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夷川餃子 なかじま(京都・烏丸御池)
あまり頻繁に連絡をすると暇だと思われそうなのが嫌で、北新地で会った夜から、LINEはしていなかった。実際に、ほぼ週一しかない休みは淀屋橋に出ている上に、普段の残業続きの身体を回復するために、定時でクリニックの勤務を終えた後もここのところは烏丸御池のマンションに直帰していた。1年目の分際でバイトを入れたことを後悔し始めたが、それがなかったらレミとも知り合えてなかったわけだし、「体力があるうちに稼いどけ」という先輩もいるくらいだ、と言い聞かせる。
8月の半ばになって、当直明けと1日休みの実質2連休が取れることになったので、レミに久々に連絡を入れると、「いつも来てもらってばかりで悪いから、次はそっちいくわ」との返事が返ってきた。ちょうど、明けの土曜日の夜、大学時代の友人らと会う約束があり、昼頃から夕方までが空いているという。夜ゆっくりはできないのか、と残念だったが、それならばと、先斗町の川沿いの店のランチコースを予約した。
当日の朝、帰宅して仮眠をとろうとすると、オンコールが鳴った。タイミングが悪すぎるが、まだ今からなら約束の13時に間に合うかもしれない。「呼び出しがかかって少し遅れるかもしれないから、もしあれなら先入ってて」と連絡をし、いつもの出勤よりはマシな服装でマンションを出た。
緊急手術が無事成功して時計を見ると、既に15時を回っていた。予想以上に長引いてしまったことで、仕事だから仕方ないとわかっていても、この後レミにどう言おうか困惑した。炎天下の中長時間待たせてしまい、怒って帰っているだろうか、1人で食事してくれていただろうか。思えば自分の恋愛は、学生時代からずっと仕方ないことに振り回されてばかりだった。ランチのラストオーダーの時間はとっくに終わっていた。
着替えてすぐに電話すると、全く怒った様子はなく、「今、新しくなった新風館見てたとこ。一人でコースもあれだし、予約してくれたお店には、私からキャンセルの連絡入れといた。お腹すいたし、この辺に友達が言ってた餃子屋さんがあるから行こう」と楽しそうに言うので拍子抜けした。
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送られてきたURLに書いてある住所まで急いで駆けつけると、レミは既に瓶ビールを飲んでいた。まだ昼間だというのに、店内は学生かと思うくらいの若者たちで賑わっている。レミは溶け込んではいるものの、やはり大人の女なのだな、と思った。京都にはただでさえ若者が多いので、垢抜けた女性が目立つ。
まずは、焼き餃子と生餃子をそれぞれ頼む。鮨の後だったので、正直次のデートへのハードルが上がっていたが、美味しそうに餃子を頬張る姿に安心する。
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「あ、これ食べたい。お腹すいたからこっちも。生麺ってどんなんやろ」
卵に目がないというレミは、エッグチャーシューと焼きそばを頼む。「あ、サトル君もお昼食べてないやんね?めっちゃ頼んじゃってるけど大丈夫?」
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チャーシューに煮卵が添えられたものが出てくると思っていたが、上に生卵が乗った肉が出てきたので驚いた。焼きそばも、生麺で作ったとあって、もちもちとして美味しい。
2人で3本目の瓶ビールを飲み終えたところで、「そろそろ行かなきゃ」とレミが席を立とうとする。時計を見るともう17時半だ。店内も、早めの夕食を取ろうとする人に変わってきた。今回も、短い時間だったし、京都に来てくれたのも、その後の約束があるからだとわかっているが、また会いたい、そろそろ次の段階に進みたいと思ってしまう。どんな店に行っても楽しそうにしてくれているのは、お酒が入っているからなのだろうか。
夜の約束は、通っていた大学近くの今出川だということで、地下鉄の改札まで見送った。階段を下りて曲がって見えなくなるところで、レミが振り返ってこちらにまた手を振る。
自宅からすぐそこの距離のこの店には、テイクアウトもあるらしく、今まで知らなかったことを後悔した。そして、それよりも、別れ際に、「遅くなりそうだったら、うちに来なよ」の一言が言えなかったことを強く後悔した。
お店情報
夷川餃子 なかじま
京都・烏丸御池
餃子・居酒屋
京都 夷川餃子 なかじま - 丸太町(京都市営)/餃子 | 食べログ (tabelog.com)