1994年3月 ひとりモスクワ2
【まとめ】朝からトラぶるものの午前中は玄人っぽく?ガイドさんを頼んでオプショナルツアー。前回入れなかったレーニン廟はいかに。
他も希望通りに案内してもらって一緒に昼食。午後はひとり、トレチャコフ美術館へ。
他にも野次馬的にあちこち見て歩き、もうおなかも心も満足し切った一日でした。
3月19日(土) 晴
6:30 爽快に目覚める。ゆうべのアホをようやくリセット。
と、思ったら、カーテンを開ける時、隅のテーブル上にあった可憐な水差しを落として、割ってしまう。
「割っちまいました」
とディジュルナヤに報告。
鍵番は若いお姉さんに代わっていた。
彼女は、にっこりと花のように笑ってから気の毒そうに
「代金は、4000ルーブルです」
とのたまう。
なぬ~!? よんせん!?
でも冷静に考えたら2ドルちょっと。
それにしても、あんな危なっかしい場所に、あんなもろいガラス製品を置いておくなんて!! 小遣い稼ぎとしか思えん!!
と、一人いきどおりつつ、朝食へとでかける。
1階の大食堂(レストランなのかも)にて朝食。
パンはテーブルごとにスライスしたものを山に積んである。黒パンと白パン。好きなだけ食べなさい、ということらしい。
コーヒーのカップに紅茶。ママレードは、皮も平等に混ざっていて苦い。
グラスにはすぐりジュース。
皿は三つ。一つ目、でかいソーセージに黄色いトマトとゆでグリンピース。
二つ目、ハム二切れ、チーズ二切れ、キュウリ二切れ。
三つ目、ママレード入りのピロシキ、オレンジと思ったらネーブル。
生ものはトマト輪切り、キュウリ輪切り、ネーブル1/4のみ。それでも、おいしくいただく。
9:00 オプショナル・ツアーを頼んであったので、ホテルにガイドさんが部屋前まで来てくれる。
背の高いマリアさん。いんぎんな日本語で発音も明瞭、急にぞんざいな表現も出る。
「それはデスネ、なぜかっテいいマスト」
が口癖。着ているパーカーはえんじ系迷彩。
どこに行きたいですか?と問われ、いくつか伝えると、ワカリマシタ、とすぐに出発す。
迎えの車に乗り込む。
車の中で、運転手さんとマリアさんに、クールミントガムをあげた。
びっくりしたことに、二人とも、ガムの包みを開けると、車の窓を開け、包み紙をそのまま外に放り出した。
おいしそうにガムをかんでる。かみ終わった後はどうするんだろう。
きっとそのまま、路上に吐き出すんだろうなあ……
以前、入りたくても長い行列で入れなかったレーニン廟へ。
前に立っていた衛兵の姿も今はなく、行列もほとんどない。すんなりと前の人に続いて中に入って行く。
正面右脇に博物館みたいな四角い穴の入口が。
入ると中は真っ暗。変な匂いがするが、何の匂いなのか、全く見当がつかない。
真っ暗な中、階段を降り、まるで迷路のような小路を抜けると、ぽっかりと暗い光があたっていて、その真ん中にかの、レーニン氏が横たわっていた。
右側から足元を回り、左へと抜ける。
みな、1列に並んでゆっくり歩きながら黙って、じーっと見ている。
死者に対する視線ではないなあ、こりゃ。
レーニン氏は、右手をグー、左手をパーにしてる。
好奇の視線をものともせずに眠り続けている。
廟裏の、歴代のエラい人たちの墓も見る。
ウスチノフ、チェルネンコなど。そっけない墓が並ぶ。前に読んだ漫画の「ウォッカタイム」をふと思い出して、ひとりで可笑しくなる。
また車に乗り込み、ダニーロフ修道院へ。
ソ連時代に壊されたものを復元したのだって。新しい建物。
アルメニアの教会から寄進された石の水盤が雪に埋もれてる。
ロシア正教と違い偶像を拝まないらしく、装飾は十字架の模様のみ。
外壁の聖人像に祈るおじさんを見かける。
教会ではミサの最中。ぎゅうぎゅう詰め。やっとこさ入ってみるが、詰め物のような上着やムチムチのおばはんたちにはさまれて、身動きひとつできない。
おばあちゃんだけじゃなくて、若い女性やおじさんたちも見られる。
すぐ後で入ってきたおばあちゃんは、ミサのコーラスで、ちゃんとハモっている。
建物の新しさとは裏腹に、ずいぶんな年季を感じる。
運転手さんがトイレに行ってる間に、マリアさんと一服。
マリアさんはマルボロライトを吸ってる。
やはり、恐れていた通り、外国煙草はソ連末期時代よりずっと手に入りやすくなってるって。
極東のウラジオストックなどでは、日本の煙草も買えるって。
日本のはおいしいデスネとほめていた。
ついでにグルグルと市街を案内してもらう。モスクワ大学近くのレーニン丘は『雀が丘』という名前になっているらしい。テーブルにマトリョーシカを並べて売るおっさんとにいちゃんがひしめいていた。
ここで、やたらと「にぇずなーゆ」を耳にする。私は知りません、の意味だが、どうも「しらねーよ」のほかにも「さあね」「どうだか」みたいなノリで使われているようだった。
ホテルに送ってもらってから、マリアさんお昼をいっしょにどうですか、と誘うと、ホイホイとついて来たので(モリトー氏のマネか??)いっしょにホテルの大食堂に行くことに。
ついでに何かコンサートのチケットが欲しいよー、と頼むと、先にホテルのサービスビューローで尋ねてくれた。取次ぎが悪く(いつものことだ)
埒があかないので、ホールに直接電話も入れてくれたが、結局つながらず。
しかたなく、食堂にお昼を食べに行く。
お昼はコース。前菜にサーモン、キャベツサラダ、きのこスープ、お肉にジャガいため。奢ったがいくらか記憶なし。向こうも奢られ慣れている感じだった。
ガイドをなるべく利用せねば、と食事しながら今度は、ロシアのポップス、ロックで有名なグループを教えてもらう。
モスクワでお母さんと二人暮らし、車もロシア製のを持っているがガソリンがなかなか入れられないと言ってた。
国営で250P/リットル、私営で350P/リットル、道売りで450P/リットルだって。
道ばたでガソリンを売っているタンク車は一度見たなあ。
部屋まで送ってくれたので、日本の雑誌と新聞をあげて、別れる。
とても親切な人だったが、何か、心ここにあらず、といった雰囲気。
生活の心配事を常にひきずっているような憂い顔。ま、日本語なら相談にのってやれたんだが。
マリアさんを部屋の外で見送り、ふと、向こうに目をやると、かのモリトー氏が歩いてくるでは。
こちらをみかけて、何故か、びくっとしてる。
見ると、しょぼいジャージ姿。後ろに同じジャージ来た黒人の連れが二人。
「カリフォルニアでベンツを乗り回しているビジネスマン」だと言っていたが、とうていそうは見えない。
彼はこちらに目を合わせようとせず、素朴そうな連れに話しかけながらオドオドとどこかに去っていった。かと思ったら振り返って「今夜電話していい?」というので「のー!ばーい!」と断る。
13:30頃 満腹な昼下がり。一人でトレチャコフ美術館目指すことに。
マリアさんに聞いたところでは、昔の場所も改装が済んだらしい。
地下鉄を乗り継ぎ、目ざすあたりについたはいいが、それらしい建物はさっぱり見えない。
女の人をつかまえて聞く。一方を指し示し、ロシア語でなんか言ってる。
ようやく、
「きれいな建物で、すぐにわかるよ~」
と言ってるのがわかる。
ぬかるみの中歩き続け、ようやく前方に、赤っぽい、新しい建物を発見。
モスクワの中でもあかぬけた感じの建造物。
入り口で、まず、なめくじのような見かけのフェルトスリッパを靴の上から履く。
「学生?」「ちがいます」 「いーわよ、あんたは、学生。」で、3000ルーブルで入れてくれる。1ドル50セントくらい。
チケットは旧ソ連時代のものをそのまま使っている。薄い紙でだいたいどこの美術館・博物館とも共通の体裁。料金は1ルーブル50カペイカから一挙に3000に書きかえられていて経済的な混乱ぶりがよく分かる。
ウラジミールの聖母子像の前で、しばし、釘付け状態。
他のイコンと比べても、表情に奥行きがある。
ちなみに、ロシア正教のイコンで、よく聖母子像をみかけるが子どもは、ほんと、小さい。ひどいものではコケシくらい。
で、子を抱いている母の反対側の肩に、心霊写真のように小さな手が見えることがある。あんなに小さい子じゃ、そっちの肩に手が届くわけねーだろ! 腕どんだけ長いんだ! と思わずつっこみを入れてしまいたくなる。
宗教画に突っ込み入れるな~
他に印象的だった絵。
スリーコフ(Сликов B,И,1848-1916)。寒げな小屋に悲しげな家族。みんなで聖書をみている。
ヤロシェンコ(Ярошенко)両手に金の腕輪をした黒衣の人。
レーピンのムソルグスキー像。酒焼けか? 鼻を赤くしているが、目が生き生きとしていて今にも何かやらかしそうな表情。
カンディンスキーの1909年の作品は、カラフルだがまだ具象。物の形が残っている。
マレーヴィッチが共産主義に「転向」した後の労働者の絵もあった。労働をたたえるポスターのように味気ない。
外に出ると、とてものどが渇いていたので、駅の近くでアイスを買う。250ルーブル。
見かけはバターの塊みたい。銀紙をはがしつつぱくぱく食べる。
色んな人が、色んなものを売っている。
「がりゃーちぃ、ぷーしき、」という呼び声があっちこっちから聞こえる。
玉子を売っている様子。あつあつのゆで玉子かな。
ピロシキ売りの女性。四角い給食の入れ物みたいな金属容器の中、ピロシキが冷めないよう布に包んで並べでいた。これはチーズ入り500P。
試しに買ってみた。すごくしょっぱい!
興味しんしんのKGB本部前まで行ってみる。 地下鉄のルビヤンカ駅はごく、普通の駅。地上に出て、本部の建物をまじまじと見る。いかめしい建物で装飾は特にない。
ジェルジンスキー像のあったところは、ただの雪山となっていた。
マルクス像のあたりに、ネオンのケバケバしいにわか作り風の建物。
何を営んでいるんだ??
ジェーツキー・ミールの中も変わってしまっていた。
地階は豪華なウィンドウ。片側には車のショーウィンドウがある。
以前と物量、質とも全然豊富。しかし、レジのシステムは相変わらず。
品物をレジで申込み、紙をもらって売り場に戻り、品物を受け取る。
品物をもって、またレジに行ってお金を払う。
レジはもちろん、長い行列。
売り子のお姉さんたちは、あいそ悪そう。たま~に、にこにこしてる人もいるが、まれ。
960Pの薄青いマフラーを買う。
テレビゲームもあったけど、ごつい。
たまーに、店内片隅でゲームボーイをやっている子供がいるが、外国人なのか単なる地元の金持ちなのか一般人なのかは不明。
トイレはたいがい10P取られる。
タガンスカヤ通りにでっかい建物をみつける。平べったいデパート&スーパー的、というか市場?
ファンタ300P、CDも色々あって海外のものも。
レイ・チャールズのMy World欲しかったんだけど21ドルだって!
なぜここだけドル?
アイスバーン状態の路面を歩くのに苦労する。
わざと滑るように歩いていく人もいる。お年寄りは杖をたよりに、よじよじと歩を進める。
小店(キオスク)でベルギー産の缶ビール(値段不明)と、ピロシキ(ハルサメも入ってお惣菜風500P)を買ってホテルに帰る。
靴下がすっかりぬれて体が冷え切っているので、風呂がありがたい。
ためたお湯はかすかに黄味がかり、天然入浴剤かと思うとありがたみひとしお。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?