超ジョブ型雇用 アメリカ人はどうストレスに打ち勝つのか?
超ジョブ型雇用のアメリカ。自分の経験・知識・能力を少しでも高く評価してくれる仕事を見つけ、そこで自分のパフォーマンスを存分に発揮し、自ゆんの夢を叶える。聞こえは良いかもしれないが、そんなテンパった働き方で、アメリカ人にはストレスはないのだろうか?
実はストレス、大ありだと思う。
アメリカで働いて感じるストレス
20年アメリカで働いて、日本とは異なるアメリカならではのストレスを感じた。日本でもジョブ型雇用が進むにつれて同じようなストレスが多くなるだろう。
ポジティブで居続けるストレス
日本で仕事をしている時、「せんぱーい、元気ですか~?」と声をかけると、「元気なわけないだろう。。。」から始まることがよくあった。胃が痛くなるような問題を抱えている時などは日本の方が素直に感情を出せるのかもしれない。
アメリカで仕事場で挨拶を交わす時は、いつも"I'm good!", "Very good!"とポジティブで、少々ネガティブでも"Not bad!"程度までだ。少々元気がなくても、作り笑いをしてポジティブを装う。 ビデオミーティングをすると、"I'm good!"と言いながら、顔は作り笑いをする余裕もなく明らかに怒っている同僚もいる。ミーティングの前に何か腹の立つ問題でも起こったのだろう。それでも、言葉だけはポジティブでいようとするのだ。
でも人間誰でも、上手く噛み合わない時もある。そんな時にまで作り笑いをしながらポジティブで居続けるのは結構なストレスだ。
自由度が高い故に自分で決めるが多くなるストレス
個人主義の強いアメリカ社会では、日本に比べて自由度はめちゃ高い。定年もない。役職定年で減給なんてこともない。会社からクビにされなければ、いつまでも働き続けられる。転職やフリーランスになることも日本よりずっと自由だ。
働く時間も、相当自由だ。上司が部下の労働時間を管理することもほとんどない。超ジョブ型雇用なのだからJob Description に書かれた会社が期待する仕事さえ完遂すれば、どんな働き方をしたって許される。
自由度が高いことは素晴らしい! 自分のやりたいことに向かってどれだけでも進むことができる!
ただし、自由度が高いということは、よりたくさんのことを自分の責任で、自分の意志で決めなければならない。決めること、選択することは、けっこうエネルギーを要する。決めることが多くなることは、結構なストレスだ。
密度が濃いストレス
アメリカ人は、職場で働く時間は短い。だいたい朝9時くらいに来て、午後4時頃には帰り始める。5時になると残っている人は殆どいない。ただ、職場にいる時間の働き方は、日本に比べて超濃密だと思う。超ジョブ型雇用であれば、メンバーシップ型に比べて、個々人のプロフェッショナル意識は高くなる。真剣勝負の議論が行われるミーティングが立て続けに組まれていることもある。職場にいる時間は短くても、エネルギーの消耗度は、かなりのものだ。
しかも、ほとんどのできる社員は、職場に来る前の早朝にも、職場から帰った後も家で仕事をしている時間がある。ミーティングが立て続けに組み込まれていれば、職場でそのミーティングの資料を事前に読み込む時間はない。本当にそのミーティングの議論に貢献したいのであれば、職場にいる以外の時間に資料を読み込んでおかなければならない。実は、アメリカの会社は、日本の会社以上にブラックかもしれない。密度が濃い働き方をするのは、効率的で充実度も高いが、結構なストレスだ。
ただ、できる社員は誰もが、どこかで手を抜く時間術、自分にとって重要な事項のみにピンポイントで集中する時間術を独自に編み出していると思う。
ストレスに負けることも
こんなストレスに負けて、会社を去る社員もいっぱいいる。僕自身もそれを経験した。初めてアメリカの会社に挑戦した時、考えが甘かった。自信満々で乗り込んだはずなのに、思ったようなパフォーマンスが発揮できない、上司からも評価されない。自分よりもジョブレベルの低い若い社員が、ミーティングで重要な発言をして自分よりもずっと貢献している。ストレスに負けて、会社を逃げ出した。
ストレスに打ち勝つ文化
超ジョブ型雇用の発達したアメリカでは、同時にそんなストレスに打ち勝つ文化も発達したと感じる。
失敗を許す
僕の経験からだけなので、僕が超ラッキーなだけかもしれない。でも、僕が強く感じるのは、やらかした失敗、起こってしまった問題に関しては、アメリカの会社は、超寛大だと実感する。起こってしまったことは仕方がない。失敗の責任追及よりも、すぐに問題解決に焦点を向けられる文化がある。
逃げ道がある
転職が日常茶飯事のアメリカ。ストレスに負けて、逃げ出したくなったら、逃げ出せばいい。今の会社でパフォーマンスが発揮できなくても、環境が変われば、パフォーマンスも変わるかもしれない。八方塞がりに感じさせる状況を産まない文化がある。
Funを盛り込む
問題が起こった時に、アメリカ人はよく"Interesting!"と言う。皮肉を込めている時もあるし、強引なポジティブ精神の強がりかもしれない。でも、アメリカには、問題が起きた時に、その問題を解決するチャレンジに、何かエキサイティングなものを盛り込む文化があると感じる。真面目に考えればストレスだけになる仕事に必ずFunを入れようとする。
順風満帆で何も問題なく進むことがベストである筈なのに、自分たちで問題を起こしておいて、それを解決してもとに戻すと、その問題解決でセレブレーションする。考えてみるとおかしな話だが、それで結構、達成感を感じられるし、プロジェクトが強固になるのだ。
橘玲さんの本のいくつかで、伽藍(ガラン)とバザールの世界が紹介されている。伽藍とは閉鎖的な世界で、失敗が許されない。如何に失敗しないように生き残っていくかの世界だ。バザールは、リスクを取って失敗が許される世界。失敗したら、別の場所で別のことをやればいい。
日本の会社も効率・生産性を重視して、これからジョブ型雇用がどんどん加速していくだろう。ただ、日本の会社が、伽藍の世界のような会社の文化のまま、ジョブ型雇用だけを進めれば、日本の会社は壊れると思う。変化の苦手な日本で、会社文化全体が素早くバザールの方向へ向かうのはかなり無理がある。でも、個々人から、バザールの世界を意識するようになれば、ジョブ型雇用をストレスの多いものと捉えるだけでなく、自分の世界を広げる魅力的なものと考えられるようになる気がする。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?