あなたも本屋のオーナーになれる?神保町のシェア型書店
近年、書店の数は年々減少しています。
私の身の回りでも書店が閉店することが増え、生活圏に書店が減ったと実感しています。
出版科学研究所のデータによると2003年に20,880件あった書店の件数は2022年の時点で約半数の11,495件にまで減少しているといいます。(参考:出版科学研究所「日本の書店数」)
このペースで減り続けたら、書店がない地域がどんどん増えていくのではないでしょうか。
一方、電子書籍市場規模は2014年から2021年までの8年間で4倍近くにまで増加しています。
この電子書籍市場の約8割はコミックで占められてるという分析もあります。
書店の減少と電子書籍の市場規模拡大のペースを考えても、電子書籍と紙書籍の価値の差別化ができなければ、書店の生き残りはこの先更に難しくなってしまうのではないでしょうか。
書店の新たな可能性
そんな中、本の街神保町に少し変わった書店があるのをご存知でしょうか。
『PASSAGE(パサージュ)』という書店の本棚には棚ごとにオーナーがいて、オーナーは自分の棚で好きな本を販売することができます。オーナーには作家、編集者、書評家、本好きの読書家など、様々な人がいます。
つまり、本を愛してやまない人なら誰でもオーナーになれるのが、このシェア型書店です。
売りたい本が店頭に置けない、買いたい本が書店にない、お薦めしたい本がたくさんあるのにその思いを発信できる場所がない・・・
「なら、自分で本屋になっちゃえばいいじゃん!」(PASSAGE公式ホームページより引用)という発想のもと、本好きたちの悩みを一気に解決すべく、このコンセプトのもと立ち上がった共同書店が『PASSAGE』だそうです。
リアル店舗で自分の“スキ”を発信できる
棚のオーナーはPOPを自作したり、自分で書いた本を販売したり、気に入った本や好きなジャンルにこだわった棚作りをしたりと、自分の”スキ”にとことんこだわった棚づくりをしています。
また、販売する本は新品でも中古でもいいそうで、自分のサインのシールを貼った本を置いている作家さんもいました。ここに行けば一般的な書店とはひと味違う体験ができます。
この販売方法により利用客は売り手の思いやこだわりをより身近に、リアルに感じながら本を選ぶことができます。実際に足を運んでみて、思っていた以上に棚主の個性を感じることができておもしろいなと思いました。お店の方によると、個性が強い棚には個性の強いファンがついていたりもするそうです。
「こんな書店があったらいいな」という思いを一人ひとりが形にでき、実際に売ることができる。利用客はオーナーの思いに共感して購入を決める。作り手(棚のオーナー)の思いを形にでき、誰でも触れられることが、この書店の最大の魅力だと思います。
自分が欲しいものを自ら作って売り出す。
この書店のオーナーたちは、生産者であり消費者である「プロシューマー」といえるのではないでしょうか。
プロシューマーの具現化!想いを発信したいのは本好きだけにとどまらない
生産者であり消費者でもあるプロシューマーは、企業に意見を出して商品開発に参加したり、自ら商品開発を行い自ら販売するなど、さまざまな方法で生産者と消費者の立場を兼任します。この書店のオーナーたちは、まさに自ら売り場をプロデュースし本の販売をするプロシューマーだと言えるでしょう。
オーナーは入会金13,200円と棚月の額利用料を支払えば自分の売りたい本を売ることができ、売り上げの10%を書店に納めれば、本の売り上げは自分の収入になります。
書店には1棚につき入会金と月額利用料、そして書籍の売り上げが入ってくるので、在庫の管理や棚卸などの手間をかけずに場所貸しで収入を得ることができます。
書店は自由に発信できる場所を貸すことで賃料が売上となり、労力を削減しつつ収入を得ることができます。そして、発信したい人は自由に発信ができる場所を得ることができるという、双方にプラスとなるビジネスだと言えるでしょう。この仕組みによって、書店は本を売る以外の新たな収入源を確立できます。
この方法なら、誰でもどんなものでも、届けたい人が自由に発信できる場を提供できると思いませんか?例えば、スーパーの中にシェア型マルシェを作って生産者が野菜を販売できたり、シェア型洋菓子店で手作りスイーツを販売したり・・・可能性は広がります。
欲しいものは自ら作って発信する。誰もが消費者であり生産者である。
そんな環境が身近になりつつあるのかもしれません。
編集猫 KAURU memo
書店は本を売る場所でしたが、このシェア型書店では、誰かの考えや想いを本の棚を通じて知り、買う事もできる一種のサロンのような場所になっています。
(本を売る)+(誰かの考えや想いを知る)+(誰かに自分の考えや想いを知ってもらう)というように複数の機能を合せることにお店の未来があるのかもしれません。