【プチ小説】小説家の恋愛事情


カフェで出会う

オレは26歳の営業マン。皆、オレのことを「カワヲロ」と呼ぶ。

市内のオフィス街で働いており、オフィスビル5階建ての3階に入居している会社だ。社員は50名。オレは、営業課長をしている。

部下は10名。その中でモヒャシと仲が良い。

オレとモヒャシは同い年で同期。仕事中でも敬語を使わない。

モヒャシは社長の息子。長身で細身のイケメン。髪型はツーブロック。ブランド物のスーツを着ている。

ある日、オレはカフェにいた。午前8時の頃だ。会社から徒歩10分。大通りから路地に入ると、カフェがある。

美味しいパンケーキとコーヒーが飲めると評判で、一度行ってみた。

古民家を改造したような建物で、正面はガラス張り。店員が2人いた。

どちらかがオーナーだろうか。店内に入ると、店員が「いらっしゃいませ、何名さまですか?」と聞いた。

オレは「1人です」とこたえた。店内は割と混んでいるが、カウンター席の1番奥に座った。

店員に「パンケーキとコーヒーをお願いします」と言った。

店員は「申し訳ありません。パンケーキは10時からになります」と言った。

現在、8時過ぎ。出勤前に立ち寄っているのである。

オレは「残念だね」と言って笑った。店員も申し訳なさそうにしている。

ただ、コーヒーは美味しかった。缶コーヒーと全然違う。コーヒーのことはあまり詳しくないが美味いと感じた。

30分ほど滞在し、そしてカフェを出た。

それにしても、店員は綺麗だった。ホールにいるのはおそらく店員。キッチンで料理を作っているのは店長か。

オレの想像だが。

8時半過ぎ、会社に入った。メンバーはほぼ揃っているが、1人だけいない。それはモヒャシである。ヤツはいつも、ギリギリに来る。

9時始業なので、8時59分までに来ればいい。周りはモヒャシを白い目で見るが、オレは気にしていない。

今日は8時55分頃来た。昨日より3分早い。

9時になると上長が挨拶をする。

上長はオレだが。このように挨拶した。

「みなさん、おはようございます。今日は金曜日。華金だ。週末で疲れただろう。今日、1日頑張れば明日は休み。頑張ろう」

と言った。とくに面白くもなんともないが、漫才ではないので、ありきたりな挨拶をする。

モヒャシが「カワヲロ、素敵なカフェがある。美人の店員さんだし、今から行かない?」と聞いた。

オレは「まだ仕事が始まったばかり。いきなりカフェに行くのか」と言って笑った。

オレは「まぁ、いいけど」と言った。オレは、基本、内勤で部下の監督をする。予定管理や仕事管理などが主な仕事である。

外回りより楽だが、その分、責任が大きい。メンバーがミスをしたら、一緒に行って謝罪をするし、メンバーが休んだら、代わりにオレが外回りをする。

「課長は机に座っているだけだから、楽でいいね」と影口を叩かれるが、「ならば、オレの座を奪い取れ」と思っている。

モヒャシは、出世欲がない。次期社長なのに大丈夫か。オレが心配したところで意味はないが。

モヒャシと歩いていると、朝に行ったカフェである。モヒャシに「オレ、今日の朝に行ったで」と言った。

モヒャシは「本当に?僕も行った。会えなかったな」と言った。

オレとモヒャシは再び、店に入った。店員は「あら?」と言った。

今、9時過ぎ。店はサラリーマンやOLが利用するが、始業している会社がほとんどの為、店内は空いていた。

モヒャシは「キッチンにいるのが店長の"キプラネ"、店員は"サネプココ"」と言った。

モヒャシに「なぜ、そこまで詳しいのか?」と聞いた。モヒャシは「なぜなら、初めて店に入った時、すぐに聞いた」と言った。

モヒャシは行動力がある。仕事でも発揮してほしい。

でも名前を聞けて良かった。オレは名刺を出し、挨拶をした。キプラネは「課長さんですか」と言った。モヒャシは「僕は平社員。一応、名刺をだしておく」と言った。

サネプココは、「課長って大変?」と聞いた。オレは「まぁ、楽な仕事はないよね」と言った。3人は「そうやな」と言った。

サネプココは「高校を卒業して、この店で働き始めたので会社のことはよく分からない」と言った。

サネプココに「なんなら会社で働いてみる?」と聞いた。サネプココは「いや、店があるから無理やわ」と言った。

オレは「そっか。では、気が向いたら言ってくれ。営業部は常に人員不足なのでマンパワーが足りない」と言った。サネプココは「了解」と言った。

キプラネは「サネプココ、もし、本当に会社で働いてみたいなら言って。社会勉強になって良いと思うので」と言った。

サネプココは「了解」と一言。モヒャシは「美人と働けるのは嬉しいな」と言って笑った。キプラネもそうだが、サネプココも美人である。

細身で長髪。メガネをかけ、優しい雰囲気を出している。店の雰囲気も良くする存在でもあり、明るくて優しい人だ。

10時になり、オレは「モヒャシ、そろそろ帰るぞ」と言った。モヒャシは「そうやな。これから外回りがあるし」と言った。

オレとモヒャシは「また明日」と言い、店を出た。

オレと、キプラネ、そしてサネプココは個人の携帯番号を交換した。これで気軽に連絡を取り合うことができる。

かなりの収穫だ。モヒャシは「どちらが好み?」と聞いた。オレは「どちらかと言えば、キプラネかな」と言った。

モヒャシは「そうか。良かった。僕はサネプココなので」と言った。オレは「あとは、相手がどう思うかやな」と言った。

ただ、オレは、今のところ、恋愛に興味はない。告白されたら考えるが、それはないのである。

しばらくして。

今日もキプラネとサネプココのカフェに来ている。最近は、朝の混雑を避けて、9時から1時間ほど滞在している。

パンケーキを食べる事ができる時間帯だが、食べている余裕はない。

すっかり顔馴染みで、まるで友達のように話している。モヒャシは来たりこなかったり。モヒャシは、外回りがあるのだ。

ただ、8時から45分ほど滞在している。カフェで会うことはあまりない。もっとも、同じ会社なので、会社では会うが。

ある時、モヒャシは「4人でどこかに遊びに行こうか」と言った。

オレの会社は平日9時〜17時までが仕事。基本的に残業はない。

土日祝日が休み。GWやお盆、年末年始など、大型連休も休みである。とても働きやすい会社である。

キプラネもカフェも同じ。営業時間だけ違う。今は、6時から15時まで営業している。なぜ、土日や連休が休みなのかと言うと、オフィス街にあるため、人通りが少ない。休みの人が多い。

サラリーマンやOLをターゲットにしているので、そのような日は来ない。開けても無駄である。

オレは「まぁ、オレはパスかな」と言った。モヒャシは「なんで?」と聞いた。オレは「休みの日はしたいことがある」と言った。

モヒャシは「それはなに?」と聞いた。オレは「小説の執筆だよ。今、ハマっていて」と言った。

モヒャシは「そうか。では無理やな」と言った。モヒャシに「3人で行けばいいやん」と言った。

モヒャシは「1人で2人の相手は辛い」と言った。オレは「そうか」と一言。

モヒャシは「諦めるよ」と言った。オレは「サネプココだけ誘って行けば?」と聞いた。モヒャシは「いや、恥ずかしいので無理」と言って笑った。

オレは「そうか、では遊びに行くのは無しやな」と言った。

モヒャシは「小説の執筆って楽しい?」と聞いた。

オレは「楽しいよ」と言った。続けて「スマートフォンでできるので便利。興味があるなら試してみるべし」と言った。

モヒャシは「なら、カフェで小説の執筆大会をしてもいいな」と言った。

オレは「そうやな」と言った。モヒャシは「スマートフォンを取り出し「少し小説の執筆をしてみる」と言った。

キプラネとサネプココも興味津々で聞いていた。午前9時30分の頃である。

モヒャシは「ヤバイ、楽しいかも」と言った。オレは「そうやろ。文章を書くのが好きなら、試してみるべし」と言った。

キプラネもサネプココも「私らもやってみる」と言った。それから毎日、17時から2時間程度、一緒に小説の執筆をした。

「小説家を3人も誕生させた。オレの功績は素晴らしい」と思った。これでいいはずだ。

モヒャシとサネプココ

モヒャシは「サネプココを遊びに誘うのは恥ずかしい」と思っていた。しかし、勇気を出して「今度の土曜日、予定ある?」と聞いた。

サネプココは「いや、小説の執筆をしようと思っているよ」と言った。

モヒャシは「良かったら、一緒に小説の執筆をしない?僕の家で」と言った。

サネプココは一瞬の沈黙のあと「いいよ。2人になるけど、たまにはいいかもね」と言った。

これでおうちデートが確定である。時間は11時から。モヒャシは、かなり嬉しがっていた。

「酒やお菓子、惣菜なんかも買っておくといいな」と思った。モヒャシは近所のスーパーで買うことにした。

チェーンのスーパーで24時間営業である。駐車場が100台程度あり、割と大きな規模か。コンビニより品数が多く、安いモノが沢山ある。

モヒャシはかなり買った。「お昼は弁当やな」と思い、弁当も買った。総額で5000円程度である。

遊びに行くことを考えたら安いモノである。

モヒャシは、会社から10分程度のところに住んでいる。一人暮らしだ。

サネプココも近いところに住んでいる。移動の時間があまりかからない。11時前にサネプココが来た。

モヒャシは「おはよう、どうぞ」と言った。サネプココは「キプラネも一緒に行きたいと言ったので連れてきたよ」と言った。

モヒャシは一瞬、眉間にシワを寄せた。しかし、快く家に招いた。

予定では、2人で小説の執筆をする予定だったので、それが崩れた。ただ、弁当を持ってくれていた。手作りである。

3人分用意されていて、スーパーの弁当は必要ない。3人は缶ビールをグラスに注ぎ、皆で乾杯した。そのあと、各々、スマートフォンを取り出して、小説の執筆を始めた。

モヒャシは、あることを考えていた。それは、サネプココに告白することだ。

今日、告白する予定だった。それを決行するかどうか考えていた。

2時間ほど経った頃。

モヒャシは、意を決して言った。モヒャシは「サネプココ、好きだ。付き合ってほしい」と言った。酒の勢いが入っている。

サネプココは「嬉しいけど、他に好きな人がいる」と言った。モヒャシは「誰?」と聞いた。

サネプココは「カワヲロが好きだ」と言った。すなわち、オレのことである。

モヒャシは「そうか。カワヲロか。絶対に負けるね」と言った。顔はモヒャシの方がレベルが高いが、オレより仕事はできない。

その辺あたりが、モヒャシは負けている。

キプラネは一瞬、眉間にシワを寄せた。モヒャシは、その点を見逃さない。

オレもそうだが、プレゼンの時は、人の表情を確認する。それが癖になっている。

モヒャシは「分かった。では、今からカワヲロを呼ぶ」と言った。

キプラネは「それ、いいね。カワヲロの意見も聞きたいし、呼ぼう」と言った。

モヒャシは、オレを呼び出した。オレは、小説の執筆中で、電話に出なかった。

モヒャシは「ダメだ。電話に出ない」と言った。サネプココは「確かカワヲロって、近所に住んでいたね。皆で行くか」と言った。

オレは会社から5分程度の賃貸マンションに住んでいる。家賃は高いが、贅沢しなければ暮らしていける。

通勤ラッシュがないので楽である。

3人はオレの家に来た。オレは「いきなり3人でどうした?」と聞いた。突然の来客に驚いたのである。

モヒャシは「電話に出ないから3人で来た」と言った。オレは「ごめん、ゾーンに入っていて、電話に出れなかった」と言った。

サネプココは「"ゾーン?"なにそれ?」と聞いた。オレは「集中力が高まって仕事が捗るみたいな感じだよ」と言った。

キプラネは「そうなのか。そんなのがあるのだね」と言った。

オレは「さ、散らかっているけど、どうぞ」と言った。モヒャシは「わ、家具はデスクとチェア、そしてベッドしかない」と驚いていた。

いや、冷蔵庫や洗濯機など生活家電はある。家具が少ないので、そう見えるのである。

当然、テーブルがない。3人の小説の執筆する場所は、フローリングに座ってするしかない。

言わば、"花見スタイル"である。3人は、適当に壁にもたれて、スマートフォンで小説の執筆を始めた。

2時間程度経った頃、「皆で乾杯しよう」と言い、皆に缶ビールを渡した。そして乾杯したのである。

オレは「そう言えば、2人の歳は?」と聞いた。2人は「26歳やで」と言った。オレは「オレらと同い年。敬語はいらないな」と言った。

もっとも、はじめから敬語を使っていないが。3人はそこそこ酒が入っていたが、オレは、今日、酒を飲むのは初めてである。

モヒャシが「サネプココ、なんか、カワヲロにあるやろ」と言った。サネプココは「ストレートに言うな」と言って笑った。

サネプココは「実は、カワヲロのことが気になっていて、もし良かったら、私と付き合ってほしい」と言った。

オレは一瞬の沈黙のあと「いいけど、相手にできないよ」と言った。平日は仕事があるし、休みの日はこうして、小説の執筆をしているだけ。遊びに行けないよ」と言った。

サネプココは「それでもいい。付き合ってほしい」と言った。オレはキプラネの表情を見た。少し沈んでいるか。

オレは百戦錬磨の営業マン。モヒャシとオレは人の表情を見逃さない。モヒャシも気づいているはずだ。

モヒャシは「まぁ、友達から始めたら良いのでは?」と聞いた。モヒャシは、もう、サネプココのことを諦めているのである。

オレは「いや、付き合うなら、結婚前提やな。年齢的に」と言った。

サネプココは「結婚前提でお願い」と言った。オレは「まぁ、いいけど」と言った。

キプラネは「では、モヒャシは私と付き合う」と言って笑った。

モヒャシは「そうやな。付き合うか」と言って笑った。2人に恋愛感情はない。

オレは一瞬、眉間にシワを寄せた。しかし、すぐにその表情を戻す。モヒャシは、気づいたか。

しかし、オレの方がレベルが高い。気付いていないはずである。

一気に、2組のカップルが誕生である。ただ、2組とも、オレの家で小説の執筆をしているだけである。

もしかしたら、今が1番良いのである。恋愛とかは、もはやどうでもいい。

そんなことを思っているのである。

小説家デビュー

28歳の冬。

1日を通して、暖房器具が必要になった。毎日、寒い中を通勤している。

オレとサネプココと、モヒャシとキプラネはカップルのままである。

まだ、結婚をしていない。休日になればモヒャシの家で行っている。

モヒャシの家には、テーブルがあり、4人で座って小説の執筆ができる。

11時頃から4人で小説の執筆を始め、お昼は14時と遅め。いつもキプラネが弁当を作って持ってきてくれるので、ビールを飲みながら、食べる。

これが幸せだった。

ある日、サネプココが「ネット販売しようかな」と言った。

小説の執筆をして、ネット販売することである。無料で会員登録すれば、販売できる。

良い時代になった。

モヒャシは「いいやん、それ」と言った。

オレもキプラネも「それいい。まずはサネプココで様子を見よう」と言った。サネプココはすぐにして販売を始めた。

サネプココは、小説家デビューである。「まぁ、私の彼氏が満足してくれたら良いだけ」と言って笑った。

彼氏は、すなわち、オレになるのだが。キプラネは一瞬、眉間にシワを寄せた。

モヒャシは「では、2番手行くぞ」と言い、モヒャシも小説のネット販売を始めた。

小説家が2人誕生である。オレとキプラネは慎重派。まだ様子見である。性格が似ている。

5時間程度経った頃、モヒャシがチャリンと収入があった。たった数百円だが、彼にとっては嬉しい出来ことのはずだ。

サネプココは「モヒャシ、すごい。私より早く報酬が発生した」と言った。

モヒャシは「いやぁ、こんなに早く売れるとは思わなかったよ」と言って笑った。

オレは「モヒャシができるのだったら、オレも初めてみる」と言い、ネット販売してみた。

小説はブログ記事と同じようにストックできる。常に最新版だけではない。削除しない限り、販売はずっと続く。

キプラネは「私は、まぁ、ネット販売はしないかな」と言った。サネプココは「なんで?」と聞いた。

続けて「張り合いが出て楽しいよ」と言った。キプラネは「まぁ、そこまで言うなら」と言い、ネット販売をスタートした。

一気に、小説家が4人になった。

しかし、キプラネは酔っていた。「カワヲロが好きだ。私と付き合ってほしい」と言った。

突然の告白に、一同、驚いた。サネプココは「カワヲロは私の彼氏。取られたら困る」と言った。

モヒャシは「でも、カワヲロはキプラネが好みって言ってたしな」と言った。

オレは「小説の話から、いきなり恋愛の話になるとは」と言って笑った。

モヒャシは「カワヲロとキプラネがくっつくと。オレにもチャンスがあるな」と言った。モヒャシは今でもサネプココが好きだ。

モヒャシは続けて「カワヲロ、どうなんだ?」と聞いた。

オレは「まぁ、今は恋人はどうでもいいかな。小説の執筆さえ出来ればいいしな」と言った。

サネプココは「そうそう。私もそれでいい。でも、私はカワヲロに惚れているけど」と言った。

モヒャシは、うなだれている。キプラネも同様だ。

オレは「そんなことより、小説家が一気に4人になったし、お祝いしよう。ピザでも取るか」と言った。

3人は「いいね」と言い、ピザを取った。大人数タイプだ。それを3つも取った。これで足りるはずだ。

ビールも補充し、パーティーがスタートした。オレらはネットで売れたか逐一確認をしていた。

上手い話はない。売れない。これで当然である。

オレらは"売れない小説家"である。モヒャシは「僕、専業になろうかな」と言った。

オレは「兼業でいいやん」と言った。どうやら、モヒャシは小説家で飯を食いたいらしい。

キプラネも「私も専業になる」と言った。サネプココは「店はどうするの?」と聞いた。キプラネは「売上悪いし、ぶっちゃけ、バイトを雇うのも厳しい」と言った。

要するに"サネプココは用済み"というお話である。

サネプココは「え?私にも生活があるので、いきなり言われても」と言った。

サネプココに「オレの会社に来るか?」と聞いた。しかし、サネプココも「なら、私も専業になる」と言った。

一気に3人の"専業"の小説家である。小説の執筆専門か。

モヒャシに「まぁ、モヒャシは仕事がイマイチやけど、もしかしたら、小説家で成功するかもな」と言った。

モヒャシは「そういうことなので、カワヲロ、退職するので、よろしく」と言った。

ただ、3人はかなり酔っている。果たして本心なのか。

酒の席は、気が大きくなり、大口を叩く人もいる。3人はどうか。

ただ、キプラネは本心だろう。本当に専業になるかも知れない。

サネプココは、オレの会社で働けばいい。そんなことを思った。

23時に解散し、長い1日が終わった。一気に専業の小説家が誕生。要するにフリーランスである。

オレは今のところ、専業になるつもりはない。憧れはあるが、現在、課長なので、"やすやす"と会社を退職できない。

そんなことを思った。

月曜日。

モヒャシが本当に辞表を提出した。オレは「モヒャシは社長の息子。簡単に辞めることは出来ないぞ」と言った。

モヒャシは「大丈夫。親父に了解を得たから」と言った。

オレは「本当に辞めていいのだな?生活はどうする?」と聞いた。

モヒャシは「大丈夫。貯金あるし」と言った。続けて「最悪、また会社に戻ればいいし」と言った。

さすがに強い。後ろ盾があるので、思い切ったことができる。

一方、キプラネのお店は。

入り口に閉店のお知らせが貼られていた。本気だったか。

オレは1人兼業。本業があるから、安心して小説の執筆ができる。"コケ"ても本業があるし、モヒャシと同じく後ろ楯があるのだ。

思い切り

3人が専業になって3ヶ月。まだ、収入は数百円らしい。3人とも、貯金を崩して生活をしている。

一方、オレは兼業でボチボチと小説の執筆をいている。

サネプココに「どこかに遊びに行こうか」と誘うが、「小説の執筆で忙しいので無理」と言われる。

もはやオレはサネプココの彼氏じゃない。関係は続いているが、もう、友達以上、恋人未満である。

ただ、キプラネからデートの誘いはある。2人で会うと、サネプココに不安が生まれる可能性があり、断っている。

ただ、サネプココに「キプラネと遊びに行って良いかな」と聞くことがあり、その時は「どうぞご自由に」と言い、キプラネと遊びに行くことにした。

ただ、そんなに規模がデカイ感じのデートではなくて、せいぜい、公園でノンビリするだけだ。

大型公園で、無料で利用できる。イベントのブースもあり、休日になるとイベントが開催されるとか。

ベンチはもちろん、テーブルがある席もあり、そこに座って小説の執筆ができる。

都市部の公園で、近隣住民や会社員などの憩いの場。ランチの場所にもなっており、中々、賑わっている。

今日は土曜日。キプラネが弁当を作って持ってきていた。

キプラネは「専業で収入面は厳しいけど、向いているかも知れない」と言った。

オレは「そうか。良かったやん」と言った。オレは「オレ、小説を買って読んでるよ」と言った。

キプラネは「え?そうなの・・・。嬉しいような恥ずかしいような」と言って笑った。

オレは「よく出来ていると思うよ。このままがんばれ」と言った。

キプラネに「ところで、1作品、何日かかる?」と聞いた。

キプラネは「だいたい、3日くらい。最近は1週間経っても小説の執筆ができない時もあった」と言った。

オレは「そうか。中々、厳しいのか」と言った。

キプラネは「自分が選んだ仕事なので、この先も頑張るよ」と言った。

オレは「応援しているぞ。頑張れ」と言った。キプラネは「ありがとう。頑張るね」と言った。

オレは「実は、オレも専業を狙っていて」と言った。

続けて「1年くらいは何もしなくても暮らせるので、オレも専業になろうかな」と言った。

キプラネは「いいね。一緒に頑張ろう」と言った。

オレは「今、かなり悩んでいるところ。でも、今、決心がついた。

続けて「オレも専業になるよ」と言った。

また1人、専業の小説家の誕生である。

オレは「実はオレ、そこそこ小説でご飯を食べることが出来るだけの収入がある」と言った。

続けて「さっき、1年くらいは何もしなくても大丈夫と言ったけど、これもあって、生活は安定している」と言った。

あとは思い切りの良さを出せば、いつでもデビューできる」と言った。

キプラネは「どうやって稼いだ?」と聞いた。オレは「恋愛小説専門。他のジャンルに手を出さない」と言った。

続けて「あれもこれも手を出すと、かえってマイナスになるのかって思っているよ」と言った。

「専門性を持つと良いのだ」と言った。少し熱く語った。

キプラネは「そうか。1番書きやすいモノを専門的に書くといいってことか」と言った。

オレは「そうそう。それ。自分の作風を持つことだね」と言った。

キプラネは「ありがとう。かなり勉強になった」と言った。

オレは、「ただ」と前置きをして「あくまでオレの場合は。人によって異なる」と言った。

キプラネは「カワヲロは1作品、どれくらいかかる?」と聞いた。

オレは「5時間くらいやけど」と言った。

続けて「今は、仕事前と仕事後に小説の執筆をするので。毎日小説の執筆をするのは厳しい場合もある」と言った。

さらに「夜は接待や交流会もあることがあるし、仕事前は割と時間があるけど、仕事後は厳しい場合もあるね」と言った。

キプラネは「私は1日12時間くらい。結果がすべてか」と言った。

オレは「その通り。結果が全て。時間をかけたら必ず成功するとは限らない」と言った。

キプラネは「ありがとう。かなり勉強になった」と言った。

キプラネは「少し散歩しよう。天気がいいし、ベンチに座るだけではもったいない」と言った。

オレは「そうやな」と一言。キプラネはオレの手を握り、そして散歩した。

側から見ると、カップル。実際は、カップルなのか、友達なのかわからない。

オレは「噴水の前で「キプラネ、オレと付き合ってくれ」と言った。

キプラネは「え?もう、カップルだと思っていたけど」と言って笑った。

ただ、オレは「これはサネプココと別れたらおのお話」と言った。

キプラネは「そうやな。彼女と別れないと、私と付き合えないからね」と言った。

オレは、その足で、サネプココの家に行った。中に入ると、モヒャシがいた。「カワヲロ、僕、サネプココと付き合う。いいよね?」と聞いた。

オレは「もちろん。それでOK。オレもそうであると嬉しかったので」と言った。

これでオレとキプラネは付き合うことになったのである。

同棲すること

29歳の秋。

朝晩はかなり涼しくなった。日中はまだ暑い。しかし、日に日に涼しくなっていく。

オレは、寒いのが苦手なので、これからは厳しい季節になる。

オレはキプラネと同棲をしている。今、オレは小説でご飯を食べることが出来るようになり、キプラネを養っている。

が、キプラネもまた、オレほどではないが、そこそこ稼いでいる。

小説家のカップルである。たまにモヒャシと話すが、サネプココ含め、中々厳しいらしい。

そこで、モヒャシは復職し、サネプココは専業主婦みたいになっているとか。2人とも兼業で頑張っているようである。

オレとキプラネは運が良かったか。そんなことを思っている。

モヒャシは「カワヲロ、会社に戻ってこい」と言った。

しかし、オレは復職したくてもできない。半ば強く退職を願い出て、無理を言って退職させてもらった。

今さら、戻れないのである。今は、小説の執筆で、稼ぐしかない。

もちろん、今、稼げているわけだが。ある日、キプラネが「私、小説家をやめて、カフェをまた始めようかな」と言った。

キプラネのカフェは持ち家を改造したモノであり、今も定期的に行って掃除をしている。

オレは「いいやん、それ。オレ、毎日、そこで仕事をするよ」と言った。

キプラネは「また、サネプココと一緒に働こうかな。それが良いかもしれない」と言った。

オレは「きっとサネプココも喜ぶと思うよ。専業主婦らしいけど、もしかしたら、"一緒に働きたい"と言うかもしれない」と言った。

ただ、サネプココを退職させたのはキプラネ。サネプココがどう表っているからは、彼女にしかわからない。

キプラネはサネプココに電話した。暫くぶりの頃である。

キプラネは「サネプココ、久しぶり、元気?」と聞いた。サネプココは「キプラネ、久しぶりやな」と言った。

キプラネは「実は、カフェをもう1度したいと思っているけど、一緒にしない?」と聞いた。

サネプココは一瞬の沈黙のあと「嬉しいけど、今はいいかな。専業主婦も中々忙しいし、小説の執筆も忙しいので」と言った。

キプラネは「そっか。了解。お互い頑張ろうね」と言い、電話を終えた。

キプラネは「ダメだった。1人でカフェを経営するのは厳しいので、カフェは諦める」と言った。

オレは「そうか。小説の執筆を頑張れってことだよ」と言った。

キプラネは「でも、今、カフェを経営したいと思っているので1人でやってみようかな」と言った。

オレに反対する権利はない。結婚していれば、物申すことはできるが、まだ結婚をしていないので、キプラネの自由である。

オレは「まずは狭く経営することだね。要するに1人でカバーできる範囲ですることかな」と言った。

キプラネは「分かった。では、中途半端な時間帯にしようかな。前は、9時から10時、14時から15時は1人でカバー出来るくらいだったので、その時間で始めてみようかな」と言った。

オレは「いいね。それで行こう」と言った。キプラネはまた、兼業で小説家をすることになった。

1ヶ月後。

予定通り、キプラネはカフェをオープンした。案の定、客は少なく、1人でカバーできる具合であった。

客がいない間は、小説の執筆をし、中々充実した時間を過ごしていた。

一方オレは、同棲はしているが、キプラネがいると、少し集中力にかけていた。

キプラネは1日に2時間程度、店を経営するが、カフェに8時から15時までいた。

その時間は1人である。清々しい気持ちになっていた。

このくらいの距離感が良いのかもしれない。ちなみに、ご飯は個人で食べる。

オレもキプラネも食べ物は自分で用意する必要がある。

キプラネは自炊をするので、おかずを分けてくれるが、それは1週間に1回、あるかどうかだ。

オレはもっぱら、スーパーのモノである。

低価格が売りのチェーンのスーパーで、店内は広く、通路も広い。食品はもちろん、惣菜や弁当などがたくさんある。

コンビニより安く、財布に優しい。

今がちょうど良く、理想的だが、オレの役割は掃除をすること。毎日ではないが、週に1回、1時間ほどかけて掃除をする。

前は当番制だったが、キプラネが外で働いているので、オレが担当になった。

面倒だが、気部転換にもなるので、今のところはこれで良いと思っている。

3ヶ月後。

キプラネは「やはり、カフェは閉める。コストがかかるし、儲けもない。やるだけ無駄」と言った。

オレは「たった3ヶ月。これからでは?」と聞いた。キプラネは「いや、もうやめる」と前置きをして「カフェに住まない?」と聞いた。

持ち家で、2階は居住スペースがあり、2人で暮らす分には問題ない。

オレは「まぁ、いいけど」と言った。オレは「では1階のカフェスペースで小説の執筆ができるな。なんか新鮮」と言った。

キプラネは「もちろん、自由に使ってくれていいよ」と言った。

オレらはキプラネのカフェで暮らすことになった。これで良いはずだ。

マンションは賃貸で毎月家賃を払うが、持ち家なので、それはない。

財布に優しいのである。

兼業の小説家

現在、モヒャシは兼業の小説家である。昼間は会社で働き、そして、夜は小説の執筆をしている。

中々忙しいが、彼は満足しているのである。家に帰ればサネプココがいるし、それで満足だった。彼らもまた、同棲をしている。

サネプココは専業主婦のようになっていて、あとはもう、結婚するだけである。

ある日、モヒャシは、サネプココに「明日、両親に会って欲しい」と言った。

サネプココは「え?明日?突然なんで?」と聞いた。

モヒャシは「いや、もう、そろそろ結婚していいかなって思って」と言った。

続けて「僕、会社と小説家の両立が出来ているので、生活基盤ができた。ほんと、あとは結婚するだけだ」と言った。

サネプココは「悪いけど、今は結婚を考えていない。何故なら、今でも"専業の小説家"になりたいので、結婚すると色々と縛りがあって嫌だ」と言った。

モヒャシは「では、別れようか、僕たち」と言った。

サネプココは「いいよ。別れようよ」と言った。続けて「ここは私の家。荷物をまとめて出て行って欲しい」と言った。

モヒャシは「分かった。長い間、ありがとう」と言い、荷造りをして、1時間後、出ていった。

サネプココは1人、泣いた。誰かに"ぶちまけたい"と思い、オレに電話した。

サネプココは「カワヲロ、実は、モヒャシと別れた」と言った。

オレは「え?なんでまた?」と聞いた。

サネプココは「結婚の話になって、私が断ったのが理由だよ」と言った。

オレは「そうか。では、この先、どうする?」と聞いた。サネプココは「とりあえず、実家に帰る」と言った。

サネプココの実家は電車で3時間ほどの地方である。都市部から移動するので、それくらいの時間がかかる。

オレは「では、3人で送別会をするか」と言った。サネプココは「ありがとう。トコトン飲みたいので、ビールを沢山買っておいてね」と言って笑った。

オレは「任せとけ」と言った。

しばらくして。

今日はサネプココの送別会である。キプラネのカフェで行うことになった。

3人で乾杯し、サネプココはすでに泣いている。結婚がなくなったのと、オレらから離れるので、寂しいのだろう。

キプラネは「な?やっぱり、うちで一緒に働こう。住むのは、カフェの2階で私と一緒に暮らしたらいい」と言った。

オレは「オレはどうなる?」と聞いた。2人だと余裕があるが、3人になると、厳しい。

キプラネは「カワヲロは、賃貸のマンションに引っ越し。今の収入で大丈夫ななず」と言った。

オレは「まぁ、そうだが」と言った。サネプココは「ありがとう。でも、一旦、実家に帰るよ」と言った。

それが良いだろう。一旦、頭を冷やしたほうが良い。

キプラネは必死で止めるが、サネプココの心に刺さらない。結局、サネプココは実家に帰るで落ち着いた。

オレはモヒャシに電話した。「モヒャシ、結婚、もう少し先に伸ばせないか。彼女も"結婚しない"とは言っていない。まだ、時期尚早だ」と言った。

モヒャシは「そうそう、少し焦りすぎた。また、サネプココと"ヨリ"を戻したい」と言った。

オレは「今すぐ、キプラネのカフェに来い。本人が目の前にいる」と言った。

モヒャシは「そうする」と一言。

30分後、モヒャシが来た。サネプココは泣きすぎて、顔がグチャグチャになっている。

モヒャシは「僕が悪かった。もう1度やりなおさないか」と言った。

サネプココは「分かった。それでお願いします」と言った。

これで彼らは、元に戻った。"やれやれ"である。

彼らはまた、同じ場所で暮らし始めた。今、彼らにわだかまりはない。

2人とも兼業で小説家をしている。思えば、専業で小説家をしているのは、オレだけだ。

専業でも、辛いことはある。例えば、これはまぁ、オレ限定かもだが、休みがないこと。

誘いがあっても小説の執筆を取るので付き合いが悪くなること。

兼業であれば、収入が安定し、精神的に楽だ。ただし、フリーランスは、自由に時間とお金を使えるのがメリット。

結局、フリーランスになるので、自己責任である。

フレッシャーあるが、オレは元百戦錬磨の営業マン。メンタルは強いのである。

プレッシャーを跳ね返す。今後もそれで行くだろう。

キプラネの決断

32歳の春。

桜が咲き始め、いよいよ春である。

出会いと別れの季節。

花見客も増え、花見をしながら酒を飲むのが楽しい時期である。

オレとキプラネは、相変わらず同棲をしている。ただ、オレはカフェに住むのはやめて、賃貸でマンションを借りた。

いくら好きでも日常的に一緒にいると、お互い、少し疲れる。

それを2人で話し、お互い「了解」になった。今も円満である。

ある日、キプラネに出版社から連絡があった。オレもそうだが、キプラネも読者から感想のメールを受け付けている。

出版社はそのメールで、問い合わせてきた。メールの文面はこうだ。

「キプラネさま、初めましコールラビと申します。突然ですが、弊社と一緒に本を出版しませんか。ご連絡をお待ちしております」

キプラネはテンションが上がった。オレに「カワヲロ、私、本を出版するかも」と言った。

オレは「お、良かったやん」と言った。

続けて「でも、本物かどうか分からないな」と言った。キプラネも「そうそう。そこが心配だよ」と言った。

オレは「とりあえず、返信したらどうやろ」と言った。キプラネは「そうするね」と言った。

キプラネはメールでこう書いた。

「コールラビさま、初めまして。つきましてはお話をお聞きしたいので、ご連絡ください」

キプラネは、個人の携帯番号と、メールアドレスを伝えた。

ほどなくして。

メールが入った。

「キプラネさま、お世話になっております。ぜひ、お話をさせてください。つきましては、弊社にお越し頂けないでしょうか」

出版社は家から1時間程度の市内中心部。本物の担当者だった。キプラネは「明日、13時時から会う事になったよ。楽しみだ」と言った。

オレは「頑張れよ」と言った。少しだけ嫉妬している自分がいる。オレは「ついて行こうか」と言った。

キプラネは「本当?心強い。是非お願いしたい」と言った。オレは「では11時頃に出て、ランチしてから出版社に入るか」と言った。

果たして、今回の話はまとまるか。

そんな事を思った。

12時50分。

出版社は自社ビルで、1階は商業施設となっていた。待ち合わせは、その商業施設のカフェである。

なぜ、社内にしないかと疑問に思ったが、今回はカフェである。担当者と会って名刺交換をした。コールラビが「こちらの方は?」と聞いた。

オレも名刺を出し、名刺交換をした。そのあとオレは「彼女のボディガードです」と言って笑った。

コールラビも笑っている。女性で、キプラネに劣らず美人。決定的に違うのは、コールラビは「いかにもキャリアウーマンという話である。

ブランド物のスーツを着て、長髪の細身、眼光鋭くメガネをかけている。若干、プライドが高そうだ。

オレは「横で聞いているだけなので、2人で進めてください」と言った。

コールラビは「早速ですが、弊社に属して小説家をしてもらいたいです」と言った。フリーランスではなくなる。ただ、仕事を貰いやすいだろう。

少しは安定した生活になりそうだ。コールラビは「ただし、ネット販売は辞めて頂きます」と言った。

キプラネは一瞬、眉間にシワを寄せた。オレはその表情を見落とさない。キプラネは「カワヲロ、どう思う?」と聞いた。

オレは「問答無用で嫌だね」と言って笑った。コールラビは「どうしてですか?」と聞いた。

オレは「自由に働けないからですよ。たとえば、ネット販売に納期はありませんが、出版社の仕事となると、おそらく納期がありますよね?」と聞いた。

コールラビは「確かにそれはあります」と言った。オレは「なので、私だったらお断りします」と言った。

続けて「キプラネがそれで良いなら、私は口を出しません」と言った。

キプラネは「話はわかりました。持ち帰って検討します」と言った。

コールラビは「良いお返事をお待ちしております」と言った。

キプラネは「カワヲロ、どうしよう」と言った。オレは「好きにしたらいいやん」と言った。

続けて「でも、オレなら契約しない」と言った。会社組織で働くようなモノ。オレは嫌だね」と言った。

フリーランスを経験すると、組織で働くのは辛い。自由で良いのである。

キプラネは「決めた。私は契約する」と言った。オレは「そうか、分かった」と言った。

フリーランス仲間が減って寂しいが、仕方がないのである。オレ以外は、皆、兼業である。

キプラネは間も無くフリーランスでなくなる。仲間がいなくなった。

それもまた、いい。

しばらくして。

キプラネは出版社と契約し、依頼あれば執筆をしていた。仕事が目白押しで、毎日、朝早くから夜遅くまで、ひたすら小説の執筆をしていた。

いつしか、休みも合わなくなり、遊びに行っても仕事をしている。「これはダメだ。別れよう」と思った。

本人には言わないが、静かに去ったのである。

そして今は、1人で南の海が見える地方へ引っ越した。親兄弟には知らせたが、3人に教えることもなく。

電話がかかってきても、あえて、その話はしない。キプラネからの連絡はない。付き合いは消滅したようだ。

それもまた、いい。

復縁、迫る

冬。

1日を通して寒い。海風が冷たく、外に出たくない。大半はネット通販で事足りるが、日用品やちょっとした買い物には行く。

近所にスーパーやコンビニ、そしてカフェがあるので便利だ。

フリーランスなので、自由に暮らせる。

ある日、キプラネから電話がかかってきた。「カワヲロ、今、どこ?家に行ったけど、表札がかわっていてビックリした」と言った。

オレは「あ、オレ、引っ越した。言ってなかった?」と聞いた。それは嘘である。

キプラネは「私ら、自然消滅でいいやんな?」と聞いた。オレは「まぁ、そうなるね」と言った。

キプラネは「最近、やっと時間が作れる。それまではひたすら小説の執筆をしていた。楽しいけど辛いね」と言った。

オレは「そうか、お疲れ。オレも仕事があるので、この辺で失礼するよ」と言い、電話を終えた。

「まぁ、フリーランスは自分の裁量でできるので気軽だけど」と思った。

ほどなくして。

また、キプラネから電話がかかってきた。「カワヲロの顔を見たいので会えないかな?」と聞いた。

オレは「めんどくさいな」と思った。ただ、元カノだ。ないがしろにはできない。

オレは「いいよ。会おうか」と言った。オレとキプラネの距離は少し離れいている。

オレは「もし良かったら家に来る?」と聞いた。キプラネは「それはちょっと」と言った。

キプラネは「この前、出版社のコールラビと打ち合わせしたカフェでどうやろ?」と聞いた。

オレは「分かった。ではいつにする?」と聞いた。キプラネは「明日の14時でどうやろ。出版社で仕事があって、そのあとなら大丈夫なので」と言った。

オレは「分かった」と一言。ただ、オレは「家から特急電車で1時間の旅。まぁ、仕方ないな」と思った。

同時に「特急電車に乗るのは久しぶりなのでワクワクする」と思っていた。

翌日。

オレは、12時発の特急電車に乗った。個室にしたので、少し高い。フリーランスになって、初めて予約した個室。かなり楽しみだ。

また、スマートフォンと無線キーボードで、小説の執筆をした。快適である。

13時過ぎ。

出版社の最寄り駅に着いた。カフェに入るのは早すぎる。「ファストフード店で食事をしよう」と思った。

チェーンのファストフード店で、24時間営業である。Wi-Fiや電源があり、ノマドワーカーがこぞって来店する。コーヒーが低価格で飲めると評判がある。

バーガーのセットを買った。期間限定である。30分ほどで終わり、いい時間になってきた。

13時50分頃、カフェに入った。カウンター席に座ってノンビリとしていた。14時になり、キプラネは来ない。

30分後。来ない。電話をかけても繋がらない。オレは「帰ろう」と思った。

スマートフォン電話帳で着信拒否して帰った。そのあと、どうなったのかは分からない。

「場合によっては復縁を迫るかも」と思ったが、その話はなくった。オレの家の住所を教えていないので、来ることはできない。

完全に縁が切れたかに思えた。

数日後。

モヒャシから電話がかかってきた。モヒャシは「カワヲロ、この前、キプラネと会う約束をしたけど、ダメやったらしいな」と言った。

オレは「そうそう、30分経ってもこないし、電話も繋がらなかった。オレも忙しいので、それ以上は待てなかった」と言った。

モヒャシは「まぁ、仕事していたらそういう時もあったやん。大目にみないと」と言った。

オレは「連絡が取れない場合、逃げたか都合が悪くなったか。その程度しか考えていなくて、オレの選択は間違ってないよ」と言った。

モヒャシは「また、キプラネが会いたいって言っているぞ。会ってくれないかな。今度はちゃんと"まもる"から」と言った。

オレは「いや、もういいよ。会わない。じゃ」と言い、電話を終えた。

これでいいはずである。もう付き合わない。ついでにモヒャシも着信拒否にした。あとはサネプココだけか。

サネプココも電話をかけてくるかもしれない。まとめて着信拒否にしたのである。

これで1人になった。少し寂しい気もするが、縁の切れ目だ。これで行く。1人で気楽にフリーランスで小説の執筆をする。

これで良いはずだ。

弟子現る

オレは今、小説のネット販売をしている。読者からのメールが来るが、大半は批判と誹謗中傷である。

また、モヒャシやキプラネ、そしてサネプココからと思われるメールも来る。

基本的にスルーするが、ある1人の女性がメールをした。しかも何度もだ。名前は「シュスラン」。可愛らしい名前である。

文面は毎回、「弟子にしてください」の一点張り。かなりシツコク来る。「何かの勧誘か」と思い、無視を続けた。

しかし、シツコイ。負けたオレは「一度会いましょう。場所はどこが良いですか?」と聞いた。

シュスランは「できれば、お邪魔したいです」と言った。シュスランはどこに住んでいるか分からない。しかも、家に住所を教えたくない。

そこで、オレの最寄り駅にした。待ち合わせは20時。オレは「夜型人間で、18時から6時まで働いている。

それくらいの時間がちょうど良いのだ。

ほどなくしてメールで電話番号とメールアドレスを知らせてきた。オレは特に教えず。オレは警戒心が強い。ただ、見分けが付くようにヘッドバンドを身に付けることにした。

会うのは明日。どんな人か楽しみだ。

翌日。

今日は20時からシュスランと会う予定。少し緊張しているが、「どんな人だろう」と思い、ワクワクしていた。

場所はファストフード店。安く済むし、適度にワイワイガヤガヤしているので、変に気を使う必要はないし、会話を聞く人もいないだろう。

19時50分頃、オレは店の前にいた。すると、1人の女性が声をかけてきた。

「もしかしてカワヲロさんですか?」と聞いた。オレは「シュスランさん?初めまして」と言った。

2人ファストフード店に入り、「ご飯食べた?」と聞いた。シュスランは「いえ、何も食べていません」と言った。

オレは「ご馳走するので、何でも好きなモノを頼んで」と言った。シュスランは「本当ですか?ありがとうございます」と言った。

オレはアイスコーヒー、シュスランはバーガーのセットとチキンナゲットにした。

オレは「ガッツリ系か」と思った。シュスランは美人だ。小柄で髪型はボブ。二重で目がクリッとしている。癒しのオーラを出す女性だ。

シュスランは「頂きます」と言い、ガツガツ食べ始めた。食べっぷりがいい。

シュスランは「カワヲロさんは彼女がいますか?」と聞いた。いきなりプライベートな質問だ。

オレは「昔はいたけど、今はいないよ」と言った。シュスランは少しホッとしているようだった。

オレは「歳はいくつ?」と聞いた。女性に失礼な質問か。言ってしまったので取り返しはつかないが。

シュスランは「28歳で独身。彼氏募集中です」と言って笑った。シュスランは「実は、男性と付き合ったことがないのです」と言った。

オレは「本当に?彼氏がいると思ったよ」と言った。シュスランは「好きな人は今、出来ました」と言った。

オレは「誰?先ほどの店員?」と聞いた。シュスランは「今、私の前で座っている人です」と言った。

オレは「お、オレのこと?」と聞いた。シュスランは「一目惚れしました。付き合ってください」と言った。

オレは「まぁ、いいけど」と言った。オレの好みでもあったので、とりあえずキープだ。

シュスランに「では、今日からオレの彼女。言うことを聞いてくれ」と言った。シュスランは「承知しました」と言った。

オレは「今から、家に帰って小説の執筆の指南をする。さっさと食べて行くぞ」と言った。

シュスランは「最終の特急電車に乗り遅れます」と言った。オレは「そんなもん、オレの家に泊まればいい」と言った。

シュスランは「はい、喜んで」と言った。しかしオレは「シュスランのことをあまり知らない。帰ってから聞くつもりだ。

家に着いた。

オレはミニマリスト。家具はデスクとチェア、そしてベッドのみ。生活家電はあるが、家具はそれだけだ。

しかし最近「折り畳みのテーブルが欲しいかも」と思い、ネットで買っていた。

ご飯を食べるときに使っている。

シュスランは「何もないですね」と言って笑った。オレは「まぁ、やはりミニマリストなので、モノをできるだけ置かないようにしているよ」と言った。

折りたたみテーブルを出して、「ビールでいい?」と聞いた。シュスランは「はい。私、強いですよ」と言って笑った。

オレ「酒に強い。どちらが先に"へばる"か競争やな」と言って笑った。

オレは酒に強い。昔、接待で自分が酔っていたら接待にならない。自分の限界を知っているから調整出来る。

もっとも、今日は接待される側か。

シュスランに「仕事は何を?」と聞いた。シュスランは「今はしていません。貯金を崩して生活をしています」と言った。

オレは「そうか。それで小説で稼いでみたいというお話か?」と聞いた。シュスランは「そうです」と言った。

オレは「まずは兼業でどうだ?」と聞いた。シュスランは「いえ、専業にします」と強く言った。「お前のやる気は分かった。てか、オレら恋人同士やし、敬語は必要ないな」と言って笑った。

しかし、シュスランは「人生の先輩でもあるので、敬語を使います」と言った。

オレは「まぁ、自由にしてくれて良いけど」と言って笑った。シュスランは「今後、"師匠"と呼びますので、よろしくお願いします」と言った。

オレは「そんな大層な事じゃないけど、自由にしてくれ」と言った。シュスランは「師匠、まずは何から始めたら良いでしょうか?」と聞いた。

オレは「では、まず海を題材にした小説の執筆をしてくれ。自由に書いていいぞ」と言った。

シュスランは「スマートフォンで書いていますが、問題ないでしょうか?」と聞いた。

オレは「オレもスマートフォンで小説の執筆をしているので問題なし。シュスランはスマートフォンのキーボードで小説の執筆を始めた。

オレは「はい、不合格」と言った。シュスランは「え?なぜでしょうか?」と聞いた。オレは「パソコンでタイピングはできるか?」と聞いた。

シュスランは「もちろんでできます」と言った。オレは「ブラインドタッチはできるか?」と聞いた。シュスランは「できます」と言った。

オレは「では、明日、スマートフォンで使えるキーボードを買いに行く。お供せい」と言った。シュスランは「承知しました」と言った。

23時になり、オレは「今日は終了。寝て良し」と言った。続けて「オレのベッドを使ってくれたらいいから」と言った。

シュスランは「師匠はどうされるのですか?」と聞いた。オレは「今からはオレの仕事の時間帯。この先は、お前も夜型で夜に仕事をしてもらう」と言った。

シュスランは「承知しました」と言った。間も無く、寝息が聞こえてきた。彼女は疲れているはずだ。今日はゆっくりと休んでもらおう。

翌日の6時。水曜日。

オレは、6時に寝た。フローリングで寝ていた。シュスランは7時に起き、オレは何も布団をかぶっていない。そっとかけてくれたのである。

それからコンビニに行き、パンとおにぎり、飲み物を買っていた。オレは、10時に起きた。普段は16時まで寝ているが、パチリと目が覚めた。

シュスランは「朝はパン派ですか、おにぎり派ですか?」と聞いた。オレは「まぁ、おにぎりかな」と言った。するとおにぎりとお茶がでてきた。

オレは「いくらで買った?」と聞いた。シュスランは「全部で1000円くらいです」と言った。

オレは、財布から1500円出し、「釣りはいらない。お駄賃だ」と言った。シュスランは「いえいえ、私の一存ですので、結構です」と言った。

オレは「弟子にお金を出してもらうほど落ちぶれていない。取っとけ」と言った。シュスランは「ありがとうございます」と言った。

11時頃、お店に行った。オレらはカップルである。即席だが。「オレが使っているモノと同じがいい」とシュスランが言い、同じもモノを買った。ペアルックである。

ここでもオレがお金を出した。「お祝いだ」と言い、プレゼントした。

家に帰ってきて、コンビニで買った弁当を食べながら小説の執筆をした。

ほどなくして。

現在、21時。今日も泊まり確定である。シュスランが「できました」と言った。

「どれどれ見せてみろ」と言い、読んでみた。オレは「センスある。オレよりも良いかもしれない」と言った。

オレは「この調子で頑張ってくれ」と言った。シュスランは「ありがとうございます。頑張ります」と言った。

翌日。シュスランは「一度、帰って引越しの準備をします。一緒に住んでくれますか?」と聞いた。

オレは「もちろんだ。待っているぞ」と言った。

しかし、それ以来、シュスランが来ることはなかった。電話やメールをしたが、音信不通となった。

もしかしたら、親に反対されたのかもしれない。それはオレの想像だが。

オレは「とにかく女性運がないらしい」と思った。「もう、彼女はいらない」と思った。

1人で生きていく。

その果てに

今、オレは、日本の南国の離島に住んでいる。生活に困ることはないが、ネット通販で買うと、送料が高くなるのが難点か。今は、近所のスーパーで買っている。

今、家族以外で知り合いはいない。孤独だ。ただ、小説のネット販売でご飯を食べているので、贅沢をしなければ暮らしていける。

かつて、友達だった人はどうなっているのか。着信拒否をしている人もいて、連絡を取り合うことはない。メールの返信もしないし読まない。

読者メールで連絡をしてくるが、今もスルーしている。あるとき、シュスランから連絡があった。着信拒否するのを忘れていた。

ただ、元カノ。話くらいは聞くかと思って電話に出た。「師匠、ご無沙汰です」と言った。

オレも「ご無沙汰やな。て言うか、なぜ、連絡してもスルーしていた?」と聞いた。シュスランは「ごめん。何となくで」と言った。

オレは「まぁ、いいよ。長続きしないだろうって思っていたし」と言った。実際、長続きはしていない。

シュスランは「また、付き合って一緒に住みませんか?」と聞いた。オレは「飛行機かフェリーに乗らないとダメやけど大丈夫?お金かかるよ」と言った。

シュスランは「え?前の住まいでないのですか?」と聞いた。オレは「そうそう。どこでも働けるのがフリーランスの強み」と言った。

シュスランは「ではやめておこうかな。時間もお金もかかるし」と言った。

オレは「そうやろ。もう、会うことはないけど元気で」と言い、電話を終えた。

シュスランもまた、着信拒否にした。これでいいはずだ。毎日、朝から晩まで、いや正確には、夜から朝までだけど、小説の執筆を頑張るのである。

あるとき、かつてのキプラネの担当だった、出版社のコールラビからメールで連絡があった。

簡単に言えば、「出版社に属して小説の執筆をしてほしい」だ。

オレはメールでこう書いた。

「コールラビさま、お世話になっております。興味があります。離島に暮らしていますので、御社に行くには時間もお金もかかりますので、オンラインでお願いします」

すぐにメールが来た。今日の20時からオンラインで打ち合わせになった。

オレは、缶ビールを開け、一気に半分ほどビールを飲み干した。準備万端である。

20時になり、オンラインで打ち合わせが始まった。お互い、時間やお金を浪費すぜに済む。

オレは「で、ギャラはいくらですか?」と聞いた。オレは、金にならない文章は書かない。

コールラビは「ギャラですね。弊社に属すとなると、月給制になります」と言った。

金額を聞くと驚いた。今の方が遥かに高い。ただ、書籍化されたら、地位と名誉も手に入る。考え物である。

コールラビは「小説のネット販売はNGになります」と言った。オレは「わかりました。今回はお断りします。ありがとうございました」と言い、画面を閉じた。

やはりか。もう、出版社ともやり取りをする事はないだろう。

今は誰も知らない町で生きている。親兄弟とも何年も会っていない。

それもまた、いい。

オレはそんなことを思いながら、

ビールをクイッとひと口飲んだ。

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