大河「光る君へ」(45)はばたき
あと三回かー。なのにここに来てまたもや怒涛の展開っぷり。あと半年くらい続く勢いじゃないですかア!続けていいんですよオ!(魂の叫び)
※「源氏物語を読みたい80代母」のための企画です。最終回までこの形式で続ける所存。思いっきりネタバレ全開なのでご注意くださいまし。
お喋り役の平安女房ズは以下:
右近(右)、侍従(侍)、王命婦(王)、少納言(少)
侍「ねえねえ右近っちゃあああああんんん!」
右「なあに侍従ちゃん。いつもながら予想通りの始まりね」
侍「だあってえ!今回はホントにホントに仕方ないっしょ!まひろちゃん『宇治十帖』完成させるや引退&旅立ち宣言、賢子ちゃん宮仕えデビュー&道長くんの行かないでくれ発言にあなたの子よカミングアウト、聖地巡礼須磨→大宰府行ったら周明いたーーー!つづく!ってさあマジでアタシに喧嘩売ってんの今大河?!もうもうアタシの情緒どうにかなっちゃいそう……(ばたり)」
右「そうね、いつもにも増して盛りだくさんだったわ。敦康親王さまも21歳という若さでお隠れになったし、道長くんがまさかの出家するし」
王「あれ、フリじゃなく本当に剃っちゃってるのよね。リアルに胸に響いたわ。朱雀院さまが髪を下ろされたシーンも思い出した(「若菜上」)。あの時、院の最愛の人・朧月夜の君は涙しながら寄り添ってたけど、倫子さまは……同じように道長くんのすぐ傍で泣いているのに、遂に彼の『最愛の人』たりえず終わってしまった。家持ち財持ち・見目よし気立てよし・超絶コミュ強の平安パーフェクトマダームなのにお気の毒すぎる」
少「私、今日という今日は道長さまにはっきり憤りをおぼえましたわ。まひろさんに未だお心があるのはいいんですよ別に、そこはご自分でもどうしようも出来ないところでしょうから。でも、今まで多くのお子様を生み育て、陰になり日向になり尽くしてくださった倫子さまに対してあの態度はありえないですわ。出家のご決心が固いとはいっても、せめて一日だけでも考え直すふりをしていただきたかった。思いやりがなさすぎです。正直、だからまひろさんに逃げられるんですよ……とまで思いましたわ」
侍「少納言さんをガチギレさせる道長くん……!」
右「まあ普通に酷いわよね。どうみてもタイミング的には、まひろちゃんがいなくなって気持ち折れたわ的な流れじゃん?失恋して髪切っちゃう女子か。さしもの倫子さまがツッコミ入れるほどあからさまなのにテキトーに誤魔化しちゃってさあ。結局倫子さまに甘えて甘えて甘えまくってんのよね。聞いてるか道長ア!!」
侍「いつもの右近ちゃん爆ギレー!」
王「そうね、甘えてるで合ってると思う。行成くんにはあれほどストレートかつ感動的な感謝の言葉を告げられるんですもの。あの時の行成くんの涙、尊かったわ……もうアレは一生離れられないわよ絶対。悪い男ね道長くんウフフフ」
侍「王命婦さんがトゥンクしてるう!!」
少「出家された道長さまが世を捨てるどころかまだまだ現世にかかわる気満々なところも、朱雀院さまに重なりますわ……結局のところ私の道長さまへの怒りは、朱雀院さまへの恨みつらみが元なのかもしれません」
右「あー確かにあの、気にしいで優柔不断なくせに変なとこで頑固で、一旦決めたら引かない!みたいなとこ似てるかも。女三の宮ちゃんがらみで紫上を悲しませたのも、元凶は朱雀院さまだもんね。山奥に引っ込んでからも絶賛口出しまくりだったし。さて、道長くんはどこまでやるのかしら」
王「私が気になるのは道長くんより倫子さまね。『道長くんの華麗なる治世』を書物として残す(栄花物語)というのは夫への愛だけじゃない。現政権への『これだけのことをやってきたという事実を忘れんなよ』アピール、だけでもない。裏に隠れた主たる目的は、源氏一族(倫子は源姓)の箔付けと継続的な繁栄。まさに道長くんの背後から政を操る女傑の趣ね……素敵だわ」
侍「そうそう倫子ちゃんてさーすごいヨネ!まひろちゃんに先に言って断られたなんてミリも出さず
『衛門、貴女に頼みたいの♡』
ってニッコリってさあヤバすぎ!名女優すぎ!赤染衛門パイセンみたいな超才女を感動のあまりマジ泣きさせてウンと言わせちゃう倫子ちゃま、恐ろしい子……!」
少「素晴らしいですわよね。どんなに悲しいこと苦しいことがあっても腐らず引きずらず、常に前向きで誇り高くいらっしゃる。名実ともにハイクラースなお方ですわ」
右「何もかもまひろちゃんと対照的だわね。ただ、まひろちゃんもこと物語を作ることにかけては強いプライドを持ってる。方向性は違っても、同じ高いステージにいる者同士の共感とリスペクトはあるのよ。だからこそうまくいった。周りも認めた。今回、賢子ちゃんへの女房ズの歓迎ムードは、ひとつの答えよね」
王「まひろちゃんの時はなかなかすごい雰囲気だったものね。なんだかんだと長年積み上げていっただけのことはある」
侍「ねーねーあのさー、この際だから皆に聞いてみたいんだけどー、まひろちゃんのあのカミングアウトどう思う?賢子ちゃんのこと道長くんに言う必要あったー?」
右「うーん、個人的には墓場まで持っていけや!だけど……道長くんが完全にテンパっちゃってたからね。ああいうショック弾投げないと暴走しかねなかったっしょ」
少「もしも道長さまが裏から手を回すなりしてまひろさんを引き止めたら、倫子さまはもちろん周囲にもお二人の仲が露見してしまいますよね。出仕したばかりの賢子さまの居場所はたちどころになくなります。
『賢子は貴方の子ですのよ?積み上げたものを全てフイにするばかりか、我が子を針の筵に突き倒すおつもり?貴方と私はとうに終わっている、これで終わりにするんです』
と最後通牒を突きつけた……ということだと思います」
王「少納言さん、完璧。その通りよね。『宇治十帖』の結末と同じく、何をどうやってももうこの二人に先の未来はないのよ。ぶった斬るしか手がないの」
侍「そっかー、じゃあ仕方ないね。バイバイ道長くん!まひろちゃん次いこ次!」
右「……侍従ちゃん無慈悲すぎない?」
王「まあイケメン周明くん再登場だもんね。予告によると独身っぽいし、まさかの熟年ラブ再燃かしら」
少「まひろさん、まさか遠い国へ行ってしまうとか……?」
右「えっここに来て信秀くん絡みの伏線回収?!さすがにそれは……いや今大河ならある、かも……?」
王「結局最後まで目を離すなってことなのね。さすがは近年稀にみるイケズ大河」
侍「うわーーーん終わるとか考えたくなーい!!!来週が来てほしいけど来てほしくなーい(号泣)」
女房ズの話がちっとも終わりません。最終回に向けますますテンション爆上がりな予定。うわーん。
まひろの「賢子は道長の子」カミングアウト、Twitter(x)では
「六条御息所が今わの際、光源氏に『我が娘(後の秋好中宮)には色めいた気持ちを向けないでくれ』と懇願したエピソード」
を連想したという意見もみられてなるほどーと思いました。確かに、道長がそれと知らず実子の賢子に手を出さないように、という釘刺しの意味もあったかもしれない。ただ、あの場ではやはり溢れ出した道長の情熱を冷ます目的が第一だったんじゃないかなあ。下手をすれば全員もれなく不幸になる結果を招きかねない。親として女として職業人として、半端ない緊張感の中でのやむなきカミングアウトであったと思います。
このあと道長はまさに氷水ぶっかけられたような風情で、賢子を遠目に眺めて涙を流しますが、私はこっちの方が不可解だった。何の涙だこれは?
副音声によると
「込み上げる悔しさと痛みと切なさ」
だそうな。そこで思い出すのが、以前「桐壺」を読んだ道長がまひろに聞いた
「お前も不義の子を産んだのか?」
というワードですよ。自分の種だと全く気づいていなかったんだとしたら、どういうつもりで聞いたんだこれ。宣孝以外の第三の男を想定して、それで勝手に嫉妬してた?アイツも勝手してるんだから俺も妻複数持って子供もたくさん作るんだもんね(←上流貴族としては当たり前)!プンスコ!て思ってた?のに、全部間違ってた俺間抜けすぎ、て感じ?
もう少し優しく考えると、道長は秘密を明かされてようやく
「まひろとの未来はもうない。終わっている」
ということを真に理解したんでしょうね。まひろへの執着というよりは自分自身。「三郎」はもういない。子供時代、青春時代は何をどうやっても取り戻せない。枝分かれした道を選び選び、もはや後戻りできないはるか遠くへ来てしまったのだと。
一方のまひろはいろんなものから解放されて自由。須磨の浜を走る姿にはまるで羽がはえたよう。雀の子を追って飛び出して来た少女が描いた物語、その世界を今また軽やかに駆け巡る。紫式部が実際にこのような「セルフ聖地巡礼」をしたかといえば多分してないんでしょうが、そういうことではなく。紫式部という大作家が持つ「創造の翼」を象徴しているように思えて、かなり感動した次第です。作者がこの世から消え失せても、「源氏物語」が存在する限り、永遠にはばたき続ける翼なんですよねえ。胸熱。
といいつつも、まだまだ終わらない大河。次回はあの「刀伊の入寇」がそのまんまタイトルになっております。「元寇」より百年以上前の外敵侵入事件。まさにまひろの行き先である大宰府と松浦が襲撃されるんですよね。どう描かれるのか大変楽しみです。ではではまた。
<つづく>