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『売ること』のこれから #5 買物価値という視点


つなぐ役割の重要性

“『売ること』のこれから” では、
・作り手・売り手の大きな課題である店頭現場での人手不足(#3
・流通再編による営業組織の変化(#4
・現場情報の不足、組織細分化による価値伝達の不足(#4
といった変化が、確実に購買の現場に影響を与えていることをシリーズでお伝えしてきました。

これまでのように、モノが作られれば、店舗に届き、棚に並び、買い手が自ずと手に取ってくれていた時代と違い、人口減少時代においては、売場の立ち上げ・整備をするにも、仕組みや人手から頭を悩ませなくてはならなくなっています。
私たちの行っているフィールドマーケティング活動も以前はメーカーの営業・販促支援という位置づけが色濃かったのですが、現在は小売現場のオペレーションを支えるリテールサポートという意味合いも重要になってきています。

このように作り手・売り手・買い手をつなぐ役割に求められる要素は非常に増えてきています。
モノづくりや販売のプロは、システム構築や人集めのプロではないため、仕組みの提供や人手の提供などを行うつなぐ役割による支援の必要性は、今後、一層重要になっていきます。

「売れるを創る」ために必要なこと

しかしながら、店頭を整備すれば売れるというわけではありません。
コロナを経てリアルや体験の価値は見直されつつあり、円安等のマイナス要素はあるものの消費行動は少しずつ回復してきています。では、これからの未来において、どのような要素が「売れる」に必要になってくるのでしょうか?

キーワードは、「買物価値」です。

5類化する以前のコロナ禍においては、外出などの行動や対面のコミュニケーションは社会的にも否定せざるを得ない時期だったため、買物という行為は、AIやロボットの進化も相まって、事務的かつ時短で済ますようになり、買物行動はコモディティ化していきました。
その後、外出行動が回復してくるとリアルの体験価値が見直されるようになり、生活者は、単なる消費ではなく、コト消費やトキ消費といった付加価値にこそ、「買うこと」の意味を見出しはじめているように思います。
(90年代にもモノからコト消費という指摘がありましたが、スマホの普及を経て、国内外の環境変化受けつつ、もう一周した状態になっているのが、現在の2020年代です。)

このような変化を踏まえて、これからの未来にモノが売れるためには、買物に付随する”価値”を生み出していくことが重要なのだと考えています。

弊社ではこれからの未来において必要不可欠となる“買物価値”を創り出すマーケティングに力を入れています。
買物価値マーケティングでは、消費者が商品やサービスを購入する際に感じる価値を最大化することを目指し、単に商品の価格や機能だけでなく、消費者が購入過程全体で感じる体験や満足感を重要視します。それは同時に、メーカー企業にとって収益力の向上を意味します。

買物価値マーケティングの要素

買物価値を分解すると大きく4つに分けることができます。

1. 製品価値 – 商品そのものの品質や性能、デザインなど、消費者が直接的に得る利益や利便性。

2. サービス価値 – 顧客サポートやアフターサービス、購入プロセスにおけるサポートの質など。

3. 経験価値 – 購入の過程や使用中に得られる感情的な体験や喜び。
 店舗の雰囲気、オンラインショッピングの利便性、購入後の満足感など。

4. 社会的価値 – 商品やサービスが社会や環境に与える影響、企業の社会的責任(CSR)など。
エシカル(倫理)消費やサステナビリティ志向。

買物価値マーケティングは、単に製品やサービスを提供するだけでなく、消費者が感じる総合的な価値を最大化することを目指します。これにより、顧客満足度やロイヤルティを高め、長期的に顧客とつながり、ビジネスの成長につなげることができます。

幸福を感じる行為のNo.1は「買物」

単に店やECにモノを出せば売れる時代は過ぎました。これからは、顧客にとっての買物価値を創造し、リアル・デジタルを融合した多面的な顧客コミュニケーションによって、その価値をしっかり届けていくことで、ようやく「売れる」につながります。広告一発で売れ続けるようなことではなく、丁寧で地に足の着いたコミュニケーションが必要になっていきます。

ひとが幸福を感じる行為のNo.1は長らく「買物」です。(調査によって、「おいしいものを食べている時」、「自分の時間を楽しんでいる時」などが挙げられることもありますが、これらの具現化はすべて「買物」という行為を経ています。)

ひとは、買物という行為により、モノを手に入れる以上のことを得たいのだと思います。
体験のワクワク感、生活の豊かさ、日常の幸福感、未来への希望など、価値ある「売ること」を創造していきながら、「買うこと」のよろこびを増やしていくことが、先の見えにくい時代における大きな希望につながっていくのではないかと思っています。

この「買うこと」のよろこびは、メーカー企業(社内の各部署、原料の仕入れなど)、売り場(流通企業、個店、スタッフ)、買う人が、どのようにつながるかによって大きくなったり、小さくなったり、育ったり、育たなかったりします。
このつなぐ役割は、作り手・売り手・買い手でもない第4の立場とも言える立場が必要です。

次回は、この第4の立場と、つなぐ役割・仕組みの続きを、お話します。

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