木々が語り掛けてくるような写真集: 畠山直哉『津波の木』
今年3月に出た畠山直哉氏の写真集『津波の木』をすぐに買いました。東日本大震災で津波に遭っても残った木々の姿を撮影したものです。岩手、宮城、福島の沿岸を巡ったそうです。
枯れたものもあれば、元気に茂っているものもある。枯れ木はまるで白骨のようにも見えます。
ページをめくるたびに、いろんな木の写真が現れる。立ち姿はさまざまです。1本だけで何かに抗うように屹立しているものもあれば、何本かが集まって身を寄せ合っているような木々もある。まるで夫婦のように見える2本の木もあります。
人間はほとんど写っていません。木そのものが、なにかを語りかけてくるような気がします。背景の空が美しいのも印象的です。曇り空も晴れた空も、繊細なグラデーションに見入ってしまいます。
木々の写りはあくまでもクリア。これは畠山氏の以前からの作風かもしれません。私は写真のことは詳しくありませんが、素人目で見てもとにかく画質がいいし印刷もいい。機会があれば写真展で大きなプリントも見てみたいです。
ところでこの写真集の中に、岩手県田野畑村で立ち枯れとなった木々の写真が1枚あります。見覚えがあるなと思ったら、昨年買った中村千鶴子『断崖に響く』という写真集にも同じ場所の写真がありました。といっても雰囲気は違います。中村氏のほうは、この地方に特有の「やませ」と思しき濃い霧に覆われた風景で、これもまた良いのです。田野畑村の海や盆踊りの風景、人々の笑顔などが美しい写真集です。
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