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書店を閉店させない

ビブリオスターの悲劇

書店の閉店ラッシュである。

2028年には消滅!?各地で閉店相次ぐ「まちの本屋」業界特有の商習慣「再販制度」と「委託販売」が苦境の一因か|FNNプライムオンライン

アーサー・C・クラークがどこかで次のように言っていたと思う。

「今の人は本を読まなくなった。
いろいろな娯楽があるから仕方のないことだ。
私は家族が居間に集まって読書していたことを覚えている最後の世代である」

彼は1917年生まれである。
だから「家族が居間に集まって読書していた」のは1930年代前半までのことだろう。

一家団欒の風景を変えたのは多分ラジオだ。
バグルスはRadio killed the bibliostarという曲も作るべきだった。
本が売れなくなる兆候は90年前から存在したわけだ。

それでもここまで曲がりなりにも本が売れ、書店は生き残ってきたのだから、彼らは立派なのかもしれない。

原因を考えよう

業界構造など色々あろうが、一番の原因は本全体の売上低下、二番は人が本屋で本を買わなくなったことだろう。

日本の出版販売額 | 出版科学研究所オンライン (shuppankagaku.com)

書籍の売上は過去25年の間に6割ぐらいに減っている。
こんなことはありえないが、仮にどの店舗も売上が6割まで下がったとして、果たして持ちこたえられるのだろうか。

私はお店をやったことがないので、実際の経営はわからないが、自分の収入が6割になったら、普通に破産すると思う。

Amazonこわい

さらに恐ろしいのは実店舗じゃなくても本が買えるということである。
電子書籍はいうまでもなく、紙の本だってみんなAmazonで買っている。
もうすぐ後期高齢者のわたしの父ですらAmazonユーザーだ。

58.0%対42.0%…リアル書店とインターネット経由の出版物の売上動向(2021年版)(不破雷蔵) - エキスパート - Yahoo!ニュース

実店舗の売上は、書籍売上全体の6割弱のようである。
25年前にはほとんどの人が実店舗で本を購入していただろうから、書店の売上は過去25年間で6割に減少したのではなく、6割×6割=3割6分まで減少したことになる。

給料36%の世界は誰が考えてもやばい。
だから書店はやばいのだ。

それで世の書店はなんとか生き残ろうと知恵を絞っている。
実店舗にしかできないことはなにか考え、書店内にカフェを設けたり、あるいは書店内にカフェを作ったり、さらには書店内の一角をカフェにしたりしている。

これはバカにしているのではない。
多分私も書店をやっていたら、その一角をカフェにすると思う。
大きな環境変動を前にして、人間が抵抗できることは限られているのだ。

まず手始めにフィクションの中で書店を救う

過去の人々には危機や環境変動や技術革新に対する心構えというものがあった。
それはなぜかというと、フィクションでそれらの予習をしていたのである。
心構えがなくてはいいアイデアも浮かんでこない。

だからみんなSFを読もう。
スノウ・クラッシュを読んでメタバースに備えよう。
日本沈没を読んで日本沈没に備えよう。

これは岡田斗司夫の説である。

よって仮に僕らが書店を救いたくば、まずは「書店がピンチ!終わった!」という小説をたくさん書くしかない。
当然、「書店がピンチだったけど、間一髪で助かったわー」という小説もたくさん書かれるべきである。
「書店が滅びた世界で僕らは生きています、恋をして、子供を生みます」という小説もどんどん書かれたらよい。

思考するための道具がなければ、思考すること自体できない。
その問題と解決を語る言葉がなければ、問題も解決も正しく存在しえない。
思考の道具として、問題と解決を語る言葉として、フィクションは重要なのではないか。

新興宗教に学ぶ

思うに危機に際して一番大切なのは組織力と統率された行動である。

話はそれるのだけど、以前、某新興宗教の勧誘をうけた。
そのときはなんとか逃げ出すことに成功したが、実際勧誘されてみて、僕は驚愕したのだった。

まずちゃんと教科書がある。
たぶん「友達を作る編」「友達を呼ぶ編」「友達を囲む編」「友達を説得する編」「友達の反論を封じる編」「友達に契約してもらう編」みたいな感じで事細かに存在している。

そして授業もある。
たぶん、友達を助けてあげようね!としっかりモチベーションを作り、助けてあげ方を丁寧にレクチャーし、実際に助けてあげるロープレを何度も繰り返し、ちょろい相手かサクラで実際にやらせてみて成功体験を作ることで実践的な力を身に着けさせている。

さらに営業組織がある。
たぶん、集団ごと期ごとのノルマを設定し、メンバー一人ひとりの営業リストを整備し、リーダーがメンバーの行動管理とモチベーション管理を行い、毎日クロージングリストを提出させてノルマ達成見込みを常に把握、ノルマ達成が厳しければ特別キャンペーンを次々と打ち出し、総員休日出勤してなにがなんでもノルマを達成させている。

たぶん、ノルマ未達成者については心胆寒からしめるペナルティを課し、定期的に大きな会を開いて達成者を大々的に称揚、さらにMVPには富と栄誉を与えて、メンバーがノルマのことしか考えられなくなる環境づくりに励んでいる。
さらには成功事例をあつめて配布し、集団知の向上を常に図っている。

そんな彼らの日々の努力が伺えたのだった。
全部想像だが。

ここまでやらないと結果は出ない。
宗教に興味がない他人を信仰に導くなんてできっこない。

本も同じではないか。
とどのつまり、現存する本業界全体をまるっと救う大乗の思想を実現するには、過去の売上を取り戻すしかない。
というかネット書店があるから取り戻すだけでは足りない。
取り戻しかつ二倍以上にする必要がある。
(本屋の)所得倍増計画だ。

そんなことを可能にするには修羅の道を行かざるをえない。
我々本好きは一致団結して組織を作り、上記新興宗教の如き統率された行動で敵中に血路を開くのである。
すなわち、なにも知らない無辜の民をおびきよせ、監禁・洗脳し、本買い戦闘員に改造しまくるのだ。

たぶん図書館戦争はそんな話だと思う。

まとめ

自分で言っておいてなんだが、新興宗教に学ぶブラック組織ソリューションはちょっとお先真っ暗で、仮に実現可能だったとしても極力ごめん被りたい。
なんかショッカーみたいだし。

本当は自分が大富豪になって諸国漫遊ならぬ諸書店漫遊を定期的に決行、「この棚のあっちからあっちまでください」的な感じで本を買い漁ったらすこしはマシになるのだろうが、今の自分は貧困にあえいでいて年間の書籍代が約3万円、しかも全額Amazonのサブスクにベットしているという書店的非国民でもある。

仕方ないので周りの人を読書に誘うことにする。
めっちゃ楽しい感じで「本たのしー!」ってやったら、読んでみようかなという人も現れるかもしれない。
私が「本たのしー!本サイコー!」とやることで、明日、近所の本屋さんで一冊の本が買われる。
そのとき遠大なる "本屋さん補完計画" の第一歩が踏み出されるのだ。

参考