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「塩をしっかり摂れ」は正解なのか?
かつて「減塩せよ」が世間の大勢を占めていた
時代もあったけれど、熱中症とのつながりか、
逆に「塩はしっかり摂ろう」という意見が
幅を利かせ始めている。
本当は、どっちが正解なのだろうか?
筆者の結論を先にいうと
「塩をしっかり摂れ」は否である。
もっと言うと、人類は塩中毒である。
こうなってしまった原因があると考える。
あまり目くじらを立てて議論するほどの問題でも
ないと思うけれど、背後の大事な問題を
指摘しておきたいので、取り上げることにした。
塩は短期的に「薬」になることもあるし、
神道の世界では浄化力もあるとされている、
そういう大切な存在であるには違いない。
だがそれでも長期的には、
無理のない緩やかな減塩が正しい。
「緩やかな」という表現にご注意いただきたい。
いきなり塩を断つのは命に関わる危険な行為だ。
人は ON/OFF 切り替えで動くロボットとは違い、
「恒常性維持」「環境適応」「廃用萎縮」
などの側面で、変化には時間的クッションを
必要とする。
あたりまえだけれど、
身体の自己管理には、せっかちは禁物で、
常に長期的目線が大切であろう。
だがそれ以前に、身体の中でミネラルが
どういう挙動・代謝をしているのか、
我々は何もわかっていない。
*****
本稿はマクロビオティックを実践されている方
にもご覧いただくことを念頭に構成した。
(きっと彼らは猛烈に反発するだろうが)
筆者自身、2009年ぐらいまでは、
熱心なマクロビオティック信奉者だった。
すなわち、塩分はしっかり摂るのが正しいと
信じていた。
その背景に「無双原理」への絶対的信頼が
あった。「陰」と「陽」の世界観のことだ。
しかし、ある小さな出会い(後述)を
きっかけにして、この信仰が崩れた。
陰陽の世界観、それ自体を筆者は否定しない。
問題は、その取り扱い方なのだ。
はっきり言う。
人智で陰陽を使いこなすのは無理である。
だが、マクロビオティックの現場、たとえば
料理教室などでは陰陽判断についての
都合の良いレクチャーが結構なされている。
一番問題なのは、
陽 = 善 陰 = 悪
であるかのようなイメージが作られている
ことだ。
そして、塩を「陽」と位置づけ、あたかも
「命の源」であるかのごとく塩の摂取が
励行されている。
言うなれば、塩信仰だ。
*****
さて、
世間では、あまり知られていないけれど、
マクロビオティックが好きな方であれば、
ルイ・ケルブラン(仏:1901-83)という人物
について、耳にされたことがあるかもしれない。
今で言う「常温核融合」、
マクロビオティック創始者・桜沢が「原子転換」
と邦訳した現象を研究していた人物だ。
実験室での人工的な原子転換ではなく、
自然界のあらゆるところで静かな原子転換現象が
日常的に起きているという話だ。
彼はニワトリを使って、以下のような簡単な実験
を行った。
ニワトリに餌を与え、卵を産んでもらう。
あらかじめ、餌に含まれているカルシウムの量を
調べておき、ニワトリが産んだ卵の殻の
カルシウム含有量を測定する。
つまり、
「身体に入ったカルシウム」と
「身体から出たカルシウム」の量を比較した。
その結果「出てきた」量の方が多かった。
カルシウム代謝の「赤字」というわけだ。
ほんの短期間の実験ではなく、
比較的長期間の実験だったらしく、
その赤字の累積はニワトリの体重に
匹敵するほどの量になるという。
そういえば……
と、周囲の野鳥の事を想像するに、素朴に考えて
不思議ではないだろうか?
特に草食性の野鳥は、どうなのだ?
卵から孵化して大きく成長するまで
カルシウムに恵まれた環境で
育っているのだろうか?
我々の周囲にカルシウム、あるのか?
どこかに落ちているのか?
それはともかく、
ニワトリの実験、どう説明する?
何か別の元素がニワトリというブラックボックス
の中で、カルシウムに転換しているのでは?
……と考えるのが自然なのではなかろうか。
ケルヴランは『自然の中の原子転換』で
カルシウムについて次のような関係式を
提示している。
各元素記号の左肩の数字は質量数であり、
式の右辺と左辺で、その合計が一致する形だ。
学校で教わる「化学式」とは違う。
![](https://assets.st-note.com/img/1736850850-ew28Z1mu6hsEtGFAM3bHSQyO.png?width=1200)
カリウム(K)とマグネシウム(Mg)は
植物にしっかり含まれている。
3番目の式のケイ素(Si:シリコン)は
石英をはじめとする鉱物の主成分だ。
実はニワトリは、雲母という鉱物が大好物で、
これを与えると、好んでつつくらしい。
そして、雲母を摂ったニワトリは、
殻の厚い卵を産むという。
ちなみに、
鳥類の消化器には「砂嚢(さのう)」という
胃袋の一種があって、砂礫類が詰まっている。
雲母はここに納まるのだろう。
ケルヴランによると、
こういった現象を引き起こす主体はなんと
バクテリアだというのだ。
…何かと応用が利きそうなすごい話ではないか。
このケルヴランの話を初めて知ったとき、
なんだ、こんな小学校レベルの実験で
矛盾が発覚するとは、我々の科学認識って、
ざるではないかと思ったものだ。
きっと都合の良いところばかりに目を奪われる
から、そうなるのだろう。
*****
少し話が逸れるが、カルシウムに関係しそうな
気になる話が、他にもある。
日本人のヴィーガンで、フルーツ研究家の
中野瑞樹(なかの・みずき)氏の話だ。
彼は〈フルーツしか食べない人〉として
知られている。
彼が、雑誌のインタビューで次のようなことを
語っていた--
中野:肉や魚はもちろん食べていません。
豆や芋、米やパンなどの穀物も野菜も
食べていません。
水やお茶も全く飲んでおらず、
水分の補給もフルーツからのみですね。
中野:以前にテレビの企画で骨密度を
調べてもらったことがあったんですが、
同年代の男性に比べて3割も高い
骨密度で驚かれました。
日刊SPA! https://nikkan-spa.jp/2054112/
ここで言うフルーツにはキュウリやトマトなど
水分の多い果実野菜も含まれているようだ。
骨のためにはカルシウムが必要ということで、
世間では、やれ煮干しだ、牛乳だと言われる
のが常だが、ヴィーガンの彼はもちろん、
そんな物は食べない。
にもかかわらず、骨密度が平均以上なのは
なぜなのか?
栄養学・世間一般の認識が間違っているという
ことではないのか?
なんか、前述のニワトリの話と、どこかで
リンクしそうに筆者は思うのだが。
*****
さて、ここからやっと「塩」の話に入る。
なぜここまでカルシウムの話をしてきたか、
おわかりいただけるだろうか?
上の黄色いイラストの関係式が本当であれば、
こんなのは氷山の一角、ミネラルの関係式が
無数に出てくるのではないか?
カルシウムの話どころか、他のミネラルにも
元素間のダイナミックな相互移転があると
想像いただきたい。
数あるミネラルの中で、塩(ナトリウム)だけ
特別扱いするわけには行かないだろう。
*****
先ほど筆者は「ある小さな出会い」で
塩信仰が崩れたと述べた。
それは
筆者がまだパン屋をやっていた時のことだ。
参考)パン屋時代の恥ずかしいホームページ
http://komuginoyakata.com/bakery/HOME.html
確か、2009年ぐらいのある日のこと。
パンの配達先の、代々木上原の自然食品店で
筆者が焼いたパンが届くのを、女性客がひとり
待っていた。
待たせてしまって申し訳ないと思いつつ、
パンに値札を貼り、店の棚に並べていると、
彼女が、そっと近づいて話しかけてきたのだ。
--わたしは腎臓を患って医者から塩分を控える
ように言われた。いつもあなたのパンを
食べているが、塩味が強くて食べにくい。
塩を減らしたパンを焼いてほしい--と。
とても気になる話だったので、事情を詳しく
聞いてみた。
彼女は、医者の指示に従って、時間をかけて
減塩プログラムを実践し、腎臓病を治した。
治ったのは良いけれど、以来、味覚が変わり、
塩分を受け付けなくなった。
一般人がちょうど良いと感じる塩味も、彼女には
濃すぎて食べられないという。
現代医学の減塩プログラムのことは、
話には聞いていたけれど、
実際に眼の前に無塩に近い生活をしている人が
登場した。これはショックだった。
むしろ無塩の食事によって、食材そのものの
味の魅力がよく分かるようになったという話も
どこかで読んだことがあったので、
そのことも彼女に聞いてみたが、
実際そういう劇的な変化があるらしい。
何より、塩を減らして問題が起きるどころか
彼女はその後も元気に暮らしているのだ。
*****
さて、塩の摂取量を減らしたのだから、
彼女の血中の塩分濃度は薄くなったのだろうか?
そんなことは起きない。恒常性機能だ。
ナトリウムに限らず、血中ミネラル濃度は
一定に保たれる。
塩分摂取量を減らしても、恒常性機能によって
血中の塩分濃度は一定である。どういうことだ?
というか、現代医学はこの点を
ちゃんと見ているのか?
*****
ヒントは他にもある。赤ちゃんの食事だ。
つまり母乳。
母乳の塩分濃度を調べたことがあるが、
だいたい 0.038% 。
血液の塩分濃度の 1/10 以下だ。
赤ちゃんは、母乳を一日にどのぐらい飲むのか、
仮に1カップ(200cc)として、
塩分摂取量は 0.08グラムに満たない。
赤ちゃんは身体が小さいけれど、それでも
一日 0.08グラムとなると、ほぼ無塩の食生活と
言えよう。
では赤ちゃんの血液は無塩かというと、
いやいや、大人と同じ濃度である。
*****
要するに、塩をたくさん摂ろうが摂るまいが、
血液の塩分濃度・塩分量(Na)は変わらない。
このことを概念的にグラフ化してみた。
![](https://assets.st-note.com/img/1736851284-PGLQjcnx5rabSWyFzJ9H2V4o.png?width=1200)
「外部依存度」という変な言葉を使っているが、
要するに、グラフの赤い部分が、食事での
塩分摂取量だ。
注目いただきたいのは、グラフの白い部分だ。
この部分は何を意味するのだろうか?
塩をたくさん摂ろうが摂るまいが、
血液の塩分濃度が変わらないとするならば、
白い部分は食事の塩分以外から補っている
ということになる。
言うなれば、白い部分は「塩分自給率」だ。
もしくは「自給力」と言うべきか。
*****
ちょっと小耳に挟んだエピソードを一つ。
熱心なマクロビオティストが、ある日、
「一日断塩セミナー」に参加したそうだ。
一日だけ、塩を使わない食事をすることで
一種のデトックスを行おうというものだった。
たった一日だけの行事であったが、
その参加者は、そのあと身体がおかしくなり、
一時的に危ない状態に陥ったという。
上のグラフで言えば、一日だけ赤い部分を
欠落させたわけだ。たった一日……。
いったい、その人の身体に何が起きたのか
想像できるのではなかろうか?
こういうのを廃用萎縮というのではなかったか?
食事で外からナトリウムが入ってくるので、
体内で自ら産み出す必要が無くなり、
やがて自給力を絞ってしまうわけだ。
その人は普段、どれだけ塩を摂り続けて来たの
だろうか。
塩なしには生きられないということは、
塩を自分の足枷にするということだと
理解するべきだろう。
*****
冒頭、「人類は塩中毒である」と書いた。
陸上の動物で、塩を積極的に摂っているのは
人類だけだ。なぜそうなったのか?
難しいことではない。
きっかけは食糧の保存であろう。
塩漬けにすることで食べ物の長期保存が
可能であることを発見したのが運の尽きだった。
食糧生産力が低ければ、限られた量の食糧を
いかにして保存するかが昔は大きな課題だった。
文明のなせるわざとでも言うのか、
それが塩中毒の始まりだったわけだ。
ほぼ無塩で育った赤ちゃんも、
大人になれば、「大人の味」を覚えて、
塩中毒の仲間入りを果たすことになる。
*****
文明国の食文化は、
塩なしには成り立たなくなっている。
だから、まあ無理することはないけれども、
少しずつでも塩からの脱却を心がけたほうが
良いのではなかろうか。