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「はじめての出版13(最終回)〜世界はあなたの言葉を待っている」

世界で一番短い手紙はなにか?という話を聞いたことがある。

それは『レ・ミゼラブル』の著者として有名な、ヴィクトル・ユーゴーが編集者に宛てた手紙だという。

彼は編集者に著書の売れ行きを尋ねるために「?」という一文字を便箋に書いて投函した。編集者は絶好調であることを「!」という一文字で返信したという。たった二文字の心踊るやり取りだ。なんか、そこはかとなくオシャレである。こういう事をやってみたいが、メール社会では逆に「雑なやつ」と思われるのがオチだろう。

さて、いよいよ明日は著書「つながるための言葉」の発売日である。
というか…さっき書店に行ったらもう売っていた。

既視感を感じた。きっとかつてのジャンプの発売日のように、正式な発売日よりも1日、2日早く首都圏の書店では書籍が陳列されるのだろう。輸送トラックの都合だ。この時代に質量を伴ったリアルなものを売るのはたいへんなのだ。

本の顔であるカバーデザインは基本、餅は餅屋という事で、装丁デザイナーさんに一任するつもりでいた。が、クリエーティブディレクション熱が上がってしまい、結果、僕のどうしても外せないポイントであった「テーマカラーである黄色」を採用していただいた。
もう、とにかく黄色い本である。ビジネス書ではかなり異質なのでさっき見た書棚でもけっこう目立っていた。ぜひ「黄色い本ください」と書店員さんに言ってみてほしい。でも著者がマイナーだから、ブレイディみかこさんの「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」を持ってこられるかもしれないが。

あの真夜中の病院の食堂で原稿を校了してから、何もしていなかったかというと、やるべきことは実はたくさんあった。このコラムの内容を考えるのもそうだし、献本の送り先を決める、WEBサイトをつくる、会社に報告し承認を得る、などなど。ひとつ、ひとつの工程に意味があり、苦労があり、学びがあった。

そして今、正直な気持ちとしてこんな事を考えている。

まず「売れてほしい」
もう、本は僕の手を離れてみんなで世に送り出すものになっている。
編集者、印刷会社、装丁デザイナー、校閲会社、取材協力者、身内など、多くの協力で出版はなされる。その苦労が報われるのは売れる事なのだ。たとえ、宣伝アカウントと揶揄されても、最大限、読者の皆さんのよき招待状となるような発信を続けていくつもりだ。

そして同時に、
「売れる売れないより、この本を起点にコミュニティをつくっていきたい」
とも考えている。
発行部数だけなら、おそらく想定内の範囲になるかもしれない。ただ、ずっとやってきた「広告コピー」という手段以外で、出版はみなさんとつながる絶好の機会となるだろう。オリジナルのプラットフォームをつくる、とまでは行かないが、タイトルの通り「みんながつながっていく場」のようなものをつくっていきたい。

日本では年間に約70,000冊もの書籍が発行されるという。当たり前だがその一冊、一冊に作者がいて編集者がいて、愛読者がいる。

「一生のうちに読める本の数は約5,000冊である」という話を聞いたことがある。2万冊という説も聞いた。読む速さや、ボリュームで変わるだろうが、仮に中をとって1万冊読めたとしても短い人間の一生で読める本の数は限られている。

そう考えると「人生で読む一冊」に選んでもらえた事は、感謝の極みなのだ。

机の上の本


さて、元日からコツコツと書き連ねたこのコラムも今日で最終回である。

主に執筆過程における心の持ちよう、担当編集者との関係などをメインに書いていったが、予想外に校了直前に本物の医療ミスを受難したため、そのエピソードが分厚く、熱も上がってしまった。本の事かと思いきや、途中から医療事故の、呪詛にも似た詳細なドキュメンタリーが書き連ねられ、暗黒感にドン引きした方がいたらごめんなさい。

僕はずっと本を読む事を「旅」に喩えてきた。
作者の構築した世界に飛び込み、心情に寄り添い、感動を同期し、ともに航海をする。やがて旅は終わるが、帰港しタラップを降り現実に戻った時、何かが自分の中に宿っている。それは生きていくことに少しの勇気を与え、ほんの少し孤独を忘れさせてくれるものだ。そうやって、幾冊もの本を旅してきた。

そして書くこともまた「旅」であった。
邂逅も、迷走も、座礁も、暗闘も、絶望もあったが、無事に帰ってくる事ができた。人は帰る場所があるから、旅することができるのだ。あんなにつらい事が多かったのに、今はまたちょっと旅に出てみたい気持ちすら芽生えている。それもすべてまずこの2022年初頭に「つながるための言葉」がどう皆さんを心地いい旅に誘うかにかかっている。

ぜひ、その船に乗り込んで旅をしてほしい。そして、感想を聞かせてほしい。

最後に発売直前に届いた、編集長からのメッセージをご紹介する。

「勝浦さん、本は出版してからが勝負です。これからですよ!」

それが、海に小石を投げるような行為であっても、口を塞がず言葉を紡ぎ続けるだろう。

世界はあなたの言葉を待っているのだ。

皆さま、いつかどこかでお会いしましょう!

<終わり>

「つながるための言葉〜伝わらないは当たり前」明日発売。
Amazonもしくは、お近くの書店でご購入いただけると嬉しいです。


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勝浦雅彦
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