たなばたの夜には
キラキラと煌めく、星で出来た大きな川を挟んで、男の子と、女の人が向かいあい何か言いあっている。
何と、言っているのだろう?
その声は、星の煌めく音で聴こえない。
『ささのはさらさら
のきばにゆれる
おほしさまきらきら
きんぎんすなご』
むかーしむかし、きみたちの知らない世界のお話し。
ちょっぴりこわい、七夕のお話しだよ。
彦助『わ〜今日も天の川キラキラだねー。』
織莉子『お兄ちゃん、もうずっと見ていてあきない?織莉子、あ〜きたっ!』
彦助『今日は、七夕!大切な大切な出逢いの日なんだぞ!』
織莉子『また始まった、天の川の話。もう聞きあきた。』
二人は、兄妹、けれどね、ほんとの兄妹ではないのです。そして、二人に親はおりません。
いくつか昔、教会に預けられ育てられたのです。
彦助『天の川は、織姫と彦星の出逢いの場所、七夕にしか逢えないんだ、キラキラ天の川に、お願いごとすると、大好きな人とずっと一緒にいられるんだ!』
織莉子『はいはい、もう、早く教会に入らないと神父さんに怒られちゃうよ。』
彦助『もう少しだけ、まだお願い事してない。』
と、彦助は、目をつむり、天の川に何やらお願い事をしております。そんな彦助を見て織莉子は、あきれて、でもちょっぴり、ほっこりとなり、先に教会に戻りました。
そして、
織莉子『お兄ちゃーん!!!』
彦助ー!!
彦助ーー!!!
彦助が、居なくなりました。
みんなで、沢山沢山、探しましたが、
どこにも彦助は、おりません。
織莉子も、みんなと一緒に沢山沢山さがしました、いつも一緒に行く場所遊ぶ場所、二人しかしらない秘密の場所まで、
けど、彦助は、どこにもいないのです。
織莉子は、来る日も来る日も泣いて泣いて泣き続けました。
それから、
長い時間が経ち、織莉子は、お姫様のようにきれいなお姉さんになっていました。毎年いつもの場所で七夕の日に天の川を見上げ、想います。
織莉子『彦助お兄ちゃん。どうして居なくなったの?わたし、ずっと一人、いったいどこへ行ってしまったの?』
と、その日も天の川を見ていると、天の川の近くに、一筋の光の尾をひいた、キラキラ輝く星がみえました。
織莉子『彗星だ、キレイ。』
と、みとれ、長い時間見ていると、いつの間にか、その彗星が彦助のような気がしてきて、
織莉子『お兄ちゃん!!』
と、叫びました。
すると、誰も居るはずのない場所から、聴こえるはずもない声が、聞こえてきました。
彦助『織莉子。』
織莉子『え、この声!お兄ちゃん!?』
と、振り向くと、そこには、
居なくなった時と同じ、まだ幼い彦助がおりました。
彦助『迎えにきたよ、これでずっと一緒にいられるね?』
織莉子『お、お兄ちゃんなの!?』
彦助『なんだよ、その顔、あたりまえだろ。』
と、笑っています。
織莉子『ずっと一緒?お兄ちゃん、どうしてそのままの格好なの?ねぇ?どうして居なくなっちゃったの?どうして?』
彦助『一緒に天の川へ行こう!!』
織莉子『え、、天の川?』
彦助『さぁ、』
と、彦助は手を差し出しました、
織莉子は、あまりの事に驚いております。
それでも織莉子は、とても懐かしい気持ちになり、彦助の手をとりました。
織莉子『温かい。』
彦助『行こう!レッツ天の川〜!』
と、不思議な事に二人は、宙に浮かび、空高くへと舞い上がりました。
織莉子『す、すごい!飛んでる!わたし飛んでる!』
彦助『へへへ、すごいだろ!』
織莉子『うん、すごいね、お兄ちゃんすっご〜い!!わ〜、お星様が、た〜くさん!』
と、いつの間にか、織莉子は、幼い頃の姿に戻っていました。二人はあっという間に、沢山の星々が煌めく大きな川へとやってきました。
彦助『これが天の川だよ。』
織莉子『天の川!わーい!天の川だー!』
彦助『あそこにある、三日月の舟で渡ってみよう。』
織莉子『え、織莉子怖いよー』
彦助『大丈夫、なにかあったらお兄ちゃんが守ったる!』
織莉子『わーい、お兄ちゃん大好き!』
と、二人は、大きな星の川を三日月の舟に乗って渡りました。
煌めく星は、二人の事を歓迎しているように、輝いています。
二人は、たくさんの星の煌めきにつつまれ、優しく、温かな、幸せな楽しい時間を過ごしました。
しかし、そんな楽しい時間は、そう永くはつづきません。
織莉子『織莉子お兄ちゃんだ〜いすき!ずっとずっと一緒にいたい。』
彦助『、、、、』
織莉子『織莉子、なんだか眠くなって、、、』
と、織莉子は、眠ってしまいました。
どれくらいの時がたったのでしょう。
織莉子『あれ、わたし。』
と、目が覚めるといつの間にか、三日月の舟も、彦助の姿もありません。織莉子の姿も、もとの姿に戻っています。
織莉子『あれ、お兄ちゃん!?舟がない、わたし、ここからどうやって帰ればいいの。』
すると、川の向こう岸から、
彦助『おーい!!おーい!!』
と、彦助が、手を振っています。
織莉子『お兄ちゃん!えっ、何を言ってるの?』
彦助『、、、、、』
織莉子『えっ!何ー?』
しかし、星々の煌めく声で聴こえません。
織莉子『お兄ちゃん!お兄ちゃん!
わたし、帰りたい、帰らなきゃ!』
彦助『、、、、』
織莉子『なに?なんて言ってるの!?』
聴こえません。
彦助『、、、、』
聴こえません。
彦助『、、、、』
聴こえない。
織莉子は、帰れない怖さと独りのこわさで、おかしくなりそうです。
織莉子『ねえお願い、お願いだから、黙っててよ!お兄ちゃんの声が、聴こえないの!』
そこへ、一匹の大きな大きな鳥が舞い降りてきました。まん丸ビー玉の目をした彦助ほどある、大きな大きな鳥です!
カササギ『だーまされたーだーまされたー。』
と、ぐるぐる織莉子の頭の上を回っています。
織莉子『なによ!何!?怖い、うるさい!やめてよ!』
カササギ『われはカササギー、ハシワタシー、ヒコスケにだーまされたー』
織莉子『え、カササギ?お兄ちゃんに、どういう事よ!』
カササギ『ヒコスケ、オリコ、つれていくー、
ヒコスケ、オリコ、つれていくー。』
織莉子『つれていくって!どういう事?お兄ちゃんと離れ離れじゃない!』
カササギ『カチカチカチカチカチカチ』
織莉子『うるさい、うるさい!』
カササギ『カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ』
と、だんだんとカササギの鳴き声と一緒に、カササギの数も一匹から十匹、十匹から五十匹、しまいには、五十匹から百匹にまで増えていきました。
カササギ『カチカチカチ!!!』
と、最初のカササギが一際大きな鳴き声を出すと、まるで時が止まったかのように、辺りが静かになりました。
星の煌めく声も聞こえません。
すると!!
彦助『、、、だから』
と、彦助の声が、だんだんと聞こえてきます。
彦助『、、いっしょ、だから』
織莉子『えっ?』
彦助『ずっと、いっしょ、だから』
織莉子『ずっと一緒?だから、』
と、カササギ達がいっせいに泣き始め!
カササギ『カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ』
カササギ達が、互いに重なり合い、あっという間に、天の川にカササギでできた橋がかかりました!!
彦助『おいで、織莉子』
と、彦助が、カササギの橋の反対側で手招きしています。
織莉子『だめ、行ったらだめ帰れない』
しかし、体が、勝手に動いてしまいます。
カチカチカチ鳴る橋を、織莉子は、どんどん渡っていきました。
織莉子『体が言う事きかない、嫌だ、あれはお兄ちゃんなんかじゃない、怖い、たすけて、』
彦助『ごしきのたんざく
わたしがかいた
おほしさまきらきら
そらからみてる』
織莉子『やだ、怖い、やめて、もうやめて!!』
そして、とうとう織莉子は、彦助のもとへと辿りついてしまいました。
彦助『ひこすけ
おりこ
とわにともに
ぜったいはなさない
ずっといっしょだね』
と織莉子の手を握りました。
織莉子『ひっ!つ、冷たい』
と、その瞬間、カササギ達がいっせいに飛び立ちました!
カササギ『カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ ヒコスケ、オリコ、ズットイッショ カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ』
彦助は、力いっぱい織莉子の手を握りました。
織莉子『痛い、離して、痛いってば!』
と、織莉子も力いっぱいに彦助の手を振りほどきました!
そしてその拍子に、織莉子は、沢山の星の煌めく天の川へと、落ちてしまいました。
彦助『あーあ。』
ぐんぐん流されていきます。
織莉子はしだいに気を失っていきました。薄れゆく意識の中で、見えた彦助は、
笑っていたように見えました。
そうして、次に目を覚ました時は、教会のベッドの上でした。教会の前で倒れていた織莉子を神父さんが見つけたのです。
織莉子『どうして、どういうこと?おにいちゃん?夢だったのかな。』
と、起き上がろうとした時、右手に何か握りしめているのに気付きました。
織莉子『なんだろう?』
と、恐る恐る手を開いていくと、
一枚のある紙を握っていました。
織莉子『この紙、知ってる。短冊だわ。何か書いてある、、、』
そして、恐る恐る短冊に書かれた文字を読みました。
織莉子『ひっ!』
と、そこにかかれていたものは、
【また、来年。 彦助】
カササギ『カチカチカチカチ』
おーしまい