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風呂はSF トイレもSF
鹿児島の仙巌園を見学に行った。
気になったのは風呂である。
仙巌園というのは島津家の別邸で、庭園だけでなく邸宅の中も見学できる。
さすがは大名の邸宅ということで広かったが、なんというか近代的過ぎてほんとうに昔の建物なのかと思った。
自分が子供の頃住んでいた昭和の家を上回る近代ぶりである。
邸宅には内風呂があった。
釜はない。
当時は、外で沸かした湯を浴槽に運んでいたとある。
浴槽は薄い板でできていて、おそらくこれは湯をためて、その湯で体を洗うという用途だったのだろう。
風呂だけは今見ると見劣りする。
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私が生まれる前、農家だった母の生家は屋外に風呂桶があった。
子供の頃の母には、学校から帰ったあと風呂桶に川の水を汲み入れるという仕事があったそうな。
川は急斜面を降りたところにある。
風呂をいっぱいにするには何度も斜面を登り降りしなければならない。
嫌な仕事である。
私が生まれたころに、祖父がタイル張りの風呂場を増築した。
ちゃんと蛇口があって、井戸水をポンプで汲み入れることができる。
ためた水はボイラーで加熱する。
ソーラー給湯器もついていて、夏ならボイラーなしで風呂に入れる。
風呂のみで考えると、地方の農家が100年がかりで島津の殿様を追い抜いたといえる。
100年かかったとはいえ、殿様に勝ったんだから偉業である。
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今の家はどれもユニットバスで見た目がきれい、床もタイルじゃないので冷たくないし、いいのになると暖房や洗濯物乾燥機までついている。
ボタンを押すと勝手に適度な温度の湯を張ってくれて「お風呂が湧きました」などと知らせてくれる。
こんなことはつい最近まで当たり前ではなかった。
トイレだって水洗で便座が温かい。
祖母が子供の頃は小屋掛けした中に穴をほったのが便所だったと聞いた。
穴は子供には大きいから、スキーみたいに板を渡してある。
子供は板に足をのせて用を足したのである。
ふんばる最中も板がわんわんとたわむ。
それが嫌で祖母はなるべく我慢していた。
ちなみに尻は柔らかい木の皮とか葉っぱで拭いていた。
そこから考えると何もかも長尺の進歩だ。
水回りはSFの世界に入っている。
関係者の方は本当にすごい。
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