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サモハンと京都へ/貨幣経済とインバウンドの終着駅
ここ10年で日本にやってくる外国人が増えた。
なかでも中国人の姿が目立つ。
「ああ、いきなりお金持ちになってパルプンテなんだ」
と一目でわかっちゃう人が多い。
筆者はそういう光景が好きである。
小さいころ「ジャッキー・チェン最高傑作」を10万回以上観ちゃったため、彼らに対する親近感が人一倍強いためだろうか。
カネ持ってんのに妙にソワソワしていて、新快速の中でキョロキョロして落ち着かない。
遠くの座席にいる仲間と大声でコミュニケーションをとる。
変な服。
トランクケースで4人掛けシートを占有し、然る後、マドハンド方式で仲間を呼び寄せる。
垢抜けなさ100パーセントのカップルがこれ見よがしにいちゃつく。
なんとまあ愛くるしい連中だろうか。
このチャイニーズ演ずる愛おしい温故知新喜劇こそが、近代貨幣経済の真髄にして「最終回」だ。
変な服の西進
近代貨幣経済は人件費が安く儲かる場所にカネと豊かさを集中させた。
リスボン、ジェノバ、アントワープ、ロンドン、ニューヨーク、カリフォルニア、東京…
次々と選択と集中を繰り返し、
西進しながら資本を増幅させてきたのだ。
これが資本主義&貨幣経済の必然である。
その過程で、
「ああ、いきなりお金持ちになってパルプンテなんだ」
という人々を多数産み落としてきた。
変な服。
でかい声。
垢抜けない、いちゃつきかた。
倫理と客観化能力が追いつかないまま富裕層になっちゃった人々が我先にと海外に飛び出す。
その最新の帰結が、
現下日本において中国人観光客として具現化されている。
かつてジェノバの成金はリスボンに行って後ろ指をさされた。
かつてアントワープの成金はジェノバに行って白眼視された。
かつてロンドンの成金はアントワープに行ってウザがられた。
かつてニューヨークの成金はロンドンに行って後ろ指をさされた。
かつてカリフォルニアの成金はニューヨークに行って白眼視された。
かつて東京の成金はカリフォルニアに行ってウザがられた。
そしていま、
北京くんだりの成金がトーキョーに来てワタシの眼前で「馬鹿でかいサングラスを紙テープで補強」している。
おっと、
うまくいかないため顔を真っ赤にさせてイラついている。
このように、
貨幣経済の中でとっておきの喜劇が場所を変えては繰り返されてきた。
だが、残念ながら「これでお終い」だ。
未完なるデスティニー
成金・中国人観光客のエキセントリックな言動は、日本人にとって滑稽に映る。
だがこれは「グローバル貨幣経済が凄まじい速さで一部だけに富を集中させること」の「証拠映像」である
貨幣経済は世の中を満遍なくゆっくりと豊かにすることはできない。
貨幣経済は世の中の一部だけをドラステイックに豊かにすることしかできないのだ。
そして、貨幣経済にもう新しい開拓地は残されていない。
21世紀初頭に解禁されたグローバル化によって、人件費の高騰が瞬く間に世界中へと行き渡り、「必ず儲かるエルドラド」が世界から喪失してしまったためである。
貨幣経済はグローバル化という「ニトロ」によって、その命脈を一気に使い果たしたのだ。
したがって、現状において中国人を主役に据えた貨幣経済新喜劇はこれにて見納めとなる。
ブッサイクの可視化
貨幣経済は数値価格によってモノコトの価値を可視化した。
良いモノ 1000円 → 存続
悪いモノ 10円 → 淘汰
これによって世の中の「良いモノ」と「悪いモノ」が一目瞭然になり、自然淘汰スピードが飛躍して、経済発展が急激に加速したのだ。
これが貨幣経済によって世の中が発展したメカニズムである。
しかしながら、
貨幣経済には大きな問題がある。
それはモノコトの価値は可視化されるが、
人間の価値、すなわち「倫理観」が可視化されないということ。
貨幣経済の中では、
倫理観が育まれる前に豊かになれてしまう。
本来、倫理観(公共合理性)が備わった人物から豊かになるべきだ。
なぜなら、倫理観(公共合理性)が高い人物は世の中を豊かにできるため、倫理観が高い人物に富を集中させることで世の中が豊かになるスピードに加速度がつくからだ。
あとは放っておいても世の中が豊かになっていく。
これが理想の世界像だ。
だが残念ながら、これまで倫理観が数値可視化されなかったため、この理想の世界像は実現できなかった。
だから、貨幣経済によって倫理観の如何に関わらず、焼畑農業的に地域限定で豊かになれる者が選ばれてきた。
したがって、非倫理的な人間でも富裕層の仲間入りを果たせているのだ。
非倫理的な人間が富を蓄え、その富で非倫理的に行動して世の中を貧しくする中で、それ以上に貨幣経済が世の中を豊かにしてきたからこそ近代貨幣経済は20世紀世界をプラマイで豊かにできていた。
しかし、それは限界に達した。
もう貨幣経済では世界を豊かにすることはできない。
その理由は2つ。
まず1つ目の理由が、貨幣経済発展に必須である労働力商品が安いフロンティアが残されていないということ。
次に2つ目の理由が、
増えすぎた非倫理富裕層によって世の中を貧しくするバイアスが大きくなりすぎたということ。
この文脈の中で「近代貨幣経済」が終焉し「現代情報経済」が登場してきたが…。
これについては他の記事に譲ろうではないか。
不完全な可視化/怒れる12億人のインド人たち
貨幣経済はモノコトの価値を可視化させた。
一方で、
貨幣経済は人間の倫理観を可視化できない。
「不完全な可視化」
これが貨幣経済の最大の特徴である。
この特徴によって近代世界は面白くなった。
成り上がった人々が右も左もわからないまま田舎から出てきて、都会の中でピエロを演じる。
現下日本にやってきてくれている中国人がまさにそれに該当する。
彼ら彼女らは貨幣経済の鬼っ子なのだ。
倫理は伴わないが豊かさはある。
物質的には豊かだが、精神的には空っぽ。
そうした人間を大量に量産できるのが貨幣経済の凄みでもあり悲しさでもある。
だが、それは思春期における心身のどうしようもない歪さに似て「いとおかし」だ。
倫理を伴わないが豊かさはある。
思春期のように誰もが通る道。
そう。
「誰もが通る道」のはずだった。
インドの人々も、ペルシャの人々も、パレスチナの人々も、
世界中の誰もが、
「倫理は伴わないが豊さはある」状態を経験するはずだった。
だが、「グローバル化」が全てをぶち壊した。
本来貨幣経済というものは、人類文明全体を4世紀以上にわたって豊かにできる優れた叡智だった。
なのにあろうことか、グローバル化という劇薬を投与したことで、
21四半世紀だけで豊かさを使い果たしてしまったではないか。
グローバル化によって、
「400年以上にわたる人類全体の豊かさ」が、
「四半世紀のほんの一握りの豊かさ」へと矮小されてしまった。
新快速の中で「馬鹿でかいサングラスを紙テープで補強しようとして、うまくいかず顔を真っ赤に紅潮させている」オノボリサンによって豊かさは「打ち止め」になったのだ。
目と鼻の先で、豊かさの西進がストップしたインド人12億の怒りたるや想像に恐ろしい。
不完全な可視化の不完全な服用
人類はとんでもない過ちを犯した。
大事に使えば半永久的に使えたはずの貨幣経済をたった四半世紀でオワコンにしてしまった。
おかげで次に「とんでもないもの」がきちまった。
「倫理観が数値可視化される」なんて、四半世紀前には想像だにしなかった。
しかし、
いまや「情報経済」がそれを可能にしている。
サモハンと京都へ
JR京都線はインバウンドが多いことで知られている。
日本の中でもインバウンド率が最も高い鉄道路線だ。
筆者の前で、「馬鹿でかいサングラスを紙テープで補強しようとして、うまくいかず顔を真っ赤に紅潮させていたが、ようやくあきらめた」サモハンさん(仮名)が鼻毛を抜きはじめた。
「太っていて落ち着きのない中国人像」はサモハンキンポーによって植え込まれたのだが、真実の像を抉っていた。
映画は事実より真なり。
新たな格言がまた一つ産声をあげたのだ。
それにしても、
映画の中で憧憬していたサモハンと京都まで行けるなんて夢のようだ。
忘れるはずがあろうか。
ジャッキーチェン史上最強作品たるプロジェクトAの中で、ジャッキー・チェンが自転車で突撃してくるのをヒラリと捌いて、「役満」をあがるサモハンの勇姿を。
ジャッキーチェン史上最強作品たるスパルタンXの中で、ラスボス(ベニー・ユキーデ)をジャッキー・チェンに押し付けてそそくさと「シルビア救出」に逃亡する勇姿を。
ジャッキーチェン史上最強作品たる五福星の中で、「香港ダメキャラオールスターズ」を向こうにまわして一歩も引かない怪演を。
ジャッキーチェン史上最強作品たるプロジェクトAの中で、海賊の親分を「ダイナマイトプラス四人がかり」でなんとか袋叩きにした大逆転劇を。
ジャッキーチェン史上初期最強作品たるヤングマスターの中で、ラスボス(ウォン・インシク)と劇中45分以上にわたり繰り広げられる死闘を。
大切なことは全部、週刊少年ジャンプとジャッキーチェン映画から学んだ。
カネ持ってんのに妙にソワソワしていて、新快速の中でキョロキョロして落ち着かない。
遠くの座席にいる仲間と大声でコミュニケーションをとる。
変な服。
トランクケースで4人掛けシートを占有し、然る後、マドハンド方式で仲間を呼び寄せる。
垢抜けなさ100パーセントのカップルがこれ見よがしにいちゃつく。
すべてが、いつか来た道。
そして、最後の道。
あと少しだけ、
この愛おしい貨幣経済の世の中を堪能していたい。
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