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“小鳥たち”のX'MAS② sideサトシ&カエデ(【連載小説】ライトブルー・バード第2部《2》)
前回までお話です↓
そして登場人物の紹介はコチラ↓
井原サトシ(17)&山田カエデ(17)
小学生時代からの幼馴染み。諸事情により、只今『うそカレ・うそカノカップル』の契約中。
井原ナルミ(18) サトシの姉でイケメン弟にそっくりの美少女。そんな彼女の性格は(……以外略)。
星名リュウヘイ(17) 一応主人公ですが、最近ほとんど出番ナシ。
《井原サトシ》
『世の中には、一体どれだけの〈偽装カップル〉が存在するのだろうか?』と井原サトシは思う。
そして『ソイツらはクリスマスを、どんなふうに過ごしているのだろう?』とも……。
(カエデのクリスマスプレゼント、マジでどうするかなぁ……)
土曜日の部活動を終え、帰りに立ち寄ったショッピングモールで「はぁ……」と、溜め息をつくサトシ。
カエデとは『偽装カップル』ではあるものの、自分が惚れているのは紛れもない事実なのだから、ちょっと奮発して、アクセサリーなんかを買ってもいいんだけど……と、本当は思っている。
しかしカエデにとって自分は、『ちょっと親しい幼馴染み』というポジションだ。そんなヤツから高価なモノなんかプレゼントされたら、絶対『重い!』と感じるに違いない。
でも、どうせなら彼女が喜ぶモノをプレゼントしたい……。
そんなことを考えながら、モール内にあるファンシーショップ系の店を何件もハシゴしているが、候補の1つすら見つけることが出来ていない。
「うわぁ、あの人カッコいい」
知らない女子たちが、自分のことを囁いているのが聞こえてくる。さっさ立ち寄った店舗でも、似たようなことを言われてた。その前の店でも……。
普段のサトシならば、『うぜぇ』『うるせぇ』という感情が発動するのだが、今回はそんなヒマすらない。
(う~ん……『重く』は感じないけれど、カエデが絶対喜びそうなモノか…。予算はどうするかな。3000円くらいなら無難か?)
そんな条件をクリアしたのは、今のところ図書カードくらいだ。さすがに『進級祝いかよ!?』と己にツッコミを入れてしまったが……。
「あ~、決まらねぇ、決まらねぇ」
ブツブツ言いながら歩いていたが、気分転換を兼ねて立ち寄ったゲームセンターで、彼はとうとう運命的な出会いをしてしまった。
そこはクレーンゲームコーナー。
景品として積まれていたクッションの柄を見た瞬間、サトシの脳内に電流が走る。
(チ、チ、チロルチョコクッションだとぉ!!)
それもカエデが一番大好きな『ストロベリーバニラ味』のデザインだ。
(そうだよ! 「ゲーセンで獲ってきたぜ!」って言えば、軽い気持ちで渡せるし、カエデも全然負担にならねーや。そんでもって、このデザインならアイツ絶対喜ぶだろうし。おー!! ゲーセン最高じゃね?)
自分のアイデアにワクワクしてしまい、思わず顔がにやけてしまう。
当初の予定よりも安く済んでしまいそうなのが申し訳ないが、まあ、自分たちは『偽装カップル』だし……。
「……だったら柄違いをもう1個獲って、2個渡せばいいか」
そんな独り言を呟きながら、サトシは100円玉を投入する。
1回目……。
アームはクッションに触れただけで、すぐに離してしまった。
(まぁまぁ……、流石に100円で取ったモノを渡すのはどうかと思うし……)
2回目……。
クッションをちょっとだけ持ち上げたものの、すぐにストンと落とされてしまう。
(そ、そうだよな。ゲーセン側だって、儲けは必要だし……)
3回目、4回目、5回目、6回目、7回目、8回目、9回目、10回目……。
(難しいな。……でも、ちょっと出口に近付いたし、そろそろか?)
15回目、16回目、17回目……。
せっかく近付いてきたのに、気まぐれなアームが、出口と反対方向へクッションをブン投げてしまった。しかも隅っこだ。スタッフに声を掛けると、『初期位置以外の移動はできません』と言われ、サトシは心が折れそうになる。
(マジかよ! でもここでやめたら、今までの課金が水の泡!!)
31回目、32回目、33回目…………44回目、45回目…………。
(だ、誰だよ!? 『安く済んでしまいそうで、カエデに申し訳ないな』なんて思ったヤツは!?)
51回目……。
(頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼むぅぅぅ!! 2個獲ろうなんて思わないっ! 1個!! あの1個だけでいいんだっ!!)
しかし、この願いは〈クレーンゲームの神〉に届かず、アームはあっけなくクッションを離してしまった。
「………………」
そしてとうとう軍資金が尽きてしまう。
(えっ? えっ? えっ? えっ?)
『お金が溶けた』感覚を今更ながらサトシを襲う。財布も……そして魂が抜けてしまった彼も、見事なぬけ殻状態になってしまった。
(図書カード……やっぱ図書カードにすれば良かったのか!?)
帰宅したサトシは、そのままリビングのソファーに倒れこんだ。
(いや、いっそのことクッションじゃなくて、本物のチロルチョコでも良かったんじゃね? 何個買えた?
あの溶けた金で一体何個買えたんだ!? えっと、1個20円だから、『5000÷20』で、……えっ? 250個!? そういや消費税はどうなんだ?)
そんな計算をしても、ただただ虚しいだけだと気がづいて、サトシは思考を一時停止させた。
「……に、してもよぉ」
そしてソファーの上で半回転。仰向けになり、天井相手にブツブツと呟く。
「5000円もつぎ込んだんだから、ゲーセン側も『お好きな景品を1つどうぞ』とか言ってくれても良くね~か? 昔、金魚すくいで1匹も取れなかった時、屋台のおっちゃんは、最後に好きな金魚くれたぞ……」
そう、あれは確か小学1年生の夏祭り……。1匹も金魚をすくうことができなかった涙目のサトシを、屋台のおじさんは優しく慰めてくれた。
『泣くな坊主。ほら、好きな金魚を3匹選んでいいぞ。頑張ったご褒美におっちゃんがオマケしてやる』
おじさんの声と笑顔が懐かしい。しかし、この後に挑戦をした姉のナルミが秒でコツを掴み、金魚を『乱獲』してしまったことで、今度はおじさんが涙目になってしまったのだが……。
(ナルミか……。一周回ってアイツはアタマおかしいぜ)
「たっだいまぁ💕」
噂(?)をすれば影。『元・金魚すくい屋泣かせ』のナルミがご帰宅だ。そういえば、朝食の時に「今日は一人でショッピングに行ってくる」と言っていたのをサトシは思い出した。
「おかえり」と返事することもなく、そのままソファーで寝転がっているサトシ。しかしリビングに入ってきた姉の姿を見た瞬間、彼は目を見開いて、ガバッと身体を起こした。
「な、なんだナルミ!? その格好は!?」
ナルミが肩にかけているのはビニール製の透明ナップザック……それも3袋! どうやら姉もゲームセンターに行っていたようだが、どの袋にも景品がぎっちりと詰まっている。
「見れば分かるじゃん? ゲーセンに行ったんだよ」
「オイオイ……オマエは一体、クレーンゲームに何万つぎ込んだんだよ!?」
「『万』? 使ったのは3000円くらいだけど?」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
クレーンゲームに5000円つぎ込んだ自分は、何1つゲットしていないのに、サンタクロースのように景品を背負っているナルミの課金は3000円……。サトシの口元がひきつってしまったのは当然のことだろう。
「サトシぃ、何、アホみたいな顔してんの?」
「ど、どうやったら、そんなに乱獲できんだよ?」
「んー? 昨日視たYouTubeのマネをしただけ」
「…………」
視覚のみ……それも短時間で、スキルを最大限に習得できるナルミは、もはや器用の域を超えていると思う。
「ナルミ、やっぱオマエは別の意味でアタマおかし……いっ?」
嫉妬心から憎まれ口を叩こうとしたサトシだが、姉の持っている袋の中の景品が目に入り、フリーズしてしまった。他の景品に隠れて、ほんの一部分しか見えていないが、それでも、彼はそれが何なのか秒で分かった。
何故なら数時間前、それをゲットするために悪戦苦闘していたのだから……。
(チ、チ、チ、チロルチョコクッションじゃねーか!!)
サトシは、袋の中で『その他大勢』的な扱われ方をしているクッションをガン見する。
「何だよ、サトシ?」
「……な、なぁナルミ」
姉に対して、こんな低姿勢な口調で話しかけたのは何年ぶりだろう……。
「はっ?」
「そ、その真ん中の袋に入っているチロルチョコクッション……、そのぉ、俺に譲ってくれねーか? もちろんタダとは言わねぇ。来月の小遣いが入ったら、3000……いや、5000円払う!!」
ポカーンとするナルミ。しかしすぐに状況を把握してニヤニヤと笑った。
「あー! カエデちゃんかぁ」
「そ、そうだけど、それが何か?」
「良かったじゃん。『偽装カップル』とはいえど、カエデちゃんのクリスマスプレゼントを考えられる立場になれたんだから」
「お、おぅ……」
ちなみにナルミは2人の『偽装カップル』事情を知っている。いちいち詮索されるのが面倒だと思ったサトシが、既に伝えたからだ。
「いいよ」
「へっ?」
「だからぁ、クッション譲っても」
「本当か!? ナルミ」
「うん。何となく獲ったヤツだから、タダであげるよ……」
そう言ってナルミはニッコリ笑う。しかし、その後に彼女は言葉を付け足した。
「……ただし、今から24時間、アタシのいうことに一切逆らわなかったら……だけどね?」
「えっ……ナニソレ?」
サトシの顔がひきつる。しかしよくよく考えれてみれば、あのナルミが素直に応じることの方がおかしいのだ。
「じゃあ、始めに『お願いいたします。お姉さま』って、言ってみようか?」
「い、言えるかっ!」
「ほーーーぉ? サトシぃ、そんなこと言っていいのかよ? アンタさぁ、さっきアタシのこと『アタマおかしい』って言いかけよな? それをスルーしてあげた上に、こんな簡単な条件でクッションくれてやるって言ってるんだから、涙流しながら土下座して感謝するのが普通だと思うんだけどねぇ?」
「してない……お前絶対にスルーしていない」
「どーすんだよ? リピート・アフター・ミーすんのか? しねーのか?」
「…………」
両腕を組ながら、顎を突きだし、『悪魔の笑み』を浮かべるナルミは下手なホラー映画よりも怖い。一体、この恐怖を何人の歴代彼氏に植え付けたのだろうか……とサトシは唐突に思った。
「金ないんだろ? カエデちゃんのプレゼントどーすんだよ? クリスマスは目の前だぞ?」
「お、お、お願……いいたします。お、おおおおお姉さま」
負けたっ!! そして何という屈辱!!!
「ハ~イ、よくできました💕」
そう言い残して、自分の部屋へ向かうナルミの軽やかな足音を聞きながら、サトシは心の中で『魔法の言葉』を唱えた。
(カエデの為、カエデの為)
そして日曜日の朝……。サトシはまだ夢の中にいる。
この日は、珍しく部活が休みなので、思い切り寝坊して、一日中家でゴロゴロしようかと思っていた。
しかしそんな弟にナルミは全く容赦ナシ……。
「サトシぃ、起きろよ」
部屋に乱入されただけでなく、テーブルクロス芸のように枕を引っこ抜かれたサトシは、一瞬何が起きたのか分からず、目を白黒させた。
「ナルミぃぃぃ! てめえ、朝っぱらから何すんだよっ!?」
状況を把握した彼は、当然激怒する。
「サトシ、今すぐ着替えて、ファミマに行ってこい」
「はっ!?」
「今、テレビ観てたら、ファミマのCM流れてて、新作スイーツ食べたくなった。金は出すから、ティラミスパフェ買って来い」
寝起きで記憶が錯綜していたサトシだったが、チロルチョコクッションと引き換えに、今日の夕方まで、自分はナルミの『奴隷』になっていたことを思い出す。
「おい、ちょっと待て。ウチの団地にあるコンビニはローソンだろ?」
「ファミマ限定なんだよ。ウダウダ言わずにさっさと支度しな。バスの定期があるんだから、交通費の心配はいらないよな?」
「わ、わかった、わかった。……でも、せめて午後にしてくれねーか?」
「アタシね、カロリーがヤバそうなスイーツは午前11時まで……って決めてるんだ💕 ……つーワケで、サトシ、ホラ行ってこいやっ!!」
「…………」
この団地を通るバスは、どの方面においても、1時間に1本あるかないかの状態だ。おまけに学生定期で行ける範囲のファミマよりも、別方向のファミマの方が数キロほど近い。
仕方がないので、サトシは自転車で目的地を目指した。
本当はまだ寝ていたかったのにっ!!……と思う。
「畜生ぉぉ! ナルミの野郎!!」
憎まれ口を叩きながら、サトシはペダルをこいだ。もちろん「カエデの為! カエデの為! カエデの為!」という『魔法の言葉』も忘れていない。
そして上り坂をクリアし、もう少しでファミマ……という時に、サトシのスマホがブルッと震えた。
「ん?」
LINEの着信だ。
「ナルミ?」
Narumi【気が変わった。やっぱローソンのチョコレートチーズケーキ買ってきて💕】
「あ、あ、あの野郎ぉぉぉぉぉぉ!!」
ローソンで目的のスイーツを無事に購入し、サトシはヘロヘロで帰宅。その後もナルミが担当だった、トイレ掃除やお風呂掃除もサトシが代わった。
そして極めつけは……、
「サトシぃ、これよろしく💕」
ナルミは弟に2冊の大学ノートを渡す。
「はっ? 宿題? 3年生の勉強なんて分かるかよっ!」
「あぁ、そっちのノートを、コッチにそのまま写すだけだから大丈夫。ウチの古典の先生、学期末にノート検査するから色々ヤバいんだよね」
どうやら1冊はクラスメイトのノートらしい。そしてナルミのものと思われるノートは、最初の数ページしか授業内容が写されていなかった。
「普段からノートとれよっ! 授業中、何やってんのオマエ!?」
「ネーム」
「はっ?」
「あ、あぁ何でもない」
珍しくナルミが動揺した。
「『ねーむ』って?」
「何でもないって言ってるだろ! ホラ、さっさとやれ! できる限りアタシの筆跡マネしろよ」
「…………」
もはや文句を言う気力もない。それに約束の24時間後はもうすぐだ。サトシは「カエデの為、カエデの為、カエデの為、カエデの為」と心で呟きながら、必死でシャーペンを動かした。
24時間をここまで長く感じたのは、多分初めてだと思う……。
「サトシぃお疲れ。よく頑張ったねぇ、その根性にお姉さまはびっくりだよぉ💕」
「お、おぅ」
本当に驚きだ。カエデの為とはいえ、キレずに最後までミッションを投げ出さなかった自分を誉めてあげたい。
「はい、約束のブツ」
ナルミはサトシに向かってクッションをポイっと投げた。
(ほ、本物だっっ!!)
分厚いアクリル板に隔てられ、自力では取ることができなかったチロルチョコクッション……。それを今、自分は抱きしめている。 目の前にナルミがいなかったら、感激のあまり、頬擦りしていたかもしれない。
「あ、そうだサトシ、ついでにこの景品もやるよ」
「はっ?」
サトシはナルミから小さなマスコット人形をキャッチした。
「それもカエデちゃんに渡せよ」
「な、何、この不細工な宇宙人?」
自分の手の中にいる青い顔をした未確認生物のマスコットをまじまじと見つめたが、『正直、あんまり可愛くないんですが?』と思う。
それでも、『1個だけ渡すよりも〈必死で獲りました感〉が薄まるんじゃね?』と思ったサトシは、有り難くマスコットをポケットへ入れた。
「あ、ナルミ、このクッションは、この俺がゲーセンで獲ったことにするから、カエデに会っても、絶対にネタばらしすんなよ」
「はいはい。わかっているって。じゃーね、メリークリスマス……にはちょっと早いか。エへへ……」
そう言いながら自室に戻るナルミをサトシは不安げに見送った。
「アイツ……本当にわかってるんだろーな?」
クリスマス両日はバスケの練習試合が予定されているので、サトシは23日に公園へカエデを呼び出し、例のクッションを渡した。もちろんラッピングも何もしていない。
「うわぁ! 可愛い❤️ サトシ、ありがとう!! よく取れたね。この景品のことは知っていたけど、クレーンゲーム苦手だから諦めてたの」
予想通りカエデは大喜び。愛しそうにクッションを抱きしめる。
「あ、あぁ、軽い気持ちでやったら、なんか獲れちまったよwww。それよりプレゼントがゲーセンの景品で悪いな。まあ、俺ら『偽装カップル』だし……」
カエデの喜ぶ顔を見たら、これまでの苦労など、どうでも良くなってしまった。
「ううん、物凄く嬉しい。……サトシ、実は私からもプレゼントがあるの」
「えっ? えっ? マジで!?」
サトシの心臓が高鳴った。
「これ……」
カエデはバックから、キチンとラッピングされたプレゼントを差し出す。
「さ、サンキュー」
プレゼントを受け取ったサトシ。ラッピングペーパー越しでも、これは『布系』質感だと察することができた。
(えーっ!? もしかして手編みのマフラーとか!?)
カエデは昔から家庭科が得意だったので、マフラーを編むのはたやすいハズだ。
「それ……タオルだから」
サトシの心を読んだかのように、カエデは言った。
「……あ、タオルね」
「うん。部活で使って」
なるほどな……とサトシは感心した。タオルなら、気持ちの『重さ』を感じにくいし、運動部の自分には何枚あっても助かる。『偽装カップル』の自分たちには絶妙なチョイスだ。
「……おう、有り難く使わせてもらうわ」
『偽装カップル』契約期間は高校卒業まで……。この先、自分たちはどうなるかは分からない。カエデの想いが星名リュウヘイに届く可能性だってあるのだから。
だけど今年のクリスマスは、歳を取っても、自分たちが将来別の相手を見つけても、きっといい思い出になるだろう。
そんなことを考えたら、ちょっと寂しくなったけど……。
「あ、いけねぇ! 忘れるところだった」
サトシは我に返り、ポケットを探ると、『未確認生物マスコット』を取り出した。
「えっ?」
それを見たカエデは目を丸くする。
「あ、クレーンゲームで一緒に獲ったヤツだけど、これもやるわ……あんまり可愛いくな……い……けど……って、オ、オイ? どうしたカエデ!?」
『未確認生物マスコット』を見つめるカエデの目はキラキラ輝いている。これがマンガなら、きっと彼女の瞳はハートマークで表現されるに違いない。
「ハンギョドン! ハンギョドンだぁ💕 可愛い💕💕」
「えっ!?」
明らかにチロルチョコクッションを越える反応だ。
「可愛い💕 本当に可愛い💕」
「か、可愛い……んだ? ソレ」
サトシはめちゃくちゃ引いている。
我を忘れて『ハンギョドン』に頬擦りするカエデ。『どちら様ですか?』と言いたくなるほど、彼女のキャラは変わっていた。
「私、最近ハンギョドンにハマって、グッズ集めているんだよ」
「へ、へぇ~」
「あー!? サトシ、もしかしてナルミちゃんから聞いた? この間、バス停でナルミちゃんに会った時、サンリオの話で盛り上がったから……」
「…………えっ?」
カエデを家まで送り届けたサトシは、そのままローソンへと向かった。
「確か……Dカードに300円くらい残ってたよな?」
そう呟きながら店に入り、アイスクリームコーナーでハーゲンダッツを手に取る。
「……たくよぉ、完全にスッカラカンだぜ」
そして……、
家に着いてリビングを通ると、ソファーでテレビを観ているナルミが目に入った。
「あ、サトシぃ、お帰りぃ。どうだった? キスくらいできたか?」
「…………」
ニヤニヤするナルミの質問には答えず、サトシは姉の前にハーゲンダッツアイスクリームをどんっ!と置く……。
『ハーゲンダッツアイスクリーム・スペシャルピスタチオ味』は、ナルミが一番好きなフレーバーだ。
「あれぇ? どういう風の吹きまわし?」
サトシは無愛想な顔で姉を見て、無愛想な声でボソッと呟いた。
「クレーンゲームで獲ってきた」
《山田カエデ》
サトシに送ってもらい、家に戻ったカエデは、彼から貰ったチロルチョコクッションと未確認生物……改め、ハンギョドンマスコットをベッドに並べる。
「可愛い💕」
何度見ても飽きない。
そして彼女は、思い出したように呟いた。
「サトシ……気づいたかな?」
あのタオルの隅に刺繍してある『I.SATOSHI』の小さな文字を……。そして、タグの方にはバスケットボール柄の刺繍を施した。どちらも小さくて大変だったが、我ながら上手く出来たと思う。
「う~ん、気づいて欲しいような、欲しくないような……」
クッションを抱きしめ、窓を開けるカエデ。彼女が見ているのはサトシの家がある方角だった。
明日はクリスマスイブ……。
《3》↓に続きます。