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『傘のさし方がわからない』

本屋さんに行くのが好きだ。
だいたい目星をつけて行くことも多いが、ふらふらと店内を見て歩き“これだ!”と思うものに出会えたときのよろこびはこの上ない。
これを選び取ってよかった!と、るんるんで帰ってくるのだが、実際読んでみて本当によかったものを記録に残していきたいと思う。

今回は目星を付けて購入した一冊。

『傘のさし方がわからない』岸田奈美/著

笑えて、ときに泣けてしまう爆走エッセイ!
この本を読んで後悔する人はいない。
むしろ感謝に満ちると思う。岸田家にも自分にも、明日があることに。
――矢野顕子さん激賞!

『傘のさし方がわからない』表紙より引用

本の情報

著者       岸田 奈美
出版社    小学館
発売日    2021.10.15
判型/頁  新書判/240頁
ISBN      9784093888349
定価       1,300円(税別)

代表作である『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』からの第二弾。

著者のプロフィールには「100文字で済むことを2000文字で伝える作家」とある。わたしもこの能力がほしい。

買ったきっかけ

noteでたまたま見つけた記事。

『動物病院のじじい』

一体どういうこと?笑
どんな心情で書かれているのだろう?

パンチのありすぎるタイトルがとても気になった。
読んでみるとその物語はおもしろく、一気に引き込まれ読み終えた…
というか、途中からマガジン購入エリアで有料だった。
最後まで読めていないのだけれど。

あまりにおもしろかったので、どんな人が書いているのかとプロフィールを見たら、以前テレビで拝見した人だと気づいた。

岸田奈美さん。
何年か前?たまたまテレビでサクセスストーリー的に紹介されていたのを見たと思う。

(ドラマにもなっています!)

お父さんが急逝。その後お母さんが大病を患い車椅子生活に。弟さんには知的障害が。おばあちゃんは認知症。ご本人がnoteをきっかけに作家になった!ご家族のために外国車を購入した!という、山あり谷ありのストーリーだったと記憶してした。

あと、わたしにはマガジン購入は少々ハードルが高い。
サブスク形式は苦手なので本で読みたいと思った。
岸田さんのnoteをフォローして、途中までだけど毎回楽しく拝読させてもらっている。

(購入に至った経緯↓)

背負っているものがあることが一緒と思った。

最新作を買えばマガジンのクーポンも付いている。初月限定だけど記事が最後までが読める。ううう、なんて悩ましいんだ!

本当は代表作から読もうと決めていた。でもこの本のタイトルが、ひどく気になった。

自分たちは少ない選択肢の中で生きてきたという内容の一文がある。noteの印象で、おもしろエッセイが多めと思っていたので急に

“そうだよね、そうだよね。”

立ち読みで感情移入。自分と重なるところもあるのかな?と、2冊目を強く読みたい思った。
一度は悩みすぎて何も買わずにスルーしたのだけれど。

おもいは届き、願いはかなう。

「全財産を使って外車を買った」というお話がある。
車いす生活のお母さんのために車を買ってあげるという内容。前作の印税で購入したのだという。

なぜ外国車なのか?
亡きお父さんが所有していた車が外国車だった。

家族で出かけた思い出を取り戻すような気持で、紆余曲折しながらも購入にこぎつける。
お母さんが運転できるような仕様に作り替えなくてはいけないが、そこは人情というか、ディラー担当者さんだったり、受け入れてくれた工場の人たちが努力と苦労でなんとかしてくれた。

世の中捨てたもんじゃない。
気持ちが温かくなった。

岸田さんは思い切りがいい。
肝が据わっており度胸もある。

無理にも思えることだって『想い』が勝るのだ。
そして願いがかなってゆく。
家族への想いが、いろいろな人たちをも巻き込み実現している。

一歩踏み出すって、とても怖いけど大事なことだと感じるのだ。

……

夫が脳卒中で倒れた!

岸田さんのように思い切れたわけではないが、わが家も6年前、新車で軽自動車を購入した。夫が脳卒中で倒れた年だ。

親族がディラーに勤務していたため「そこで買ってあげたい」と以前から夫は口にしていた。

意識障害がある中、病床でうわ言のように車の話をするようになり正直困った。

“だって、もう自分で運転できないんだよ……?”

わが家には中古で買った夫の乗用車と、新古で買ったわたしの軽自動車があった。乗用車は初度登録から17年。軽自動車は11年経過していた。

特に乗用車は運転席側のロックがかからないとか、後部ドアのパッキンがダランと垂れたりした。その都度キュキュっと納め、だましだまし乗ってきた。もう買い替えが必要だった。

軽自動車はあと5年は乗る予定でいた。

……

入院してすぐ、乗用車の車検時期がせまっていた。
転院先など今後のこと。考えることがいっぱいで、わたしの頭はパンク寸前。判断もできない。
迷いに迷い、とりあえず2年延命させることにし、当時車がなかった遠方の長男に使ってもらうことにした。

わたしの軽自動車の車検も、数カ月後と近づいてくる。
ディラーで一目ぼれして買った愛車。
まだ乗れる。
乗り倒してやろう!と思っていたのだが……

思い出のつまった車

通勤や子供たちの通学・遠征の足として使ってきた。

学校であったたわいもない話。
部活動での楽しかったこと、
苦労していること、
愚痴なども。
走りながらこの空間でずっと聞いてきた。

好きな音楽も互いに聴いてシェアもした。

冬道にスリップして半回転したり、雪山にぶつかったりもした。
半回転した時は不思議なもので夫の顔が浮かんだ。また怒られるー!
死の直前ってこんな感じか?と思ったりもした。

この車とも色んなことがあった。
特別で大切な『走る空間』だった。


人を運ぶだけではなく、家族との思い出がつまった車。
夫に納得してもらってこの軽自動車に乗り続けるか?


……

いや夫だって、ずっと“新しい車に乗りたい”と思っていたはずだ。

年子状態の子どもが3人。
子育てにお金がかかるため結婚後はずっと中古車でがんばった。

長男が高校卒業後、道外の学校へ進んだ。
家計は一気に火を噴いた。

夫は3人とも高校を卒業したら就職するものと思っていたと思う。
ここから1300キロも離れた学校へ進もうなんて晴天の霹靂へきれきだろう。
長男も「こんなに遠かったんだね」と言った。

ライフプランは軌道修正を余儀なくされた。

いや、よくないと分かりながら、
進学したいこと、薄々知っていたのにきちんと話していなかった。

反対されるのが目に見え、どういう風にお金を工面して生活しますというプランを明確にしてから話す用意をした。

夫には苦労をかける形になったが、進学の件は了承してくれた。

それから次男就職。
そのあと長男と末っ子も学業を終え、無事就職した。
引越し等でバタバタしながらもついに終わった。
一区切りついた。

しばらく学費の返済等あるものの、ここから平穏な日々が始まる。

スルーしたいが夫の車の件も本気で考えなくては…
と思っていた矢先の脳卒中だった。

わたしがあなたの足になる

やはり病院へ行くたびに夫は車の話をする。
ボディーカラーを痛く気にしている。

「(狙ってる車には)ツートンが無いから後から塗ろうか…」
「(親族に)電話して(購入のこと)話しておこうか…」とか

色々なことを思い出せずにいるのに
車のことは忘れていない…


「軽自動車も手放し、1台にしよう。
わたしがあなたの足になる。」


覚悟を決めた。


……


退院後、親族に話しカタログをもらった。
新古車についても、出たらすぐ教えてほしいとお願いした。
これから夫も働けないし金銭的に2馬力が1馬力。
新古車を狙うことにした。

ただ、ふと思った。

運転するのは、このわたし。
運転しやすいのはどう考えても軽自動車なのだ。

夫に提案してみた。
かなり驚いていたが、あっさり了承してくれた。
そして提案したその軽自動車を痛く気に入ってくれた。

試乗もさせてもらった。
不自由になった夫が乗り降りしやすいかを見極めるため。
高さのあるスーパーハイトワゴンなので問題なし。
必要があれば車いすだって余裕で載せられる。
熱望していたカラーもある。よかった!!

……

ただ、新古車は待てど暮らせど現れない。

“早く出てきてくれい!”

祈ったが出てくる気配なし。
定番カラーの白や黒ならあるのだが…


2か月後にはわたしの軽自動車の車検がせまっている。
足がなくなるのは困る。この田舎では車がないと生活できない。

ディラーの親族も一生懸命探してくれたが、ついにこんな提案をした。


「新車も新古車もさほど変わらんよ!」

「何たって好きなカラー選べるし、車検まで3年あるし…」
新車のメリットを色々と並べたてた。

分かってはいるけど大きな買い物だから怖いんよ?
ローンを組むこちらの身にもなってくれい!

……

ただこのまま待っていても出る気配がない。
車検の時期もせまっている。


清水の舞台から飛び降りる気持ちで
新車購入を決断した。

……

思い出の軽自動車は手放すこととなった。
以前手放した際、納車場所が自宅だったためディラーさんが古い車に乗って帰った。
遠ざかる車を見送った。
心の中で車の名を呼んだ。

「ミラ~~~~~!」

心の中で泣いた。

それを教訓に、今度は納車場所をディラーにした。
11年乗った愛車。
なでなでして、さようならありがとうをした。

淋しさでいっぱいだったが気持ちは次に向いていたと思う。
新しい車と並べて記念撮影をした。

おわりに

自分のことと重ねながらこの本を読んだ。
おもしろくもあり、やさしいきもちにもなり、ちょっぴり切ない気持ちにもなった。
機会があればぜひ手に取ってほしい一冊です。


最後までお読みいただきありがとうございます。


夫といろんな場所へ行って、
思い出たくさん作って走り続けます。


カワコ


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