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“小鳥たち”のX'MAS④ sideケイイチ&ユウスケ(【連載小説】ライトブルー・バード第2部《4》) ⚠️今回はちょいBLです。
↓前回までのお話です↓
↓そして登場人物紹介はコチラ↓
土居ユウスケ(21) 自他共に認めるチャラチャラ系フリーター男子。基本モットーは『今が良ければ別にいい』。しかし最近は、仕事に対して真面目に取り組んでいる新たな一面も。幼なじみである白井ケイイチとの『半同棲』状態が功を奏しているのかいないのか……。
白井ケイイチ(21) ユウスケの幼なじみ。一度サラリーマンを経験したが、夢を叶える為に大学受験を決意した。そんな彼は、現在独り暮らしを始めたユウスケの生活能力の低さを見るに見かねて、ついつい世話を焼いてしまっている。それはやはり『愛』故なのか……。
星名リュウヘイ(17) ユウスケにとっては『ビミョーな天敵』、ケイイチにとっては『可愛い弟分』。一応主人公なんですが、最近、本当に出番がないなぁ(苦笑)
小暮サヨコ(アラサー) ユウスケの元バイト先、そしてケイイチとリュウヘイの現バイト先であるファストフード店の敏腕マネージャー。仕事内でも仕事外でも頼れる存在で、ユウスケとケイイチの事情は、しっかり把握している。
今泉マナカ(17) ファストフード店でアルバイトをしている容姿端麗な女子高生。リュウヘイの片思い(&初恋)相手。彼女も最近はリュウヘイのことが気になっているようで……。
《土居ユウスケ》
人は想定外の返事を貰った時……それが例え『イエス』だったとしても、脳が一瞬バグってしまい、喜ぶ前に複雑な表情をしてしまう……。
土居ユウスケが幼なじみの前でそんな顔を晒してしまった理由は、まさにソレだった。
「どうしたのユウくん? 何か悪いモノでも食べたような顔をして」
白井ケイイチは首を傾げる。
「あ、い、いやぁ…その…」
「?」
「……お前がすんなりOKしたから、なんかビックリした」
「…………はっ?」
『ケイ、クリスマスイブは俺と一緒に遊ぼうぜ!』と、いつものノリで言ったユウスケだったが、ケイイチに白い目で見られることは、最初から覚悟していた。
『はっ? ユウくん、僕は一応受験生なんだけど』とか『バカじゃないの?』という言葉が容易に浮かんでくる。
そこから必死に説得する予定だったユウスケは、あっさり「いいよ」という返事を貰ったことで、なんだか拍子抜けに近い感覚を覚えてしまった。
(えっ? もしかして俺は、ケイの塩対応を期待してたの!? それって精神的なドMじゃね?)
自分で自分が解らない。
「サヨコさんに言われたんだよ。『ケイイチ、クリスマスなんだから、たまには勉強もバイトも忘れてリラックスしろ。年末年始にこき使ってやるから、給料は心配するな』…ってね」
「あー、なるほどね」
納得した。ケイイチが一目置いている小暮サヨコの言葉であれば、いくら意地っ張りの彼でも素直に従うしかないだろうから。
「まあ、『ディズニーランドに行こう』って言われたらさすがに断ったけどね。パーク内の物価は高いし、きっと激混みだろうし、そもそも僕らは柄じゃないし……」
そう言って苦笑いをするケイイチ。
「あ、あぁ……そうなんだ」
『実はその夢の国も候補地でした』なんて言えない。費用は自分が負担するつもりでいたが、彼が固辞することは目に見えていたので、残念だが却下していた。
そんな時、職場の先輩がユウスケに『クリスマスディナーバイキング』のチケットを2枚譲ってくれた。
「別の用事が入っちゃったから、この券は土居にやるよ。彼女と2人で行ってこい」と言われたが、これをケイイチとのクリスマスに利用しない手はないだろう。貰ったモノだと言えば、ケイイチに余計な出費をさせずに済む。
「だけどユウくん……そのチケットは君の好きな女の子に有効活用した方がいいんじゃないの?」
怪訝そうな顔をするケイイチに、ユウスケは思い切り首を横に振った。
「いやいやいやいや、今狙っている女の子なんかいない……って何回言わせんの? 俺はケイと喋っている方が楽しいし、オマエは息抜きになるんだから丁度いいだろ?」
「……うん。まあいいんじゃないの」
「じゃあ、決まりな! 24日は予定空けとけよ」
☆☆☆☆☆
そんな約束をしたのが、約3週間前のこと。そして今日は待ちに待ったクリスマスイブだ。ユウスケは眩しい西日が入る自宅マンションで、ケイイチが来るのを待っていた。
ケイイチも自分も仕事は丸一日休みなのだから、昼間から遊んでも良かったのだが……、
「ユウくん、ごめん! やっぱり勉強しないと落ち着かない! 集合時間までは家で勉強させてっ! あ、サヨコさんにはくれぐれも内緒で……」
(ケイのヤツ、どんだけ勉強が好きなんだよ)
中学生の頃、彼のやり方を参考にしようと思い、勉強のコツを聞いたら、『う~ん、まずは教科書を全部覚えることかな。それからね……』とさらっと言われてしまい、秒で諦めたことを思い出してしまった。
勉強好きもここまでくると、こちらの方が「バカじゃないの?」と言いたくなる。まあ、それが白井ケイイチという男なのだが……。
「んっ?」
スマホの着信音がユウスケを呼んでいる。ケイ?……と思いながら画面を見たが、そこには違う友人の名前が表示されていた。
「コイツか……」
ゲッソリするユウスケ……。
昨日、この友人男性から『合コンに参加してよ‼️』というLINEメッセージを貰っていたのだが、『先約あるから無理(-_-)/~~~』と秒で返事を返していた。断ったにも関わらず、こうやって電話してくるのは、男性側の人数が未だに確保できていないのだろう。
もう一度しっかり断ろうと思ったが、それすら面倒に感じたので、あとの対応は、留守電にお願いすることにした。
(知らんがな)
それにしても……と思う。
ちょっと前の自分は合コンなんてワードを聞いたら、頼まれなくても積極的に参加していただろう。
自分が自分じゃないみたいだけど、これが今の自分。今はケイイチといる方が楽しい。ただそれだけの……。
その時、ピンポーンとインターホンが鳴った。今度こそ間違いなくケイイチだ。「ケイ、オマエは黙って入って来ていいんだよ。せっかく合鍵作ったんだから……」とユウスケが口を酸っぱくして言っているにも関わらず、彼はこうやって毎回インターホンを押している。
(全く……ケイのヤツ、本当に頑固だよな)
そんなことを思いながらユウスケが勢いよくドアを開けると、そこにはコートを羽織ったケイイチが立っていた。
「オッス! ケイ、勉強はかどったか?」
「……うん、まあね」
(んっ?)
たった一言だけ発したケイイチの口調に、ユウスケは一欠片の違和感を覚える。
(んー? ……まあ、いいか)
己の感覚をスルーしたユウスケは、「とりあえず入れよ」とケイイチを招き入れ、自分は先にリビングへ向かおうとした。
しかし何気なく振り返って玄関を見ると、靴を脱ごうとしているケイイチの身体が必要以上にグラグラしていることに気がつく……。
「ケイ、どうした?」
「『どうした?』って何が?」
満面の笑みを浮かべるケイイチ。
しかし必要以上に口角が上がっている幼なじみの顔を見て、ユウスケは確信した。
「ケイ!!」
大股で玄関に戻ったユウスケは、何も言わずにケイイチの額に手を当てた。その手はすぐに振り払われたが、一瞬触っただけで充分だった。
かなりの高熱だ!!
この意地っ張りな幼なじみは、体調不良になると、それを隠す為に、却って表情が豊かになる……ということをユウスケはすっかり忘れていた。
「ケイ!! オマエ凄い熱じゃないか!! 何無理してんだよ!?」
「……ユウくん、大げさだよ。こんなの大したことないって……」
今、自分に向けているケイイチの笑顔は、中学時代に40度の熱がありながらテストの為に登校し、周りを騙していた時のモノと全く同じだった。
「馬鹿野郎っ!!!!」
「…………」
「俺まで騙そうとしてんじゃねーよっ!! …ってか、俺が騙されると思ってんじゃねーよ!! そもそも何で俺の前で無理しようとしてるんだよ!?」
「…………」
「もしかして言い出しっぺの俺に気を使ってる!? そんなことされたって、俺は嬉しくも何ともないからっ!!」
「……ユウくん」
「…………」
「ごめん……いつも君に『バカじゃないの?』なんて言っているクセに、僕の方が大馬鹿だね」
ケイイチは観念したのか、ガクッと膝から崩れ落ちた。
「ケイ、大丈夫か!? 医者行くか?」
ケイイチは肩で息をしながら首を横に振る……。
「……このまま……休んでいた方がいい。ユウくん、ソファー借りるよ」
ヨロヨロと歩き出そうとするケイイチに、ユウスケは「動かなくていい!!」とストップをかけた。そしてケイイチの腰と足を両手ですくいあげ、そのまま彼を持ち上げる。
「えっ!?」
「えっ!?」
持ち上げたユウスケと持ち上げられたケイイチは同時に言葉を発した。
これって『お姫様抱っこ』じゃないか!!??
(……ってか、ケイのヤツ体重軽っ!!)
ユウスケは心の中で、更に驚きを重ねていた。ケイイチの身長は確か170センチだったハズだ。痩せているとは思ったが、ここまで軽いなんて!!
(まあ、俺は運送の仕事で筋力がついたからなぁ……)
あっという間にケイイチをベッドまで運んだユウスケは、自分のパジャマを貸そうとして、荒々しくタンスを開けた。
「え~っと、パジャマパジャマ……パジャマはどこだっけ?」
「……下から2番目の左端」
ユウスケの独り言にケイイチが指を差しながら反応する。
「おっ! あったあった。ケイ、これに着替えろ」
「サンキュー。……あ、ユウくん……冷蔵庫に冷えたアクエリアスあるから、ソレ持ってきてくれる?」
「了解。……あ、そうだ! 俺、今から冷えピタ買ってくるよ」
「……冷えピタならテレビの下の引き出しにストックしてある」
ユウスケの口がポカンと開く。
「ケイ、オマエ……俺より俺の家を熟知してねーか?」
「まあね」
力なく笑うケイイチ。彼はそのままパジャマに着替え、「ユウくん、本当にごめん」と言い残し、あっという間に眠りについてしまった。
☆☆☆☆☆
外は既に真っ暗になっていた。ユウスケはベッドの端にもたれながら、常夜灯だけがついている照明器具を見つめていた。ケイイチは相変わらず寝息を立てているが、その呼吸は数時間前より落ち着いている気がする。
世間はクリスマスイブに浮かれまくっていることだろう。自分たちだけが、この世界から切り取られ、別の世界に貼り付けられたような気分だ。
「まあ、仕方ないけどね」
考え方によっては、体調を崩した日が今日でラッキーだったかもしれない。ケイイチは今日も明日もバイトがオフなのだから……。もし、そうでなければ、彼はあの嘘臭い笑顔と共に、強行出勤したに違いない。
「……頑張り過ぎなんだよ。バカ」
独り言を呟いた瞬間、ベッドからか細い声が聞こえた。
「…………くん」
「んっ? ケイ?」
慌てて枕元を覗き込んだが、ケイイチは眠ったまま……。どうやら寝言だったらしい。
「ユウ……くん」
「えっ? 俺?」
自分の夢でも見ているのだろうか? ユウスケは少しくすぐったい気分になった。
「……ユウくん……それ、ほうれん草じゃなくて小松菜……」
「はぁ? 俺はオマエの夢ん中で何やってんの?」
ユウスケは溜め息をついて、夢の中にいる親友の寝顔を見つめた。
そして考える……。
何故、自分の中にいるケイイチの存在が、日に日に大きくなっているのだろう?……と。
お互いが相手に言えない事情を抱えて、疎遠になってしまった期間があった。その月日を取り戻したいからなのか?
それとも
もう一度訪れるであろう『別れ』に備えて、必死で思い出作りをしているのだろうか?
ケイイチは来年、間違いなく志望大学に合格する。そしてキャンパス内で同じ未来を志す価値観の合う仲間たちに出会えるだろう。
自分は、ケイイチが大学に入学したら、一歩引いた場所から彼を見守るつもりでいる。もちろん寂しいけれど……。
どちらの仮説が正解なのか、自分でもよく分からないが、今はただ、この気持ちを大切にしたい。
ただそれだけだ。
「……さて、冷えピタ交換するか」
ケイイチの額からシートを剥がし、手のひらを当てて熱さを確認する。
「下がって……いる気がする」
そんなユウスケの手はケイイチの顔から離れることなく、そのまま額から頬へと滑り落ちた。
「…………はっ? 何やってんの俺?」
自分の手がケイイチの頬をすっぽり包んでいる光景で、ようやく我に返り、思い切りドン引きするユウスケ……。
「…………」
そして慌ててベッドから離れ、タバコを鷲掴みにすると、彼は逃げるようにベランダへと向かう。
やっぱり自分で自分が解らない!
タバコの煙が蒸気機関車のように広がる中、夜が隠すユウスケの顔色は、熱が上がったように真っ赤だった。
《白井ケイイチ》
カーテンの隙間から光がさしているのが見えた。昨日の夕方からずっと眠っていたのだから、かなりの睡眠時間だ。そのおかげで、今はだいぶ楽になってきたのが分かる。
(……久しぶりによく寝たな)
たくさんの夢をみた。そしてそこには何度もユウスケが現れた。『一体、自分はどれだけ彼のことが好きなんだよ!?』とツッコミたくなるほどに……。
懐かしい夢もみた。あれは小学5年生の時だ……体育の時間……ソフトボールの班編成。
『ケイ、早く俺の班に来いよ!』
夢の中のユウスケが自分に手招きをする。昔から成績優秀のケイイチだったが、運動神経だけは平均以下で、団体競技はいつも仲間の足を引っ張っていた。
案の定、仲間の一人がブーイングをしたが、そんなクラスメートにユウスケは一喝した。
『はぁ!? プロでもねーのに、そこまで勝ち負けに拘ってどーすんの? 俺は一緒にいて楽しいヤツと同じ班を作るつもりだから!!』
「…………」
夢は一言一句間違えずに、ユウスケのセリフを再現してくれた。ケイイチは、ベッドの中でクスクスと笑う。
良く言えば『今を楽しむ主義』。悪く言えば『その場かぎりのキリギリス野郎』のユウスケ。誤解されることの方が多いが、自分はそんな彼がやはり好きだ。
そんなワケで、昨日からのアクシデントは、荒っぽいサンタクロースからの贈り物ではないか……と思ってしまう。
(お姫様……抱っこ…………とか)
思い出すと顔が赤くなる。そんな時にユウスケが部屋に入って来たので、ケイイチは思わず掛け布団を鼻の頭の位置まで被せた。
「おはよ、ケイ! 大丈夫か?」
「……うん、大丈夫」
「どうした?」
「なななな何でもないから!!」
「?……まあ、いいや。ケイ、食欲あるか? 昨日の午後から何にも食ってねーから、腹に優しいモノ……って思ったから、お粥作った」
「えっ!? ユウくんが?」
彼の料理センスは、ハッキリ言わなくても壊滅的なのだが……。
「大丈夫。ネット検索しながら作ったから。へへへ……俺もやればできるんだな。今、こっちに運んで来るから無理しない程度に食えよ。あ、ついでにリンゴもすりおろした」
「ありがとう」
クリスマスのご馳走より嬉しいよ……なんてユウスケに言ったら、彼はどんな顔をするだろう。
もちろん、そんなこと口が裂けても言えないけれど……。
「じゃあ、僕はうがいしてくる」
「えっ!? 部屋から出るの?」
「当たり前でしょ? ご飯の前に口ぐらいゆすがせてよ」
「そ、そそそそうだよね」
顔が引きつり始めたユウスケに、ケイイチは首を傾げたが、キッチンを通りかかったことで全ての謎が解けた。
「はぁ!?」
ここにピンポイントで大地震が直撃したのか?……と思ってしまうくらい鍋や食器、そして食材が散乱している。
「………………」
どうやったら、お粥とすりおろしリンゴだけで、キッチンがここまでメチャクチャになるのだろう……。
再び熱が上がりそうになるケイイチ……。
「ケイ……え~と、ごめん。後で俺が片付けるから」
振り返ると頭を搔いているユウスケがバツの悪そうな顔で立っていた。そんな親友の姿を見てケイイチ思わずクスっと笑ってしまう。
「ユウくん、君はある意味天才じゃないの?」
《エピローグ・土居ユウスケ》
元バイト先であるファストフード店は、イブが過ぎた今日もかなりの賑わいだ。
その様子を確認したユウスケは、スタッフルームに足を運び、扉の暗証番号を押した。彼はもう関係者でないのだから、本来はルール違反の行為だろう。
(店長、そしてサヨコさん、今日だけは大目に見て下さいね)
スタッフルームでは、休憩中の星名リュウヘイがハンバーガーを頬張っているところだった。
「よお星名!」
「えっ!? 土居さん」
リュウヘイは目を丸くしたが、すぐにニコリと笑って頭を下げる。
「へぇ~」
この想定外の笑顔にユウスケは驚いた。彼は以前、自分の軽口でリュウヘイを怒らせたことがあったからだ。
「な、何ですか?」
「お前、俺のこと嫌いなんじゃないの?」
「えっ? そんなことありませんよ。土居さんのことはケイイチさんから色々聞いているし、それに……」
「ん?」
「『さよならドラえもん』を観て泣く人に、悪い人はいません!」
八重歯を見せながら力説するリュウヘイに、ユウスケは頭を抱えた。
「ケイの野郎……」
彼には後で苦情を入れようと決めた。
「で、今日はどうしたんですか? 面接? サヨコさんならまだ店ですよ?」
「いやいや、ここに戻る気はねーから。今日は星名に用があって来たの!」
「へっ? 俺に?」
その時、扉の開く音と共に、誰かが入ってきた。
「お疲れさまです」と言った声の主はアルバイトの今泉マナカだ。
(よし、ナイスタイミング!!)
「よお! 今泉さんお疲れぃ! そして久しぶりぃ!!」
ユウスケは思い切りテンションを上げる。
「えっ? 土居さん?……あ、お久しぶりです」
当然ながら驚くマナカ。ぎこちない挨拶はユウスケへの苦手意識が原因だろう。しかし彼は気づかないフリをして、2人に向かってマシンガントークを始めた。
「実は昨日、ケイとディナーバイキングに行く予定だったけど、アイツ熱出しちゃってさ……。で、このチケットの有効期限が25日の今日までなんだけど、ケイは完全に回復していないし、俺は夕方から仕事だから、行くのは無理なんだよね。そしたらケイが『リュウくんにあげたい』って言ってきてさ……。だから俺がここに来たってワケ。星名、今日は仕事の後は暇? 暇? ねぇ暇? あ、ここで会ったのも何かの縁だから今泉さんもどお? 同じ店のスタッフ同士で親睦深めてこいよ!!」
一気に言い切ることが出来た自分を誉めてあげたい……。
2人の高校生はユウスケの勢いに圧倒されているようだ。そんな中で最初に口を開いたのは、意外にもマナカの方だった。
「私は……行ける……けど?」
「えっと……俺も大丈夫。予定ないし」
(お!)
ユウスケは心の中でニヤリと笑う。
「よし決まり!! チケットは星名に預けておくな。……じゃ、俺はこれで! メリークリスマス」
リュウヘイに2枚のチケットを渡し、足早にスタッフルームをあとにするユウスケ。その背中に向かって「土居さん、ありがとうございます!」と言う2人の声が聞こえた。
☆☆☆☆☆
数時間前、ユウスケとケイイチはチケットの譲り先を探していたが、なかなかタイミングの合う知り合いを見つけることができなかった。
「じゃあリュウくんはどうかな? あ、そうだ! どうせなら……」
そう言うやいなや、ケイイチはスマホに撮ってあったシフト表を確認した。25日の14時に休憩を取るスタッフはリュウヘイとマナカの2人だけだ。
「ラッキー」と呟いたケイイチは、ユウスケに訪問時間を指定した。
そして「リュウくんと今泉さんが揃っていたら、ユウくんの軽いノリで2人まとめて巻き込んで欲しい」……と。
「よし、ミッション終了」
外に出たユウスケは、両腕と背筋を思い切り伸ばす。
流れは予想以上にスムーズだった。ただし、この『ミッション』はタイミングよりもリュウヘイとマナカ……お互いの気持ちの方が大切だろう。もしも気が乗らない相手であれば、あんな提案に首を縦に振るワケがないのだし……。
特に女の子は……
と、いうことは?
「もしかしてケイのヤツは気づいてた? だとしたら、アイツはとんだ策士だな」
ユウスケはヘラヘラ笑い、ケイイチが待っている自宅マンションへ早足で向かった。
うつむきながらも横目でリュウヘイの顔を見ていたマナカを思い出し、「サンタクロース役をやるのも悪くねーなー」と呟きながら……。
今日はクリスマス!!
《5》↓に続きます。