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『売ること』のこれから #6 「つなぐ」 が 創るー


今まで通りではもう届かない-
コミュニケーションの拡散、希薄化

先日、都内のスーパーの店内放送で、ある新作映画の主演二人が来店者に向けて映画を紹介するやりとりが流されていました。もちろん、このスーパーのためのオリジナル音源です。

主演クラスを使って店内放送をつくるなんて贅沢なプロモーションにみえます。
しかし、こうする必要があるのです。

この一見、贅沢なプロモーションが映画の告知に必要な打ち手となっているのは、テレビに頼ったプロモーションが機能しなくなっているというコミュニケーション環境の変化です。

かって、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌は四大媒体と呼ばれ、そこに、ネットが加わっていましたが、どのメディアも視聴率、購読率、聴取率、販売冊数はすべて低下傾向にあり、ネットメディアも強い媒体はなく、なにかに取り上げられると認知が高まるとは言えない状況です。

新聞の購読部数は、53,708,831部(2000年)から 28,590,486部(2023年)と
約20年で半減している
(日本新聞協会データより)

情報の送り手は、コミュニケーションが拡散、希薄化する状況下で、想定する顧客層に届くように、SNSで注目されたり、他のメディアでも見たなと思ってもらえるなど、認知に至る経路を何十パターンも考えてコミュニケーションプランを企画しなければなりません。

広告を出せば(出稿)すれば、認知が上がり、人々が行動(購買)に至るというモデルは、巨額予算を投じることができるケースを除き、過去のものになっています。

作り手・売り手・買い手を「つなぐ」第4の立場

コミュニケーションの希薄化は、広告ビジネスも希薄化させてしまいます。

(希薄化しているモデル)

作り手、つまりメーカー企業は、広告をテレビや新聞に出稿して、商品の認知を高め、好意的にとらえてもらえるようにする。
→テレビや新聞が人々に届かない為、部分的にしか機能しない

売り手、つまり流通企業は、広告をテレビや新聞に出稿して、店舗での催事などの認知を高め、来店動機を提供する。
→テレビや新聞が人々に届かない為、部分的にしか機能しない

買い手、つまり私達は、テレビや新聞を視聴し、読んで、新しい商品やサービスを知り、関心を高め、試してみようかと思ったりする。
→テレビや新聞が人々に届かない為、部分的にしか機能しない

基本的に、広告を中心においた「売ること」のコミュニケーションは、一過性であり、取り組みを積み重ねることから、新たな価値を創るという発想がありません。上記のモデルを見ても、作り手・売り手・買い手はつながることはなく、商品やサービスの買物価値を生み出すことが困難です。

そして、ここに、人手不足の影響も加わります。
店頭という現場が見えない状況で、広告を打ち続けることは、選ばれるために不可欠な買物価値を育むことができず、消耗戦に陥る危険があります。

では、どうすればいいのか?
その回答が、作り手・売り手・買い手以外の第4の立場が、
作り手・売り手・買い手の3者を「つなぐ」ことが解です。

製造、販売に関わるあらゆる取り組みを買物価値を高めるという共通の目標に集約することで、一過性の「売ること」から、中長期に選ばれ続ける「売ること」へのシフト(転換/transform)を実現します。

同時に、このシフトは商品や企業側の都合を主語においた「売ること」から、お客様を主語においた「売ること」への変化を意味します。

「つなぐ」役割と仕組み

 作り手・売り手・買い手の3者を「つなぐ」第4の立場は、次の示すような取り組みで、人と人、人とデータをつなぎます。

(つなぐモデル)

・買い手(お客様)と「つなぐ」
キャンペーンなどをつうじて、お客様との接点を設け、つながることから、お客様と対話を行える環境を構築します。対話は、オンラインリサーチをはじめ、実際に合って対話するグループインタビューやコミュニティ運営などの手法を選択して用います。

・売り手を「つなぐ」
お客様との対話から得られた知見をもとに、売り場の提案、実施展開を行います。
エリアにどのようなお客様がいるか、どのような購買傾向があるかといったデータをもとに売り場づくりを行います。
陳列、品出しを基本に、売り場全体が盛り上がるように調整を行います。
お客様の年代層によって、棚の低いところ、高いところと配置を変えたり、販促ツールの文字の大きさなども調整の対象となります。

・作り手を「つなぐ」
お客様の声、売り場の声を作り手に分析とともに示します。
ただ、レポートを説明するだけでは、組織内で共有されないこともあります。
また、ある部署では共有されても、別の部署では異なる捉え方をしてしまうこともあります。
そのため作り手の内部を「つなぐ」ことも重要な取り組みとなります。

作り手の内部に共通目標、共通の価値認識を構築できれば、お客様の暮らしを豊かにする提案を具現化する商品・サービスと、その商品・サービスにふさわしい提案、売り方を設計することができます。


上記の取り組みは、広告代理店の販促部門、調査会社、セールス支援会社、人材派遣会社、コンサル企業、HRテック企業などが関わりながら行われています。そこに一貫性をもたせるのは困難です。
バラバラが当たり前であり、いままでそれでも動いてきたんだからという見方もあるかもしれません。

しかし、ここにはお客様と継続的に対話しながら、知見を積み重ねて、関係性を育ててゆく機能がありません。

上記の「つなぐ」を「つなぐ」ことで、はじめて、お客様と向き合いながら買物価値を維持、育成することができます。この取り組みをソリューションとして提供できるのが第4の立場です。

お客様との信頼/TRUSTが、説得力をつくる。
目指すべきは、売上よりもファンとなっていただけるお客様を増やすこと

お客様との対話に基づくデータが、売り場を動かし、商品・サービスのポテンシャルの最大化につながります。最初は、売り場づくりやセールス支援からとなるケースも、マーケティングプロモーション(販促企画)からとなるケースもあるかもしれません。

どこからスタートしても、図に示した一貫のサイクルにつなげることで、リアルな現場を起点に、データの裏付けもある、継続的なお客様と(売り場や社内も含めて)の対話を行えるようになります。

その目標は、お客様との信頼関係の構築です。
自社の商品・サービスを信頼してくれるお客様が増えれば自然と売上となります。
ここで売上という数字を目標に置いてしまうと、お客様よりも数字を選ぶという誤謬に陥ることがあります。
この誘惑を防ぐのも、第4の立場が作り手、売り手のパートナーとして側にいれば、対応することができます。以前、紹介した新しいマーケティングの定義にも繋がります。(参考:「マーケティング」の定義が見直されたことから考える

これからの「売ること」を通じて、できるようになること

商品・サービスを提供する側(作り手、売り手)にとっては、信頼を共有するお客様、つまりファンとなっていただけるお客様の数を増やしてゆきながら、その関係性を深耕できるようになります。
これは、一過性の広告主体のコミュニケーションでは難しかったことです。

商品・サービスを買う側、利用する側(買い手)にとっては、その商品・サービスを買うことが一種の参画、意思表示になります。安いから、品質が良いからという表層的な価値だけでなく、買うこと、使うことがサプライチェーン全体の最適解(誰かを犠牲にしない)につながることを理解した上での「買うこと」ができるようになります。

この2つを合わせると、「売ること」と「買うこと」を通じて、もっと暮らしやすい社会を実現できるようになります。これはSDGsの社会実装そのものです。(参考:小学生の息子から指摘!?SDGsの教育

そして、この「売ること」と「買うこと」は、一気通貫して「売ること」に並走する第4の立場による「つなぐ」ことによって、はじめて可能になります。

作り手・売り手・買い手の3者がつながった商品・サービスが増えることは、暫くの間、規模が縮小する日本市場(参考:社会という市場が6割引状態になる日)が、世界に魅力を発信できるようになる新しいアプローチにもなります。

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