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むかし結核になって隔離されたときの話

コロナが爆発的に流行していますが、いまだに私の周りでコロナ陽性になった人がいません。コロナで入院した人の話を直接聞いたことがないので、「強制入院」と聞くと、どうしても昔の自分のことを思い出します。


大学3年生の時、肺結核と診断されました。もうずっと昔の話です。

4月に健康診断があったのですが 受けるのを忘れていて、
行こう行こうと思いつつ、気づけば6月。
大学の診療センターみたいなとこに行って問診票を書き、
胸部レントゲンを撮り、診察室へ入ると医者がひとこと。

医「なんでもっと早く来んかったんや」

私「は? 何ですか?」

医「結核や」

ちょうどそのころ、少し前、ニュースステーションで
結核が流行している、とのニュースを見てはいたのですが
まさか自分がかかるとは思ってませんでした。
コンビニの深夜バイトで抵抗力が落ちてたのでしょうか。

それですぐに専門の病院に行くように手配されました。

「堀川病院と京大病院どっちがいい?」

距離的には同じようなものでしたが私は迷わず京大病院を選びました。
日本最高峰(?)の医療機関がどんなもんなのか興味があったからです。
京大病院には結核の権威であるS木先生がいる、と言われました。

数日後、京大病院に行くなり、その権威Sから即入院を言い渡されました。

私「あのーできれば入院しない方向でお願いしたいんですけど・・・」

S木「うーん、でも入院しなくても家から出れないから一緒やで」

なんかよくわからんうちに入院手続が進み、
今日から入院できますかと聞かれ
無理ですと答えるとじゃあ明日来て下さいと言われ、
とりあえず親にだけ連絡して入院生活が始まりました。


結核患者というのは大きく分けて3種類います。

①感染してるけど発症してない人
②感染も発症もしてるけど排菌してない人
③感染も発症もしていて排菌もしてる人

排菌というのは要するに吐く息とか痰に結核菌が一定数以上含まれていて、
まあ言えば息するだけで結核菌を空気中に撒き散らしてる状態のことです。
私は、最初の入院の時は②でした。
って、2週間検査入院して初めて②と分かったのですが。

ちなみに①だと入院なしで服薬のみ、
    ②だと2週間検査入院のあと釈放、
    ③だと最低2ヶ月強制入院
となります。(だいたいの目安)

排菌してるかどうかは痰(たん)を採取して調べるのですが
私はこの時は痰がでるほど症状が進んでおらず、しかも21歳だったので
何もしなくても勝手に痰がからむ、ということもなく、
それでもがんばって痰らしきものを出して提出すると権威のS氏

「こーれーわーほとんどツバやなあ。ま、いいわ。」


がんばっても自然には痰は出てこないので
入院してからは特殊な機械を使って痰を無理やり採取しました。
特殊な機械といっても、加湿器にホースつけたみたいな物で、
ホースの先にトイレットペーパーの芯みたいなやつが付いていて、
それでその機械からは塩分を含んだ蒸気が出てきて、
トイレットペーパーの芯(看護師はマウスピースだと言い張る)をストローのようにして
その蒸気を何分間か吸ってると、なぜか痰が出てくるというものでした。(タイトル画像参照)

結局痰から結核菌は検出されなかったので
2週間で釈放されました。(その後は半年間、投薬による治療)

テレビでは、「患者は病棟から一歩も外に出られない」と言っていましたが、実際はちょっと違います。
まず、痰の検査で2回続けて陰性(あるいは陽性でも菌が微量)という結果が出れば外出許可が認められます。
この状態のときに 「大学の授業出たいんですけど」 とかいうと、
①大教室での授業に限る+②マスクして行く
という条件付きで外に出してもらえます。ヤッター

シャバの空気は本っっ当にうまいなと思いました。


ちなみに、肺の病気ですので当然、結核患者はタバコを禁じられます。
しかし屋上の物陰に行くと、よくタバコの吸殻が落ちているのです。
中学校とか高校みたいですね。

ある日のこと、屋上に行ってふらふら歩いていると、物陰で
同じ部屋の69歳のじいさんがタバコ吸ってました。あんたやったんか不良は。

結核患者といっても症状の重さは人それぞれで、
私と同じ病棟でも、死んじゃった人も何人もいるのですが、
しかしそうゆう症状の重い人はだいたい
詰め所(ナースステーション)の近くの部屋に入っています。
私と同室の人たちは、ゆうても大したことない人がほとんどでした。
そして、入院してきた時には咳とか熱とか出てたような人でも
病人らしいのはだいたい最初の1~2週間ぐらいで、
あとは普通に歩き回ったりテレビ見たりしつつ、
「ヒマや~退院したい~」と同じ言葉を毎日念仏のように唱えながら、
毎日毎食後に薬飲んで、
ただひたすらに菌が出なくなるのを待ちます。

もっとも、いったん菌が検知されてしまった人は、
そのあとたとえ一週間で菌が出なくなったとしても、
2ヶ月間は入院させられます。(薬も半年間飲まされる)
そうゆうもんなのです。

さて、この69歳のじいさんは なかなかの不良患者で、
とある日曜日、じいさんおらへんなーどこ行ったんやろ
と何となく思っていたら 夕方
普段パジャマ姿のじいさんが服着て部屋に戻ってきました。
じいさんはその頃まだ排菌していたので 外出許可はもらえないはずです。

私が「どっか行ってはったんですか」と聞くと

じいさんうれしそうに「ちょっと競馬場にな」 と。

確かに病棟のすぐ横には駅の入り口があり、この駅からは電車一本で競馬場まで行けるのですが、
しっかし、 よー行こうと思ったなー。
もし看護婦さんにバレたらメチャクチャ怒られるで。
怒られるっていうかアンタ排菌してるんやから人にうつるでしょうが。
しかも競馬場ってみんな健康状態悪そうやし
まったく迷惑な人だなー  
(とみんな思っているが外に出たい気持ちはすごく分かるので誰も特に咎めたりはしない。うらやましいとさえ思っている。)


私たちも近所のコンビニぐらいならこっそり行くこともありましたが、さすがに競馬場行こうとは思いもしませんでした。

しかし確かに日曜日は看護婦さんも少なくて、ちょっとセキュリティが甘くなってるのも確かなのです。

まあそんなわけで結核患者は一歩も外に出られない、ということもなかったのでした。
(本当は出てはいけません。病院側も厳しく管理しています。念のため。)


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