22時のマクドナルド(ライトブルー・バード完全番外編sideケイイチ)
🌟こちらは連載小説『ライトブルー・バード』ではありますが、ストーリーには全く関係ない《完全番外編》でゴザイマス。
(早ければ)今年12月の文学フリマに参加する予定で、アンソロ本のテーマが『東京✕12月1日✕グルメ』なんですよ。 私、食べるのは大好きなのですが、グルメとは縁遠いので、馴染みのキャラと馴染みのファストフードで練習してみようかと思いました😅
ストーリーにはXの相互サマに作って頂いたモチーフアクセ『ケイイチがユウスケに贈るピアス』も登場しております(やまちさん、この場を借りて改めてお礼を申し上げます🙇)
よろしくお願いします。ちなみに今回の登場人物はこのバカップル2人(厳密に言えばケイイチだけかな😅)です↓
《白井ケイイチ》
田舎の人間が都会のパワーを手っ取り早く感じるには、夜のマックが最適かもしれない。
マクドナルドJR東京駅店に足を踏み入れた白井ケイイチは、ふとそんなことを思った。
3ヶ所全てにずらっと客が並んでいるオーダーカウンター。マックに行列のイメージは付きものだが、あと数分で22時になることを考えると、まるで自分が《マクドナルド異世界店》にでもいるかような印象を受けてしまう。自分がアルバイトをしているファストフード店であれば、この時間は既に閉店で、クローズ作業を黙々と行っている最中だ。
(流石、東京のマック……ウチの店での昼ピークレベルの賑わいだな)
地元にも、ここ東京駅店と同じように24時まで営業しているマクドナルドは1件あるが、お祭りなどのイベントがない限り、こんなに客が集まることはないだろう。
「イラッシャイマセ」
レジカウンターに立っていたのは、背の高い外国人男性だった。思わずクルーの顔を見上げてしまうケイイチ。ちなみに隣のレジを担当しているのも外国人男性で、プレゼン専用カウンターでは金髪碧眼の女性が客に商品を手渡している。
国際色豊かな店舗だな……と改めて思う。
「あ、ハイ、お願いします……えっと」
ケイイチはクルーに笑顔を向けた。
「ベーコンレタスバーガーのセットを……」
「ハイ。サイドメニューは、ポテトでヨロシイデスカ?」
彼は……留学生だろうか?
「はい。ミディアムサイズで」
「ハイ」
語学が得意なケイイチは、ネイティブな英語だけでなく、フランス語と韓国語も日常会話程度ならば軽く操ることができる。なのでバイト先での外国人客対応に困ったことは一度もない。
「ドリンクはホットコーヒーのブラックでお願いします」
「カシコマリマシタ」
そんなケイイチだが、今、目の前にいるカウンタークルー対しては、尊敬に近い念を感じてしまう。異国に飛び込んで働く彼らは、たまに外国人の客を相手にしているだけの自分とは全然違う。
(大変だろうな。日本語が通じない日本人客って結構いるから……)
つい最近来店した日本人カスハラ客を思い出し、ケイイチは思わず苦笑いする。
「あ、ベーコンレタスバーガーにはオニオン多めでお願いします。それとトマトトッピングを2枚で」
「ハイ」
オニオンの増量は無料だが、トマトは1枚につき30円。よく考えれば、安くないトッピング料だと思う。
(でも、せっかく東京に来たんだし……)
普段のケイイチならば、それを『贅沢な出費』に分類してしまうだろう。『たかが60円、されど60円』と思いながら……。
しかし今回は、東京という場所が、ちょっとだけ彼の財布の紐を緩めたようで、思わず2枚もオーダーしてしまった。
(一度、やってみたかったんだよね)
「他に ご注文はゴザイマスカ?」
「以上です。……あっ、ゴメンナサイ。ナゲットソースのバーベキュー味を1個追加で」
また『贅沢』をしてしまった。バーベキューソースはナゲットだけでなく、ポテトとも相性がいい。
ナゲットソース単品は1個40円で購入することができる。先ほどのトマトを合わせると『贅沢費』の合計はプラス100円。これで特別感を味わえるなら安いものだろう。幼馴染の土居ユウスケが側にいれば、意外そうな顔をされるかもしれないけれど……。
「お会計、780円デス」
クルーはオーダーを確認することなく、合計金額を告げた。
秒単位での提供時間にこだわるマクドナルドでは、復唱はしないと聞いたことがある。勿論、聞き取った商品名や数に自信がない場合は別だが、基本は一度のみ。改めて外国人クルーへの敬意を感じながら、ケイイチは1080円をトレーに置く。
「ん?」
その時、LINEの通知音が聞こえた。ポケットからスマホをそっと取り出し、ホーム画面だけをチラ見する。
(……またユウくんか)
アプリを開かなくても分かる。現在地の確認、又は『あ〜!俺も東京行きたかったな(泣)』という恨み節のどちらかだろう。午前中からちょこちょこと受信するユウスケのメッセージは、ほぼこの2種類なのだから……。
(だから、今回は無理だったんだって!!)
ケイイチは先回りしてユウスケの予定を確認し、彼のシフトが入っている日に東京行きをぶつけてきたのだ。
(着いてこられたら困るんだよ!!)
ケイイチは自分のショルダーバッグへチラリと視線を送った。
(人の気も知らないで……)
商品を受け取ったケイイチは、トレーを持ちながら2階の飲食スペースへと向かった。
「あ、スイマセン」
他の客とすれ違う時には、お互いが気を使わなければならないほどの狭さだ。
(…………席、空いているかな?)
階段を上りきると、満席状態の客席が飛び込んできた。荷物だけを置いて席を確保する勇気はなかったので、暫くウロウロするしかないだろう。想定内ではあったが、やはりため息をついてしまう。
そして空間全体を見渡す。
(なんか『水槽』の中にいるみたいだな)
不意にそう思った。
《眠らない街》が凝縮されたような空間で食事を楽しむ老若男女が、夜の液体で泳ぐカラフルな熱帯魚に見える。
スマホから目を離さずにポテトをつまむ男の子や、食事そっちのけで会話をしている2人の女子。向こうには疲れた顔でホットコーヒーに口をつけているビジネスマンのような男性もいた。
「………………」
そして客席も国際色が豊かだった。どの方向を見ても外国人客が目に入るのだから……。
「Hi!」
1人の外国人男性と目が合い、向こうから声を掛けてきた。
「ハ、Hi……」
視線がぶつかってしまった以上、とりあえず笑顔は返した方がいいだろう。
「You can sit hear.this seat is open!」
(えっ?)
おそらく外国人氏は親切心で相席を勧めているのだろう……そう信じたい。店内はかなり混んでいるのだから。
しかし直後に見せた彼のウインクによって、以前、見知らぬ年上男性から執拗に口説かれたことを思い出してしまった。
(………………)
最近になって気付いたことがある。
もしかして自分は『同性から口説かれる率』が高いのでは!?
何とか笑顔を持続させながら、ケイイチは口を開いた。
「えっと……Thankyou for your kindness. but……」
そして続ける。
「……but.I'm meeting up with a friend 」
英語が話せないフリをして、その場から離れようと思ったが、友達と待ち合わせをしていると嘘をついた方が無難だろう。外国人氏に向かって軽く頭を下げたケイイチは、客席を再び歩き始めた。
(ユウくん…………)
隣にユウスケがいないことを、少しだけ心細く思う。
(……………って、僕は女子かよ!?)
想い人である幼馴染の顔を思い浮かべながら、ケイイチは苦笑いをした。
席は数分後に確保することができた。
「イタダキマース」
お2人様用のテーブルはトレーの幅とほぼ同じサイズだ。そして隣の席との間隔は、ビックリするくらい狭く、華奢なケイイチでも窮屈に感じてしまう。
(ま、仕方ないけど)
ケイイチはホットコーヒーにそっと口をつける。
今日12月1日は、一日中ありえない暖かさだった。日が落ちて数時間たった今でも、厚手のコートが邪魔になるような気温をキープしている。
それでもホットコーヒーは、身体の芯へと心地よく染み渡ってくれた。
そしてメインであるベーコンレタス《+トマト2枚》バーガーのラップを開いて、一口目にかぶりつく。
「……………ウマッ」
マスタードソースが生野菜に絡み、ツンとした辛さが口の中にジュワッと広がった。トッピングしたトマトの酸味が、やはり《いい仕事》をしている。
生野菜が好きなケイイチがマクドナルドでオーダーするのは、ほぼベーコンレタスバーガーだ。
たまにサムライマックの『炙り醤油風ベーコントマト肉厚バーガー』を頼むことがあるが、こちらは肉のボリュームで、ポテトを食べきるのがキツくなってしまうことがある。
(美味しいし、オニオンがスライスなのは嬉しいんだけどね)
更に醤油ソースの味が、自分には少々濃いと感じるので、コチラを注文する際は、サイドメニューをポテトS、ソースを少なめ、スライスオニオンは多めで調整している。
ちなみにユウスケがいつもオーダーするのは、同じサムライマックシリーズの『ダブルビーフ肉厚バーガー』だ。ケイイチが「ボリュームありすぎ」と言っている肉が2枚も入っているが、彼はそれを醤油ソース多めでペロリと平らげてしまう。ちなみサイドメニューはポテトのL! 20代男子なら普通の食欲かもしれないが、ケイイチは毎回感心するばかり……。
カロリーの摂りすぎ(そしてお金の使いすぎ)は気になるが、ケイイチは彼が美味しそうに食べている姿を見るのは好きだ。
「………………」
向かい側の誰も座っていない席に、ハンバーガーを頬張るユウスケの姿を重ねる。
(……近いうちに、ユウくんと一緒にマック行こうかな)
ケイイチはクスッと笑うと、バーベキューソースをつけたポテトをパクッと口に入れた。
ポテトをつまんでいた指を丁寧に拭き、ケイイチはショルダーバッグに手を掛ける。
取り出したのは『Jewelry✡YAMACHI』というロゴが印刷されているオシャレな紙袋で、その中にはラッピングされているピアスが入っている。そう……、今回の上京は、ユウスケの誕生日プレゼント購入が目的だった。
数日前にたまたま立ち寄った書店で、メンズファッション雑誌を開いたユウスケが、「欲しいなー」と呟いたのをケイイチは聴き逃さなかったのだ。
「へぇ~、ユウくんは何が欲しいの?」
軽い気持ちで質問するフリをしながら、お目当てのピアスを突き止めたケイイチ。そして解散直後に書店へ戻って、先ほどの雑誌を購入し、商品の情報や問い合わせ先をチェックした。
(えっと……『Jewelry✡YAMACHI』の『ブルー・バードシリーズ』か)
青い石に鳥のチャームがついたピアスの写真下には、そう記されている。
ネットで確認したところ、青いストーンの種類は3種類あることが分かった。……が、雑誌に掲載されていたターコイズverは、残念ながらソールドアウト。残るはタンザナイトVerとアクアマリンVerなのだが、どっちを選んでいいのか悩んでしまった。
(いっそ東京の直営店に行ってみようかな……)
バイトがオフで、更にユウスケのシフトが入っている日は3日後だ。高速バスをネット予約しながら、「決断早っ!」と、己の行動力に驚くケイイチだった。
直営店で悩んだ結果、彼は水色に輝くアクアマリンVerの方を選んだ。
あとは最終便の高速バスが発車するギリギリまで東京を楽しもうと思い、彼は現在、夜のマクドナルドにいる。
(あと20分か…………)
腕時計を確認した後、例の紙袋を再び見つめた。
自分もこのピアスが気に入っている。
デザインは勿論だが、『ブルー・バード』という商品名が、自分にとってはツボだった。
(『青い鳥』だもんね)
メーテルリンク作の童話劇『青い鳥』には『幸せは身近にあるよ。近すぎて気づかない幸せがあるよ』というメッセージが込められている。
「………………」
別に自分がユウスケの『青い鳥』になるつもりはないが、彼に何かあった時、戻ってこれる場所のような存在でありたいと思う。
昔は、ユウスケに恋人が出来た時にはフェイドアウトしようと思っていたが、もう逃げるつもりはない。
自分はユウスケの側にいたいし、ユウスケも自分の側に来て欲しいから……。
だから自分は、彼にこの『ブルー・バード』を飛ばす。
自分は……やっぱりユウスケのことが好きだから。
「……………………」
袋をバッグに戻してから、もう一度腕時計を確認する。そろそろマックを出る時間だ。まだ残っているしなしなポテトを完食させたケイイチは、トレイを持って席から立ち上がった。
八重洲南口バス停に着いたケイイチは、首を思い切り空へと向けた。
建設中のビルが紛れ込んでいるビル群を見ると、東京という街が完成するのはいつになるのだろうか?……と疑問に思ってしまう。
「………………」
自分は、東京で生活できるタイプではないが、この地を訪れる度に、間違いなく強いパワーを受け取っている。
それは東京が永遠に進化し続ける場所だから。
赤い光で点滅を続けるビルのてっぺんを瞳に映しながら、ケイイチはそっと深呼吸をした。
(また来よう、今度はユウくんと…………あっ!)
そういえばさっきユウスケからのLINEメッセージ届いていた。午前中から、ちょくちょく送られてくるのでキリがないとスルーしていたが、いい加減連絡してみようと思い、ケイイチはスマホを手に取る。
LINE通話ボタンを押すやいなや、ユウスケが咄嗟に反応してきた。
〘ケイ! 何で連絡くれねーんだよ!!〙
「えっ? あ、ごめん、電車に乗っていること多かったし……。でも少しはLINEを返していたよね?」
〘いやいやそっちから電話くれても良くね?〙
「いやいや、長期間の旅行ならともかく、ただの東京日帰りだよ?」
〘で、今ドコ?〙
「八重洲南口バス停。もうすぐ最終便に乗るから」
〘ふ~ん。で、結局何しに行ったんだよ?〙
「ナイショ」
ケイイチはクスッと笑った。
〘ケチ!〙
「さっきまで東京駅のマクドナルドにいた」
〘へっ?〙
「いつものベーコンレタスバーガーに、トマト2枚つけて、ついでにポテト用にバーベキューソースを追加した」
〘へー、珍しいな。節約家のオマエが〙
「やっぱり美味しかった。だからそっちでも一緒に行こうね」
〘お、おう〙
ユウスケの機嫌が直ってきたのが、スマホ越しで分かる。
地元に戻ったら、本当にユウスケと一緒にマクドナルドに行こう。オーダーするのは勿論、ベーコンレタス《+トマト✕2枚》バーガーだ。
東京にも、今度は2人で行けたらいいなと思う。いつか……お互い金銭的に余裕が出来たら、夜景の見える店で乾杯が出来たら嬉しい。
例えば、さっき立ち寄った新丸ビルとか……。
飲食店が並ぶ5階通路を歩いていた時、1件の店が目に入り、ケイイチはそのまま店内をチラ見しながら通り過ぎた。
(……凄かったなぁ)
入口の延長線に大きな窓が設置され、その先にはライトアップされた東京の夜景が、1枚の絵画のように広がっていたのだ。
入口付近でさえ、あの迫力! 窓際からの景色を見たら、客は間違いなく圧倒されるに違いない。
(あの店の名前、何ていったけ?…………確かのれんに鶏の絵が描いてあったよね?)
〘…………………ケイ? ケイ、どうした? 急に黙っちゃって〙
「あ、ごめん、考え事してた」
〘一日中東京いて疲れたのか? なぁケイ、マクドナルドもいいけど〙
「ん?」
〘俺、オマエの作った味噌汁が飲みてぇ〙
「はっ?」
〘最近、ウチに来てねーじゃん〙
家事能力が壊滅的な幼馴染の為に、ケイイチは半同棲状態で彼のマンションに通っているのだ。
「全くもう………。『最近』って、たった3日でしょ? ハイハイ、明日はそっちに行くから」
ケイイチは苦笑いをする。
〘やった! じゃあ明日、俺の為に味噌汁作ってね!!〙
「…………………………………はっ!?」
ケイイチの表情が一瞬強張り、脳内でユウスケの言葉が何度も繰り返された。
俺の為に味噌汁作ってね
俺の為に味噌汁作ってね
俺の為に味噌汁作ってね
〘んっ? ケイ?〙
「ユウくん…………それって」
〘へっ?〙
「………………………バカ ジャナイノ?」
〘えっ? ケイ? 今、何て言った?〙
「何でもない。バスが来るからそろそろ切るね」
ケイイチは事務的な口調で言い残し、そのまま通話を遮断した。
でないと動揺したことがユウスケにバレそうだったから……。
「………………………」
ちゃんと分かっている。
あれが一昔前のベタな(&ほぼギャグ化した)プロポーズの言葉だなんて知るワケがなく、ユウスケは純粋に味噌汁が飲みたかっただけなんだということを。
「…………………………」
だけど、東京の空の下でそんな言葉に赤面し、右手で顔を覆いながら、うつむいてしまった自分がいる。
(ホント、バカだな…………僕が)
恥ずかしさが通り過ぎると、今度は可笑しさが増してきて、クククッ…と笑いながら顔を上げた。
東京の夜は、変わらず自分を優しく包んでくれている。
「……………………なんか名残惜しいな」
少しでも記憶に焼きつけようと、ケイイチは夜景をぐるっと見回した。街はまだまだ眠りにつきそうにない。
やがてアナウンスが流れてきた。無機質な声音が、あと5分で最終便がやってくると告げる。
「さて、そろそろか」
席に着いたらユウスケにLINEをしよう。無事に帰りのバスに乗ったこと。
そして
『味噌汁の具は何がいい?』
……と。
《終わり》
あとがきです😅
食を意識して書いたのは初めてなので、投稿にドキドキしています。こちらを執筆する為に実際にマクドナルドへ向かい、ベーコンレタスバーガー《+トマト2枚》をオーダーしております。実は私、スパチキ派なんですけどね🤣
🌟そして、こちらがやまちさんに作って頂いたモチーフアクセサリーです😆
🌟最後にケイイチが通りかかった新丸ビルにある飲食店はコチラ
ウォーミングアップ終了! 次は『鶏歐』で本番行きます<( ̄︶ ̄)>
2025.1.25 桂(katsura)