっさりと胸に刺さったコメントは あなたの歌には人がいないね

エアコンの壊れた夏に 四六時中 風をはこんでサーキュレーター

小一時間 意識おとしていたらしく ふとおどろくと今日はたそがれ

ごくごくと胃袋にいる牛乳の 消化されてく時のこくこく

さびしさに空ながむれば ぎーぎーぎゅるぎゅると賑やかである むれのむくどり

人はみな時代の子とは言うけれど わりきりたくはない君のこと

不思議だな。いつか歩いた道なのに 時間はこんなにずれてしまった

脇役はさびしいもので ひとこゑに出る幕おりて「おかえりなさい」

どこからかカレーの匂い 幸せの雰囲気だけでごっちゃんでした

汗と熱 シャワーを浴びて流したら 排水口にとっくんとっくん

旅にでもゆこうかしらとたづねても 首をふってる扇風機どの

「女郎蜘蛛」ようやく名前をつかまえた。検索すると君はポピュラー

君もまたいつかの少女 たそがれに涼しげである 素足の老婆

国難に為政者たちを悩ませる 関東平野の巨大な胃袋

コンビニで買ったつまみでくみかはし 雑魚寝の宵にいびきのコーラス

胃袋にのみくだしたる自然水 はやく酔いどれ流しておくれ

メモ帳に書きとめていた言の葉の 歌に化けたるときぞあやしき

もの憂しと思ふこころはそのままに うれしきものは風の涼しさ

アスリート。あらんかぎりを尽くしては 勝つも負けるも明日は思ひで

ゆっくりとおやすみなされ なでなでと葬ってやる 蝉の亡骸

ぬばたまの夢でよかった 水色の空から堕ちて ぺしゃんこの僕

「しあはせは歩いてこない」そうだけど おしかけてゆくわけにもゆかず

気がついていますよ僕は さっきから あそこに蠅がひそんでいると

見せけちにされた言葉のたちかへり目にちらつくも「お前は没だ!」

存在に耐えていますとうぬぼれた 僕を笑うがごとき歯痛よ

「ほんとうはやさしくなんかありません。あたしはあなたに興味がないの」

あぢきなく身はくくられて 言の葉をうらみてぞゐる 背には十字架

月もなくむすばかりなる夏の夜に 暗渠のうちの沢の音きく

アイマスク。願いをかけてみたところ「夢なら君に逢えますかしら」

温度計、三十八度を指してます。西日の団地にてりかへすころ

ただひとり世界に生きるわけでなし「気張るな気張るな。あなたはあたし」

「華」の字を、そにかくされた十字架を 君がいのちのたむけとはせむ

四散せる我がたましひを拾っては くみたててゐるらうたき天使

都会までちょっとひと旅、新幹線 時間のかかるテレポーテーション

氷らせたペットボトルの融解に 部屋の湿度もとけだして水

「もう君は苦しまなくていいんだよ」蜘蛛はやさしく毒の口づけ

ひらかれたドアを隔てた検問の声におぢると……身には刺青

見わたすと雪のふりつむ草原に ここは心のスノードームか

「コーヒーを買うのを忘れていましたよ」今日の僕からあしたの僕へ

蝉たちはいのちの最期ふりしぼり 鳴きとよみては夏の葬送

なにことを歌によもうとすることの罪かあらぬか考えてNON!

「むなしさは未来の予感なのかしら いのちの後のなにもない世の」

生きたくも、さりとて逝きたいわけでなし 宙ぶらりんの呑んべんだらり

いとけなきころの思ひで 夢にのみまざまざと見ゆ 君とあやとり

この道をゆきつもどりつ来しかたの思ひだされてけふで退職

この顔はもう見ざる顔 あの顔も さよならばかりいま眼前に

かた恋のうちにまぎれた嫉妬をば 夜半に見つめて足あらひをる

「あなたしか見えないなんて嘘でした。いとしい人のまたあたらしく」

現実のものみなあきの風ふけば 夢の世界にあくがれてあり