海外で働けるトキシコロジストという研究者の道 - 1. トシキコロジストとは
僕は製薬会社の中でトキシコロジストとして働いている研究者です。十分な治療法がなく、新薬を待っている患者さんに画期的な新薬を開発し、それを届けることに関われるやりがいのある仕事です。同時に新薬の承認を勝ち取るというダイナミックなビジネスの醍醐味を味わうことができるエキサイティングな仕事でもあります。あまり知られていないと思いますが、興味を持って将来の職業として考えてみたいと思ってくださる若い方が一人でもいればうれしいと思い、トキシコロジストという仕事について少しずつ紹介していきたいと思います。今回は、「トキシコロジストとはどんな仕事なのか」のさわりだけを紹介します。
僕は2003年に日本の製薬会社からアメリカ支社へ派遣され、幸運なことにアメリカで働くという夢が実現しました。その後、これまでいくつかの製薬会社で、トキシコロジストとして新薬の研究開発に関わってきました。本当に幸運なことに、この仕事のやりがい、達成感、楽しさ、そして厳しさをたくさん味わってこれたので、それをお伝えしていきたいです。
製薬会社での新薬の研究開発の仕事を大きく分けると
1. CMC部門
2. 非臨床部門
3. 臨床部門
の3つに分けられます。最初のCMCとは、Chemistry (化学)・Manufacturing (製造)・Control (品質管理)のことで、新薬の候補となる新たな化学物質を化学者 (Chemist)が発明し、それを新薬として商品化できるように製造工程法や品質管理法を発展させていく研究です。最近の新薬は、従来の薬のような低分子の化学物質だけでなく、タンパク製剤、DNA/RNA製剤、さらには細胞製剤などバイオテクノロジーを駆使したものも登場するようになったので、従来の化学者だけでなく、タンパク工学や遺伝子工学などの分野の研究者も携わるようになっています。
二番目の非臨床とは、新薬候補をヒトに試す前に、動物や細胞を用いて薬の効果や安全性を確認する研究を行う仕事です。生物学(バイオロジー)を中心とする研究です。ここで薬の効果を研究するのがファーマコロジー(薬理学)、安全性を確認するのがトキシコロジー(毒性学)です。なので、トキシコロジストは、この非臨床部門に属します。
最後の臨床とは、実際にヒトで新薬候補の効果と安全性を評価する研究で、製薬会社と病院の医師が共同で実施していきます。初めてヒトで新薬を試す第Ⅰ相試験(フェーズⅠ試験)から始まり、小規模の患者さんでさらに効果と安全性を確認する第Ⅱ相試験(フェーズⅡ試験)を経て、最終的に薬を承認してもらうために大規模な第Ⅲ層試験(フェースⅢ試験)を行います。
このような新薬の研究の中で、トキシコロジーは、従来は、画期的な新薬の新たな効果のメカニズムを研究するファーマコロジーや、実際のヒトでの効果や安全性を研究する臨床と比べると、とても地味で日の目を見ない泥臭い研究ととらえられてきました。しかし、時代は変わってきました。新薬研究開発のテクノロジーがどんどん進化し、洗練させれていく中で、トキシコロジーが果たす役割がどんどん大きくなっています。トキシコロジストは、CMC部門の化学者、ファーマコロジーを研究する生物学者、そして臨床開発に携わる医学者まで、様々な部門の研究者と関わりながら、新薬の研究開発においてとても重要な役割を果たすようになりました。また、トキシコロジストは、新薬開発のごく初期段階から、最終的に新薬を世に出すための承認申請まで、新薬の研究開発のあらゆるステージで活躍できます。
このように新薬の研究開発において、トキシコロジストは、なくてはならない仕事のため、とても需要のある研究者のポジションです。トキシコロジストとしてのスキル・専門性を磨き、経験を積めば、アメリカをはじめ全世界の製薬会社、バイオテックカンパニー、バイオファーマで研究者として活躍する機会が得られます。研究内容も、ありがたくない副作用が出ないことを確認するだけの従来の地味なものではなく、ダイナミックでエキサイティングな研究ができるようになりました。これから、それらの内容もお伝えしていきたいと思います。
今回はイントロとして、「トキシコロジストとは」を紹介させていただきました。