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ゴミ拾いをすることで君もニュータイプになれる
内田樹の「困難な成熟」に、職場のゴミを拾え、場を支配しろと書いてある。
ビジネス書とか、自己啓発書のたぐいにも、職場のゴミを拾えという話が出てくるのは、つまりみんなゴミを拾っていないからということになる。
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外のゴミならいざ知らず、職場のゴミ拾いはよいことである。
これは倫理観の低い人間や、軽犯罪志向の人間でも頭でわかっている。
実際質問してみると「いいことだよね!」という返事が返ってくる。
(「私のような役職者がなんでゴミを拾わなきゃいけないの」とか、
「ゴミを拾ったら清掃員の仕事がなくなっちゃうじゃん」という人もいるだろうが…
こういう根性のねじけた人は、私が唯一神になったらみんな地獄の火の中に投げ込むから、安心してほしい)
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誰だって職場のゴミを拾いたいのである。
「あいつ、なんでゴミを拾わないの」問題を、倫理観とか利己心などの問題だけに帰するのはよろしくない。
ゴミを拾わない人はゴミが見えていないのである。
ゴミをゴミと認識していなかったり、そもそも床やゴミ箱を見ていないのだ。
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新卒の頃、ゴミ箱がいっぱいになったので、ゴミ箱に被せる袋を取り替えようとした。
新しい袋を被せる前に、ゴミ箱にゴミを放り込んでいった人がいた。
私よりも、その様子を端から見ていた人が憤っていた。
「信じられない!なんであんなひどいことができるんだろう!」
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下手人は私の上司だった。
私は機会を見つけて、問いただした。
「なんで袋をかぶせる前にゴミをいれちゃったんですか」
するとそんなひどいことはしていないという。
先日端で憤っていた人が、自分も見た、確かにやっていたし、なんなら自分が袋を交換するときにもやられたことがあると加勢してくれた。
さすがに上司も観念した。
気づいていなかったかもしれない、これからは気をつけるとのことだった。
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「気づいていなかっただって。
よくもまあ、いけしゃあしゃあとバレバレの嘘がつけたものだ」
と憤りの人は毒づいていた。
私は本当に上司が気づいていなかったのだろうと思った。
というのが当時、上司は袋を用意する私に気づいていなかったようだし、目を見てもなにか別のことを考えているような様子だったからである。
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おそらく私も気づかずに、ゴミ関係で悪行を重ねているに違いない。
ゴミ以外の悪行もしているはずだ。
ゴミ拾いで必要なことは、倫理意識の向上ではなかった。
生活環境へのセンシング技術の強化だったのだ。
Zガンダムでも、前作の主人公のアムロが、
「何やってる、うしろにも目をつけるんだ!」
というようなことを、味方のカミーユに怒鳴っていた。
見た当時はなんて理不尽なことを言うのだろうと思った。
が、見えてないものがたくさんあるから、センサーを強化しろという意味では正しかったのである。
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