遭難者
おや、旅のお方、どうされました。
こんな吹雪の中、山小屋にとびこんでこられるとは。
なに、お仲間とはぐれてしまわれたと。
それはいけませんなあ、なにしろこのあたりには、ガモという化け物がでますでなあ……。
——「小説家になろう」サイトの、しいなここみ様の自主企画「宇宙人企画」参加作品です。猛暑の候、これを読んで涼しくなって下さい。
おやおや、どうなすった。
こんな荒れた天気に、あわてて、小屋にとびこんでこられて。
えっ、仲間たちとはぐれてしまわれた、と。
はあ、それは難儀なことですなあ。
あなたさまは、このあたりではとんと見かけないお姿をしておいでですが、これはずいぶん遠くのほうからいらっしゃったのですかな?
おう、ひょっとして、王都の騎士様ではありませぬか?
そのお被りになっておられる銀色の兜を外されて、お顔を拝ませていただくわけには……ああ、それはできないと。それはそうでしょうな、これは失礼をいたしました。何しろ、わしは田舎者なので、ろくに礼儀も存じません。失礼の段は、ひらにご容赦を。
ところで、お仲間が迷子になっておられるということでしたな。
はあ、むせんでも連絡が取れない。
その「むせん」とは、なんのことでしょうか。
はあ、王都の方にはそんな便利なものがあるのですか。
お仲間の中に、魔導師の方でもいらっしゃるのですか?
相手と離れていても話ができるとは、これは魔法ですからな。
えっ、そうではない。魔法ではないと。はあ、わしにはなんのことかさっぱりわかりませんな。
それはさておき、お仲間とはぐれてしまわれたとは、これは由々しきことですぞ。
なにしろ、このあたりにはガモが出ますでな。
旅人がよく、ガモのエジキとなって、命を落とすのですわ。
こんなことを申すのもなんですが、急いでお探しになるのがよいかと存じます。
お仲間には、今まさに、危険が迫っておりますぞ。
一刻も早く、お探しなされ。
はあ、知らない土地で、その上ひどく吹雪いていて、どこをどうさがしていいのか、かいもく見当もつかない、なるほど。
それはごもっとも。
わかりました。
それではわしが一肌脱ぎましょうかな。
道案内をしてさしあげましょう。
なにしろ、このあたりはみな、わしの庭みたいなものですからな。
目をつぶっていても、迷うものではありません。
ちょっとお待ちいただけますか。
出かけるとなれば、奥から得物を出してきますでな。
ほれ、こいつですわ。
こいつをこうやって振り回すと、この先に付いたかぎ爪で、どんな化け物だろうと、ひとたまりもありません。
いや、なにしろ、ガモといえば、たいへん危険なやつでして。
このあたりには、ガモのワタスイという言葉がありましてな。
ワタといったらつまり臓物ですな。
ガモに襲われると、犠牲者はキモやらワタやら、ごっそり抜き取られて、皮だけになってしまうのですわ。
ガモは、とがった鼻面を、獲物の身体にさしこんで、中身をチュウチュウ吸い出すといいますぞ。
なんとまあおそろしいことですな。
ささ、急ぎましょうか。
あなたさまのお仲間が、まんいちワタスイされたらたいへんですからな。
こちらです、こちらです。
もし、道にはぐれたお仲間が迷いこむとすれば、たぶん、谷間のこのあたりに。
ふう、ひどい雪ですな。一寸先も、おぼろげにしか見えません。
これはまずいですな。
ガモは、こんな雪にまぎれて獲物に近づきますでな。
そりゃあもう、なかなか気づけるものじゃあありませんよ。
気がついたときには、もう手遅れですわ。
おや?
あそこに見えるのはもしや……。
あれはもしや、あなたさまのお仲間ではございませんか?
ひい、ふう、みい……。
あなたさまと同じ、鎧兜のお方が、ほれ、三人、あそこに倒れておられますぞ。
これはいけない。
なにやらあたりの雪を赤く染めているのは、あれは。
急ぎましょう。
ああ……。
おいたわしや。
三人とも、ワタスイされて、皮だけになっておられますぞ。
お仲間はこれで全員でございますか?
なんとかガモから逃げられたお仲間は、まだ他におられませんか?
そうですか……あなたさまを入れて、四人でここにおいでになったと。
つまり、あなたさまが最後の一人。
そうですか。
それはようございました。
では、安心して。
「ギャッ!」
はい、よおく分かっておりますよ。
あなた方が、別の星からやってきた、侵略者の斥候だということは。
あなた方が、そもそもこの星の大気では生存できないので、その宇宙服とヘルメットを外せないこともわかっております。自分たちが大気も呼吸できないような遠い星をわざわざ侵略しようとするなど、あなた方もつくづく業が深いお生まれですなあ。
ま、ともあれ、今回も部隊はめでたく全滅ですな。
さて、それでは、あなたのワタを美味しくいただくとしましょうかな。
フム、それにしても、地球とかいう異星からいらしたあなた方は、どうしてこんなにも旨いのでしょうかなあ、つくづく不思議なものですな……。
チュウチュウチュウ
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?