人間の絆(下巻)の絨毯の話が印象に残ったのでシェアです。
場面の説明としては、フィリップは、戦場で旧友ヘイワードが腸チフスで亡くなったことを知ります。この小説の主題と思われる人生観が伝わる文章でしたので、読み返す意味でも長めに書いていきたいと思います。
※こちらの書籍のP447くらいから10ページ弱の文章を抜粋しています
1. 紀元前から繰り返す「別れ」の歴史
フィリップはまず、友人ヘイワードの死に際して、美術館に向かいます。そこで石工の作品を見ていると、それぞれの作品に共通したテーマ、「別れ」に着目します。どんなに時代が変わっても、「別れ」というテーマは今後も続いていく普遍のテーマ。
2. 友情という模様
次に、友人ヘイワードの空虚だった人生に思いを巡らせます。友人ヘイワードに対して「彼が生きてきたことに何の意味もない」と評するのは流石にどうかと思いますが、フィリップにはお世辞とか優しさという概念は欠如しており、そして欠如していること自体は物語を読む上であまり重要ではないのですが、ヘイワードの関係を装飾せずに素直に描写しているところが印象的でした。
尊敬、幻滅、無関心。誰かとの関係性の中で、こうした推移を辿ることは、誰しもあるのではないでしょうか。
3. 故人の売れ残った詩集
フィリップの次は故人クロンショーの人生にも思いを巡らせます。フィリップ曰く彼の人生も、「全く無意味」だったそうです。他人の人生が無意味と評するのは簡単ですが、では「意味がある」人生とは結局何なのか。そういうことが気になってきます。
4. 人類はほんの一時期、この地球の表面を借りているに過ぎない
クロンショーからもらったペルシア絨毯のことを思い出し、フィリップは「人生に意味などない」と悟ります。人類を生命科学の視点から捉えます。人間という種は環境の条件から生まれたもので、環境的な条件が変われば潰える存在です。「人間は創造的な種で、個人個人も特別な存在」というのは誤った仮説で、「人間は他の種と同じ共同体。個人個人に意味などない」わけであり、となると個人の人生には意味などないのです。
「そして人類はほんの一時期、この地球の表面を借りているに過ぎない。」という表現も印象的でした。宇宙の話を持ち出すと人間という存在の小ささが際立って感じられますが、嫌なことがあった時はこの一節を思い出したいと思うと同時に、嬉しいことがあった時も「人生など無意味」と考えてしまいそうになります。いや、人類という種で見るとイーロン・マスクも自分も大差ないのかもしれません。
5. 絨毯織りの職人は何の目的もなく、ただ美しいものを作る喜びに浸ってあれを織った
この一節が、この書籍で1番好きなパートです。結局人生に意味はないのですが、「やりたければ、やればいい」ということです。
やりたければ、絵を描けば良いし、やりたければ、文章を書けばいい。やりたければ、子供を育てれば良いし、やりたければ仕事に従事すれば良い。
ただし、「何かをする必要もなければ、したところで何の益もない」という前提は覚えておく必要がありそうです。
6. 横糸は自分で選ぶ
ここも素敵な表現だと思いました。人生を絨毯と例えると、縦糸は人生の時の流れを表しており、縦糸自体はどこからともなく流れてくるもの。個人の意思でコントロールできるものではなく、突然終わりが来たりもする。
しかし、横糸は、自分でコントロールできるものです。人生という縦糸に対して、どの色の糸を用いて、どんな模様を描くかどうかは個人に委ねられているということでした。古今東西、完璧に美しい模様は、「それは生まれ、成長し、結婚し、子供を作り、パンを得るために苦労し、死ぬ、という模様」だそうですが、この模様にこだわる必要もありません。歴史上の著名な人物も、必ずしもこの模様のために有名だったわけでもありません。
今回、生成AIによって織物をしている人物を描いてもらいましたが、まさしく縦糸に対してどんな模様を描くかどうかは自分次第ということが視覚的に理解が得られてとても良いと思いました。
7. 幸福以外の尺度で考えれば良い
人生を幸福か、不幸かという1つの尺度で捉えると、人生は忌まわしいものと捉える可能性がありますが、人生は一つの芸術作品だと捉えることができれば、何か起こった時もまた絨毯に一つの模様が増えたとある意味楽観的に捉えることができます。
「これからは何が起ころうと、人生という模様が複雑になる動機が増えたのだと考え、死が近づいたら、その完成を喜べそうだ。」
まとめ
「人間の絆」を上下通して読んでみて、このペルシア絨毯に関するフィリップの考察が非常に印象的でしたので引用させていただきました。上下巻通して非常に面白い一冊でしたので、まだお読みで無い方は是非。
過去の記事ですが、読後の所感なども載せています。
ここまでお読みいただきありがとうございました!
おしまい。