ドラマ『王様のレストラン』と17歳のわたし【三谷幸喜】【役者力】【演出と音楽】
第一回目はドラマ『王様のレストラン』
調べてみると、1995年4月19日から7月5日まで毎週水曜日21:00ー21:54にフジテレビ系「水曜劇場」枠で放送されていたことが分かる(ウィキペディア「王様のレストラン」より)。
当時わたしは17歳、高校二年生。その当時の自分を振り返りながら作品の思い出を語る…その題材としては不適切だったかもしれない。なぜならば、人気作で何度も再放送がありその度に観ていたから。またDVDに録画してからはいつでも観れるようになり、わたし史上〝一番繰り返し観たドラマ〟だからだ。
要するに、何歳のわたしも大好きなのである。困った…でも大好きだからこそ、1番目にどうしても書きたい!
では、どうして飽きもせず何回も観て、こんなに笑って泣けるのか――?
その秘密を考えたいと思う。
まず、物語のあらすじはこう。
原田禄郎(筒井道隆)がフレンチレストラン「ベル・エキップ」を訪れるところから物語は始まる。死んだと聞かされていた父からの遺言で、レストランオーナーになることを突如決意した禄郎は〝伝説の〟ギャルソン・千石武(九代目松本幸四郎)を「再びこの店で働いてほしい」と口説き落とすために呼び出す。
しかし、すでにレストランには禄郎とは腹違いの兄・水原範朝(西村雅彦)がオーナーをしていて、シェフ磯野しずか(山口智子)、バーテンダー三条政子(鈴木京香)らクセの強いスタッフがたくさんいた。
初めは新参者の彼らを受け入れられないスタッフたちとの対立構造だった関係が、レストランの立て直しに奮闘する内に変化が。元々やる気がなくダメダメな従業員たちの間にも団結力が生まれ、プロ意識が芽生えてきたのだ。果たして、赤字続きで〝三流以下〟だったレストランはこのまま〝一流〟になることが出来るのだろうか――?
<以下、セリフなどドラマの内容にふれるネタバレあり>
▼舞台発・三谷幸喜の魅力
脚本は敬愛する三谷幸喜氏。全編、レストランの店内だけで繰り広げられるワンシチュエーション群像劇だ。舞台出身の三谷さんが得意とする所なのだから面白いのは当然だが、〝キレッキレ〟なのである。
ワンシチュエーションだから、事件が起こるにも制限があり回想シーンも1話の冒頭だけ。基本的には会話劇に頼ることになる。
こんな難しい設定で、こんなにも面白いというのは要因がいくつかあるはず…だけど大きな1つはこれだと確信を持って言える。セリフだ。とにかくセリフがめっちゃ面白い。クスリと笑ってしまうものもあれば、爆笑してしまうものも。
日常生活の中でドラマのワンシーンをふと思い出す事はないだろうか?そのダントツ1位のドラマが私にとっては「王様のレストラン」なのだ。つまり、ただ面白いだけじゃなく印象的なセリフが多いんだと思う。
例えばで言うと、お馴染みのナレーション「まぁ、それはそれとして――」や「それはまた別の話――」。(1話冒頭から森本レオさんのナレーション「話はそれより2時間ほど前に遡る。だったら最初から2時間前から始めればよかったのだが、まぁ、それはそれとして――」でドラマが始まるのだが、もう大好きだ)
あとは、1話でコミ和田一(伊藤俊人)が禄郎と千石の話を盗み聞きしてから「お母さんは3年前に死んだそうです」とメーテル梶原民生(小野武彦)に告げ口すると梶原が「…どっちの!?」と聞き返すシーン。
他には2話で、調理スタッフが初めてのチャレンジをする時にオーナーである禄郎が鼓舞するセリフ「どうせ傷つくなら傷つく前に傷のこと考えるより気のすむまで傷ついた方が…」、千石が「あなたなら出来ます」と目力込めて言うのに対しシェフしずかが「誰よあんた、わたしのお父さん!?」という返しも良かった。他にも「たぶん姉が5人いるからでしょう?」や「とてつもなく長い厄年が続いてるだけなんだ」、「今のわたしは、あの時の彼だ」など、どんどん出てくる(笑)
三谷さんのセリフは面白くて、感動させてくれて、そしてお洒落だなあと本当に思う。三谷さんが好きだと言ってるのを知ってから、ビリー・ワイルダー監督や「ポアロ」をわたしも観るようになった。「ウィットに富んでるなあ」とウィットをよく分かってないまま勝手に感じているが、三谷作品を観る時も同じように呟いてしまっている。
▼セリフを〝生かす〟役者力
だけど、セリフを書き出してみてよく分かる。わたしの伝え方が下手なのもあるが、やっぱり映像があってシナリオって生きるんだなあと。思い出す時も役者さんの言い方や表情込みで思い出すもんなあ、なんて考える。
という事で、セリフの次に挙げる魅力は役者さん。
脚本段階でのキャラクターの濃さも当然あるけれど、まるで〝当て書き〟のように全員がハマっていて実際にいる人物のよう。ダメな部分や人間臭さをチャーミングに演じ、愛すべきキャラクター達に見事に完成させていた。
特に、千石演じる九代目松本幸四郎(現:二代目松本白鸚)は初見の17歳の頃は勉強不足で失礼ながら「誰?」って感じだった。なのにドラマが始まってからは〝千石さん〟としてわたしの中にずっと存在し続けている。「あすなろ白書」で大好きだった〝掛居くん〟(筒井道隆)も〝禄郎さん〟に変わり、新しい魅力を知ることが出来た。こちらも挙げだすと全員、語りたくなってしまう。
それほど個性的な登場人物が愛すべき人達だったから、群像劇なのに第1話から感情移入出来たし、最終話まで全員を見守り続けられたのだと思う。
▼三谷ワールドへ導く演出と音楽
そして、最後は演出と音楽。テクニックの部分は分からないけど(脚本家を目指してるのにどうなんだ…)とにかく観やすい。ちゃんと笑い所と泣き所を、分かりやすく視聴者に提示してくれているように思う。
特に、1話で範朝がクレープを客席で焼いてプレゼンテーションするシーン。千石の正体が気になる範朝と、兄・範朝の存在を初めて知り感無量の禄郎が〝三つ巴する〟笑いの演出。スピードあるカメラワークと軽快な音楽でワクワクした。
そして、9話で借金だらけの兄・範朝が店を辞め出て行こうとするのを禄郎が止めるシーン。本来は兄弟愛を感じる泣きのシーンなのに、ちょくちょく笑いが入ってくるタイミングが絶妙で、泣き笑いしながら見入ってしまう。
独特な三谷さんのシナリオ、その面白さを誰よりも分かっているのが伝わってくるような演出と音楽が三谷ワールドへ迷わないように誘導してくれる。
つらつらと偉そうに書いてしまったけれど、とにかく何が言いたいのかと考えたら…〝「王様のレストラン」は面白い!!!〟に尽きる。
って、一言で終わる話だったじゃないか(汗)
ちなみに、17歳のわたしが思った1話の感想は〝「臓物パイ」が面白い〟だったので少しは成長出来ているのだろうか?…まぁ、「それはまた別の話」ということで――…。