九月の自選秀歌

皆様のいいねを励みに、先月もめでたく一日一首(あるいは二首)投稿することができました。自選秀歌にまとめましたので、ご笑覧ください。なお一首は、Utakataのほうから拾いました。

その「虫の音の」だけはそのままの日常詠ですが、それ以外は、純然たる言葉遊びの歌(「しろたへの」「インド亜大陸」)をはじめとして、ほぼ何らかの点でフィクションや空想を含んでいる歌となっています。哲学的な観想をモチーフにした「むすばれて今」は扱いが微妙ではありますが。うちの母親などは「みちのくの」の歌を見て、「お前、樺太まで行ったのかい」とかとんでもない感想をよこしたりするので念のため。

それはそれとして近頃の作歌のうえでは、七音をあえて「五+二(あるいは二+五)」に構成する句形にこだわっています。たとえば冒頭の「むすばれて今」は、分解すると「五+二+五+五・七+五+二」という形になっているはずです。僕の場合もそうですが、なんとなく詠んでいると、どれもこれも「五七五・七七」で、七音は「三と四」になっていることが多いのではと思いますが、少し工夫して句形をいじることで、歌の印象がまったく変わってくることもありますので、お勧めいたします。「虫の音の」も当初は違ったのですが、結句を「あかつきの秋(五+二)」と思いついたことで、秀歌と言えるものになりました。これが「秋のあかつき(三+四)」だと凡庸に堕するので不思議なものですね。

なお今月から、noteに投稿する歌は、Utakataのほうにも投げることにしました。そんなにこだわることでもないかと思いなおし。

前回の自選秀歌はこちら。

以下は、先月noteに投稿した歌の一覧です。見ての通り、ここでは縦書きのうた画像で投げていますので、検索にひっかかるよう文字データ化する意味もあり、掲示しておきます。なかには詞書きとセットでないと伝わらない歌もありますが。まあいいか。


見つめあふ恋のかたとき ものもひも涙とながれ 海にぷくぷく

かへらざる旅とはかねて知りながら ものさびしくも終着の駅

短歌とは、唄でありかつ詩であるとこころにかけて言の葉の露

みちのくの奥までゆけば さいはてに樺太島は鎮座してます

眠りたい。けれど寝れない夜がある 未来がいまのどこにもなくて

「昼下がり午後5時までは恋をして それからバイトに向かおうかしら」

夕映えを身にうく雲にあこがれて 河辺の土手にしばし寝ころぶ

換気扇、はたらいている音のまに 彼女は寝おちしてゆきました。

「おやじさん、おふくろさんに恋をして そしたら僕が生まれてきたの?」

きもちよいあくびをされる人ありし 始発電車を待つあかつきに

なにとなく短歌に期待されている私小説ちっくは知らんぷりぷり

いつまでも涙に濡れてぼろぞうきん しぼれどしぼれどいまだ乾かず

咀嚼して消化・排泄する管の人体といふ夢にまどろむ

欲情のはなたれてゆくその先のであひがしらにあはれ女は

ポイントは標識として示されて 自己責任で打算させられ

あたらしい音もいつしか懐かしくメロは時代のメルクマールか

誰かれをねたむ気持ちはぬけおちて 都会の影にかくれんぼくは

もう秋だもう秋だって言うけれど まだまだ夏じゃねえかってうた

昼さがり君とうちとくまどろみにうつもうつつもとけてゆきます

丘ひとつ越えてたちよるショッピングモールにひとりカート押しつつ

運命とはた偶然のもつれあひ すべての過去のむすばれて今

なでてゆくたびにあなたを知りそめる 今日お迎えのスマートフォーン

しろたへの肌うるわしき嫁さんは知らない僕の秘密のほくろ

さびしくも生きねばならぬ ゆく秋にぼっちの蝉がまだ泣いている

やりすぎたネットサーフィン 潮ざぶん 目はちかちかとこころぱさぱさ

ふろあがり、君の香りのみつるとき つれなくはない影を抱きしむ

存在に耐えているのはおなじこと 雨にそぼ濡れ 電線に鳩

もうここにあらざる人を送り火のくすぶっている吾がこころかも

こんなにも小さくなった世界です。ドアの向こうにインド亜大陸

あがく手のひぢまで泥にのみこまれ もう助からぬ 沼にはすの葉

あさみどり、池に柳のすずしくて くつろいでいるつがいの鴨も

むなしさを埋めてくださるラーメンをいっぱい・いっぱい、もっといっぱい

青空に世界を抱いて曼珠沙華 吾が手をとるはゆきずりの人

かぎりなき無限の歌をたづねみん 風に吹かれた言の葉のそら

井戸をほる 泥にまみれた手をぬぐふ 記憶の底にひらかれよ窓

あかつきの波よせかへす海岸に 艶うるわしき貝をひろひぬ


以上となります。

そうそう今月から、noteの記事一覧の埋め込みでも綺麗に表示されるようにと、うた画像の形式を一行書きから三行四~六行書きにあらためました。なんか啄木ちっくではありますが。よしなにどうぞ。
【十月十日追記】けっこういい感じになったので、過去にさかのぼって四~六行書きにあらためることにしました。