アメリカでの転職 完全リモートでの転職第1週 (The First 90 Days)
僕はアメリカの製薬会社で働く日本人研究者です。2021年8月13日に10年間働いた会社を退職し、2021年8月23日より新たな会社に転職しました。今回の転職は、全世界で2万人以上の従業員を抱える大企業から、未だ市場に医薬品を出したことがない従業員140人足らずのスタートアップカンパニーへの僕にとってはとても大きな職場環境の変化になります。地理的にも、これまで働いた会社は西海岸のカリフォルニア州にあるのに対して、新たな転職先の会社は東海岸のボストンに隣接するケンブリッジにあり、時差は3時間もあります。また、すぐには引っ越しせずに、しばらくはカリフォルニアからリモートで働くことになりました。今年末か来年早々には新しい家を見つけて東海岸へ移動するつもりです。このようなアメリカでリモートで転職し、新たな会社での仕事を開始するという貴重な経験をしたので、第1週の状況を紹介します。
日本にいた時からあこがれていたアメリカの大手製薬会社で2010年末から10年間働くことができました。特に最後に担当した肺がん治療薬のプロジェクトは、画期的な新薬として米国食品医薬品局から承認され、大成功を収めました。僕は、そのプロジェクトの非臨床グループのリーダーをやらせてもらえたので、会社に入って10年の節目に、本当に大きな貴重な成功体験をチームの仲間と味わうことができました。
同時に僕は55歳となり、アメリカで働けるのもあとせいぜい10年くらいだろうと考えると、次の10年をどう生きたいか?を考えました。このまま、慣れた環境で、また素晴らしい仲間と新たなプロジェクトで実績を積んでいくか? まったく異なる環境に身を置いてみて、新たな挑戦に挑んでみるか? そして結論として出したのが後者の道でした。そこでボストン郊外にある小さなスタートアップカンパニーへ転職したのです。
全ての教育を日本で受け、社会人になってからアメリカに渡った僕ですので、今回のアメリカでの大きな環境の変化を伴う転職は、慎重に戦略的に進めようと考えました。少し古いのですがMIchael D Watkins著の"The First 90 Days"という本があります。この本には僕の過去の転職でもお世話になりました。入社後90日間で、転職を成功させる戦略をとても論理的に分かりやすく解説している本です。入社後90日以内に、早い段階で成果を出し、会社に貢献している実感を持ち、上司や同僚からも「こいつが入ってくれてよかった!」と思ってもらえるようになることを目指すものです。今回もこの本を参考にして、転職を進めていくことにしています。
Note内でも、ふたりの方が分かりやすくこの本を解説されているのを見つけました。
"The First 90 Days"では、以下の10のステップを順番に進めていくことで90日間で転職を成功させる戦略が書かれています。
1. Promote Yourself 自分を移行させる
2. Accelerate Your Learning 学びを加速させる
3. Match Strategy to Situation 状況に合わせて戦略を立てる
4. Negotiate Success 成功条件を交渉する
5. Secure Early Wins 早い段階での成果を確保する
6. Achieve Alignment 同意を達成する
7. Build Your Team チームをつくる
8. Create Alliances 味方をつくる
9. Manage Yourself 自分をマネジメントする
10. Accelerate Everyone 全員を加速させる
1. Promote Yourself (自分を移行させる)は、転職前に完了させることです。これまでの実績を買われて新たな会社に採用される訳ですので、これまでの知識・経験を活かして、新たな会社に貢献していくことは当然です。しかし、過去の成功体験を引きずり過ぎて、その当時のやり方・進め方が唯一無二の成功法則などと過信し過ぎて、新たな会社の文化や進め方を把握しないうちに、暴走してしまうというのが、早く実績を出したいと焦ってしまう転職者が起こしがちなミスです。前の会社でのことをしっかり過去のものとしていったん切り離し、不必要あるいは有害な先入観を持ち込んだまま新たな会社での仕事を始めないよう、自分の中でしっかり線引きをするけじめの儀式が必要です。僕は8月13日の金曜日に前の会社を辞め、1週間の休暇を取り、その後、8月23日の月曜日から新たな会社でスタートすることとしました。
前の会社を辞めた後、妻と一緒に、いつもより少し高級なお寿司屋さんに行ってこれまでの会社の卒業と新たな会社での門出をお祝いしました。そしてその後の1週間は特に旅行などはせず、新たな会社で自分はどのようなことをやっていきたいか? 5年後、10年後どのようになっていたいか? 会社のミッションと自分の価値観を照らし合わせて、新たな会社での自分のミッションのドラフトを作ったりしました。また、新たな会社の仕事に役立ちそうな文献などを読んだりして、以前の会社のプロジェクトのことをいったんすべて忘れ、自分の関心をすべて新たな会社での仕事に向けるようにしました。新たな会社は、東海岸のボストン郊外にありますが、僕は3時間の時差がある西海岸のカリフォルニアからのリモートでの仕事開始となります。仕事始まりの前の土曜日に、新たな会社から仕事専用のラップトップパソコンが送られてきました。仕事始まりの前日である日曜日に会社のネットワークシステムにつながることを確認し、Outlookを開くと、新入社員のためのオリエンテーションミーティングや主要なメンバーとの1対1のミーティング、すぐにいくつかのプロジェクトミーティングの案内がすでに送られてきており、第1週の予定が大まかに把握できました。
そしてとうとう8月23日より新たな会社での仕事を開始しました。しかも、リモートでという初体験です。会社のネットワークシステム、ベネフィット、購入・契約手順、知的所有権などの一連の新入社員用のオリエンテーション、自分のボスとの1対1のミーティング、自分の部署のメンバーとの1対1のミーティング、関わりのある他部署の主要メンバーとの1対1のミーティング、さらにはいくつかのプロジェクトミーティングなどで、第1週は終わっていきました。
第1週の"The First 90 Days"に基づく僕の目標は、
「2. Accelerate Your Learning 学びを加速させる」のドラフト骨子を作り、
「3. Match Strategy to Situation 状況に合わせて戦略を立てる」を可能であれば盛り込むことでした。
主要メンバーと1対1のミーティングを行い、それぞれの人の人となりを少し把握し、プロジェクトミーティングにも少し参加して、それぞれのプロジェクトでどのようなことが重要項目となっているか、どんな問題が起こっているかを把握していきました。また、プロジェクトばかりに注意を向けるのではなく、会社のユニークな文化、コミュニケーションスタイル、ミーティングの進め方など、ソフトな面で、学ぶことも把握するようにしました。こうして、自分が早くに学ぶべきことを「ラーニングアジェンダ」としてまとめていくのが、「2. Accelerate Your Learning 学びを加速させる」の重要な作業です。
同時に、それぞれの学ぶべき項目に、「3. Match Strategy to Situation 状況に合わせて戦略を立てる」を応用して、どの学びを優先させ、どのような戦略で進めていくかを、それぞれの項目の状況に合わせて考えていき、自分の「ラーニングアジェンダ」をさらに発展させていくわけです。例えば、僕の場合、下記の4つのプロジェクトに関わることが分かり、それぞれに僕が責任をもって遂行すべき重要な試験を把握しました。試験A-1, C-1, D-1などは、プロジェクトを進めていくために必須のものなので、僕にとっては、疑問を持たずに、優先すべきものです。ただし、それぞれに課題や問題を抱えている可能性があるので、第2週以降にさらに状況を精査して戦略を整えていく必要があります。試験A-2, B-1は、目的が特殊なもので、結果によっては、プロジェクトの今後に影響を及ぼします。本当にそれぞれの試験の目的が達成できるように計画されているかを、これもまた第2週以降にさらに状況を精査して戦略を整えていく必要があります。
プロジェクトA
・試験A-1 - このプロジェクトを進めるために最優先で進める必要あり
・試験A-2 - このプロジェクトの適応を拡げるために計画されている
プロジェクトB
・試験B-1 - プロジェクトBと先行しているプロジェクトAとを比較するために計画されている
プロジェクトC
・試験C-1 - このプロジェクトを進めるために最優先で進める必要あり
プロジェクトD
・試験D-1 - このプロジェクトを進めるために最優先で進める必要あり
このように第1週中に大変大まかな「ラーニングアジェンダ」, ドラフト戦略を作成し始めました。第2週からは、それぞれのプロジェクト・試験の状況に合わせ、ドラフト戦略をより成熟したものに発展させ、上司や仲間に納得してもらえるものに磨き上げていきます。そして、それができたら、早い段階で下記のステップ4~6に進んでいくことを目標としています。
4. Negotiate Success 成功条件を交渉する
5. Secure Early Wins 早い段階での成果を確保する
6. Achieve Alignment 同意を達成する
「ラーニングアジェンダ」は、実務のプロジェクトに関するものだけではありません。
・それぞれのプロジェクトのキーメンバーを把握する
・それぞれのキーメンバーの性格、仕事の進め方、人となりを把握する
・ミーティングの進め方、意思決定の仕方、会社固有の文化などで気づいた特徴を把握する
など、ソフト面でも「ラーニングアジェンダ」を発展させていくつもりです。
もし読んでくださった方の中で何かお気づきの点がありましたら、教えていただけたら大変うれしいです。今後の"The First 90 Days"戦略の状況も紹介していく予定です。