キングメーカーを狙う麻生太郎副総裁と「もしトラ」川上高司(中央大学法学部講師)
■「もしトラ」で麻生が日本のキングメーカーとなる
岸田総理が強権人事外交を展開し、自民党が壊滅状況にある。しかも、永田町から日本独自の大戦略をプラニングできるキングメーカーが消えている。そのような中、麻生太郎副総裁がトランプ前大統領とニューヨークのトランプタワーで4月24日に会談した。
トランプは麻生を自らトランプタワーの玄関口で出迎えた。岸田総理が訪米したときには空港にはバイデン大統領が出迎えにでなかったのとは対照的であった。ロビーで麻生について「私たちの親愛なる友人のシンゾー(安倍晋三元首相)を通して知っている人だ」と強調。「日米関係や他の多くのことを話し合う。とても名誉なことだ」と語り、トランプ自身のSNSにも「トランプタワーに今晩、麻生太郎元首相をお迎えできたことを大変光栄に思う」と投稿した。
トランプは来年1月に大統領に返り咲いた際のことを見据え、各国の要人との会談をかさねたいる。その中でも安倍不在の日本でのコンタクトパーソンとして麻生を名指しし、氏陣営の発表によると日米同盟の重要性、中国や北朝鮮を巡る課題を議論した。トランプ氏は日本の防衛費増額を評価した。
■中国との経済的互恵関係に転換するアメリカ
その時、ブリンケン米国務長官は4月25日、上海市で同市トップの陳吉寧・市共産党委書記と会談した。上海市の書記はかつて習近平総書記や李強首相も務めたポストである。陳は学者出身で、習国家主席の母校である清華大学の学長や北京市長などを務めた。将来、最高指導部入りする可能性も取り沙汰される。アメリカも「もしトラ」を考慮し、ブリンケン国務長官を中国におくり陳との関係構築をすることに中国政府へメッセージを送った。
経済の中心都市である上海を訪れることで、経済をめぐる問題や米中の経済協力を重視する姿勢を示したのである。
「もしトラ」で日本を取り巻く国際情勢は急変する可能性がある。その場合、旧知のプーチン大統領とは復縁し、米露接近となろう。その場合はウクライナ戦争は当然ながら終結しよう。中国に対しても懐柔姿勢となろう。現に、バイデン政権は中国との軍事的対話はもちろんのこと経済的相互依存を復活させようとしているのである。
軍事的アセットが枯渇し、中東情勢が長期化するとみているアメリカは、統合抑止戦略で同盟国を先兵として同盟強化を行いながら、自らは中国に対して「和」の戦略で臨んでいる。自ら米国の先兵となる日本にはもはや戦略をえがき、それを実行するエネルギーをもつ指導者はいない。今後の若き指導者に臨みをたくすしかいない。
■ロシアの中国もうで
そんな中、ロシアで大統領選で再選されたプーチン大統領は、当選し、次期任期就任後の初の外遊で中国を訪れ習近平国家主席と旧知の仲を温める。プーチンは3月の大統領選で勝利し、通算5選が決まった。5月7日の就任式後、最初の外国訪問先として中国を訪れる戦略的互恵関係を深化させるのである。プーチンは昨年10月にも訪中し習氏と会談し経済やエネルギー安全保障を巡る結束について確認している。
ウクライナ戦争でロシアは中国と接近し、もはやかつての冷戦時代の東側陣営が復活したような兆しがある。かつては、中国がロシアもうでをしていたが、今は、ロシアが中国もうでをする時代となった。ウクライナ戦争をロシア側は今後も長期化すれば、米国やNATOの力をそぐことが可能となる。中東はイランがひきうけてくれ、米国はヨーロッパ正面では2正面の戦いとなる。当然、アメリカは中国とはことを構えたくない。今回のブリンケンの中国訪問はその表れであるし、プーチンの中国訪問は西側体制の弱体化を狙った布石でもあろう。
このように大国が日本の目の前で冷戦後最も激しい「バランス・オブ・パワー政策」を展開するのにもかかわらず、日本は自国の地政学的な有利な状況をいかしきれず米国の先兵としてしか生き残れないのであろうか。
それを吉田茂の孫の麻生太郎元総理が担えるのであろうか。責任は重い。