「わが胸のうつろのふかさ」

世のなかにはまるでこのんでいるかのように、空虚だの孤独だのと言いたてたがる人たちがいる。いまさら隠すまでもなく、私もそちら側の人間であろう。しかしどれだけ自分の心の具合から、他者のそれを類推したところで、人の内面の本当のところはその人自身にしかわからないところがある。外見そとみには明るく気丈にふるまっていても、心中には深い悩みを抱えた人もいることだろう。そういう人からすれば、孤独をある意味では楽しんでいるかのような孤独感などは、着せ替えのきくファッションのように見えたとて不思議ではあるまい。少なくとも他者のそれがどうであれ、うまい料理を満足に食えたのなら、あるいはSNSでいいねがそれなりに集まれば、それで一時のことにせよ埋めたてられてしまうような私の孤独は、所詮はそのぐらいのものでしかないのだろう。そしてわざわざとるにたりない孤独に入りびたるように生きるのであれば、果てはろくでもないことにしかなるまいと思う。それもひとつの人生ではあるにせよ。

 わが胸のうつろのふかさ はかりては たいしたことはないとたしかむ

ちなみに前回からはじめたこの歌のある随筆は、あくまで歌が先にあり、それにあわせて文を書きそえた形となっています。伊勢物語が、歌の詞書ことばがきが発展して物語となったのであれば、これは詞書きとしてのエッセーとも言えましょうか。よしなにどうぞ。