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『売ること』のこれから #4


営業マンという職業が減り続けていることの意味

前回、売り場の課題は「人手不足」であり、そこから「買い物の価値」づくりが揺らぐこと、解決のアプローチとして、小売企業とメーカー企業との協働が求められることをお話しました。

このことを受けて、今回お話するのはメーカー企業の課題です。
まず、こちらをご覧ください。
営業という職業が2000年以降、急速に減少しています。

国勢調査より(筆者作成)

営業職が減少する背景には2つの要因があります。
・営業という仕事に携わる、人の数が減っていること
・営業という仕事の、枠組みが変わっていること

(人の数が減っていること)
2000年から2020年の間に小規模企業を中心に100万社が減少しています。事業を畳んだり、買収・合併(M&A)によって企業の数が減少するなかで、営業職に関わる人数は減ります。
さらに、この20年間は、インターネットが社会に浸透してきた時期でもあり、オンラインとデータベースの活用が(足で稼ぐ、交流する)営業職の人数を減らす形で影響してきたと考えられます。

(枠組みが変わっていること)
現在の主な仕事は、データ分析や企画提案です。
そして、多くの企業でマーケティングオートメーションや、営業に関わるプロセスの分業化が普及し、受発注がシステムの一工程として行われる中で、かつての営業の仕事が、アナログ的な(足で稼ぐ、交流する)から、デジタル要素が増えた(データを重視する)デスクワークとなっている変化もあります。

もちろん、営業マンという人を減らすことには、コスト削減効果があります。
そして、データを用いた交渉もシステムで行いやすくなっています。
しかし、そこで起こっている問題は、

営業職の減少によって、店頭に行けなくなることであり、

買う現場が見えなくなる

という問題です。

人手不足が加速する中で、人数が削減された営業職が売場、買う現場に足を向けることはますます難しくなります。

ここで言う店頭とは、商品が並ぶ棚だけでなく、売場に関わるスタッフや、周囲の雰囲気などデータに現れない包括的なものです。
無駄を減らし、データを活用できても、現場が見えなくなってしまうこと、見えにくくなっていることは、メーカー企業共通の大きな問題です。

さらに、データも自社データだけでは分析に限界があり、誰でも入手できるデータ(お金を払えば買えるものも含めて)はコモデティ化してしまい、自社商品の独自性、ブランド価値の向上に繋がりにくい状況に陥ってしまう問題も生じます。

もう1つ、別の問題もあります。

仕事への「********」が低いことによる問題

この数字、なんだと思いますか?
日本企業で働く私達に関わる数字です。

答えは、仕事や会社への熱意、貢献意欲などが高い「エンゲージしている社員」の割合です。
(出典:GALLAP「State of the Global Workplace 2023」)

95%の社員はエンゲージが高くないという状態。
各国平均が20%を超えているなかで、次の図を見ても分かる通り、世界最低のレベルです。

経済産業省未来人材会議資料より

この調査データは毎年発表されていますが、万年最下位とも言える状態が固定化しています。
考えるべきことは、つあります。
・従業員のエンゲージメントを引き出す仕組みが日本企業に備わっていない
・組織改革の名の下で組織の細分化が進み、エンゲージメントが低いことと相まって
 部門間の連携が脆弱になる

(エンゲージメント(士気と熱意)を引き出す仕組みが日本企業に備わっていない)
社員を評価する仕組みは多くあるのですが、社員(従業員)と経営層の間の信頼構築を行う仕組みは殆どありません。そのため、社員(従業員)の話を聞かないマネージメントが当たり前になっています。社員(従業員)に原因があるのではなく、コミュニケーションの構造に問題があります。
その結果、この仕事は言われたからやる、仕事だからやるという構造になってしまいます。

(組織改革の名の下で組織の細分化が進み、エンゲージメントが低いことと
 相まって部門間の連携が脆弱になる)
言われていないことをすると怒られると思ったことはありませんか?
チームプレイがうまく行っている時は、何かを一つ一つ確認しなくても、お互いの足りないところを補い合って、連携した高いレベルのパフォーマンスを発揮できます。
各部署ーたとえば、営業とマーケティングと商品開発が、もっと連携できていればーという状況は、意外に多いのではないでしょうか。

エンゲージメントが低いことで、余分なことはしないほうが良いという心理が働きます。
そこから何が起こるかと言うと、相互連携が行いにくくなり、情報共有や共通目標を持てずに、お客様からみて、ちぐはぐなことをしている企業、ブランドになってしまうのです。

営業職の変化とエンゲージの問題を超えて、新しい優位性をつくるには?

ここまでをまとめると、
営業職の減少によって、店頭に行けない状態になり、現場を把握、理解することが難しい状態になって、部門間の連携も難しい」
これが、メーカー企業の課題です。

合理化とIT対応を推進してきた筈が、想定外の状況になってしまったというケースは、ニュースでも報じられています。現在の日本企業に欠けているピースは、
『店頭と企業内の各部門、各部門同士をつなぐ役割・仕組み
ではないでしょうか。

店頭に足を運ぶ観察者であり、レポーターであり、アナリストとマーケターであり、コンサルタントであり、社内コミュニケーションも兼ね備えたつなぐ役割・仕組みがあれば、営業職の減少とそこから生じている問題に対応しつつ、社内のエンゲージメントを高めることもできます。

これはDX(デジタルトランスフォーメーション)の最も重要な要素である、人を起点として、全体最適を目指すコンセプトそのものです。

営業代行、HRテック、コンサル、それぞれの業種は別々にあります。これらを連携して運用できれば、つなぐ役割・仕組みになるかもしれませんが、別々のサービスを社内リソースで統合することは却って大きな業務負荷となってしまうことも容易に想像できます。

ある意味、いいとこ取りとも言える、
『店頭と企業内の各部門、各部門同士をつなぐ役割・仕組み』ができるのだろうか?
という意見もあるかと思いますが、
ここまでに示した、
・構造的な営業職の不足と変化による、売場が遠くなってしまう状況
・エンゲージの低下構造、部門間の連携が困難になってしまう企業内課題
これらを乗り越えつつ、これからの『売ること』を具現化するには、
つなぐ役割・仕組みが不可欠になると考えられます。

次回は、このつなぐ役割・仕組みについて、お話します。

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