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鹿児島鶏刺し紀行
鹿児島旅行の目玉は50個ぐらいあった。
ゲーム界隈の人なら実績というだろう。
そのうちの一つが「鶏刺し」について見聞を深めるということだった。
彼の地では鶏を生のまま刺身にして食べる。
*
今回の旅行で、ガイド役を買って出てくれた先輩がいる。
その先輩曰く、鹿児島や宮崎ではスーパーでも鶏の刺身がパック詰めにして売られているという。
先輩は宮崎人で、鹿児島にも住んでいたことがあったが、東京に来るまでその特異性に気づかなかったそうだ。
我々捜査班は鹿児島駅前のイオンに向かった。
たしかに精肉コーナーの一角に整然と鳥刺しのパックが並べられていた。
刺身のツマのごとく鶏皮が添えられている。
皮は炙られているようだ。
身は私が知っているものより色が濃い。
鶏刺し用の品種が存在するのかもしれない。
それにしてもものすごい光景だ。
私は感動した。
スーパーで感動できるとは思わなかった。
行ったのが閉店間際だったため、鶏刺しには割引の札が貼られていた。
私が見ている間にも数組、品定めしている人々がいた。
はたして見切り品でも大丈夫なのだろうか、なんというか、こう、菌的に。
*
我々は居酒屋へ向かった。
実際に鶏刺しを食べてみよう、それもうまそうなやつを食おうという計画である。
生の鶏肉などという異文化の象徴を食べたら、天国の祖父母に叱られてしまう気がする。
また肝臓の神にも事前になんらかの申し開きが必要な気がする。
いざ実食という段になって、私は先輩に相談しようとした。
それを察してか、先輩は先んじて喋り始めた。
先輩いわく、鹿児島や宮崎には、驚くべきことに鶏刺しの組合が存在する。
そこでは国が定めるよりずっと厳しい衛生基準が設けられている。
よって我々は中毒することなく鶏を賞味できる。
ケンミンショーでやっていた。
そういう話だった。
ケンミンショーはみのもんたがやっていたと思う。
みのもんたが言うのだから信じるほかあるまい。
なるほど・ザ・ワールドで体を張っていた頃の彼を私は忘れていない。
私は鶏刺しを食う決意を固めた。
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鶏刺しは馬刺しのように甘い醤油で食う。
薬味としておろしにんにくとおろし生姜がついてくるのも馬刺しのようである。
実際食ってみたら大変おいしかった。
魚にはない濃厚な旨味と軽やかな歯ごたえがある。
酒がやたら進んだ。
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