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一貫性を保つ能力:生物と知能の特性

生物と知能の振る舞いについて考えると、そこには一貫性を保つという性質があることに気がつきます。

例えば天敵から逃げたり食べ物を探したりするために移動する際、どちらの方に進むのか、選択肢は多数あります。

初めは右側に移動し始めたとしても、その次の瞬間も、移動できる方向の選択肢は多数あります。この際に、左に戻るような選択肢を選んでしまい、また次の瞬間には右に移動する、といった選択を繰り返してしまうと、敵から逃げたり食べ物を探すという目的を達成できません。

また、敵から逃げている最中に食べ物を探すという目的を急に優先させたり、睡眠や休息を取るという選択をしたりするようなことがあれば、やはり敵から逃げるという当初の目的は達成できません。さらに、敵から逃げている最中に行き止まりに追い詰められた際、一か八か天敵に攻撃を仕掛けるといったように、短期的な行動指針を状況に応じて切り替えなければ、危機を脱することはできないでしょう。

これらは、生物が生存という大きな目的を達成するために、一貫性を持った行動ができることを意味します。知能を持つ生物は、より高度な形でこの一貫性を保つことや、生存に直結しないような遊びのような行動に対しても広く一貫性を保つことができます。

反対に、自ら定めた目的に対して行動の一貫性を持つという特性は、非生物や非知能には見られない特性と考える事もできます。もちろん、物理法則自体には一貫性がありますが、それは能動的に保たれているのではなく受動的なものです。この考え方に従えば、一貫性を保つことが、生物や知能の特性と言えることになります。

この記事では、生物や知能が持つ一貫性を保つという特性について、考えを深めて行きたいと思います。

■文脈と一貫性

知能は、文脈に沿って一貫性を保ちながら知的な振る舞いをします。生物もまた、文脈に沿って一貫性を保ちながら生命を維持しています。

文脈には、思考や生物の活動の履歴と、そこに内在する意図や目的、計画や戦略などの背景を含みます。

一貫性は、こうした背景を維持し、達成に向けて履歴を補完するように次の思考や活動を決めていくことを意味します。

生物は文脈の一貫性を保つことで生きており、知能は文脈の一貫性を保つことで存在していることになります。

■多層性と慣性

意図や目的は、計画や戦略に沿って細かく分割されます。そして分割された意図や目的は、さらに分割されるという多層的な構造を持ちます。

また、意図や目的は、物理的に決まっているわけではありません。過去のパターンに沿った反射的に決定したことや、偶発的に決定したことが、文脈の背景になる場合もあります。

このように反射的に、あるいは偶発的に発生した背景に慣性が働くことで、生物や知能は文脈に一貫性を持たせています。

■ボトムアップとトップダウン

背景が多層構造を持ち、反射や偶発的な決定によって形成されるということは、ボトムアップ的に長期的な背景が形成されることを意味します。

一方で、ボトムアップで決定された長期的な背景に対する一貫性を保つためには、トップダウン的に短期的な背景に細分化する必要があります。

文脈の一貫性を保つ能力は、このようにして多層的な構造の背景を自ら形成します。

■個体と生物種

生物の個体は、文脈の一貫性を保つシステムと考えることができます。

春に花を咲かせる植物は、単に気温が暖かくなったら花を咲かせるわけではありません。一定の気温を超える日が何日間継続しているかをカウントして、一定の日数継続していたら、花を咲かせます。

この日数をカウントすることは、非常にシンプルながらも文脈に沿った活動です。

そして、花が適切な時期に咲けば、受粉しやすく、適した時期に実を成熟させることができます。

これらは全て繁殖のために重要です。つまり、繁殖という目的を背景として一貫性のある文脈が保たれていると言えます。

そして、こうした個体間でDNAを共有している生物種も、全体として文脈の一貫性を保つシステムとみなすことができます。さらに、生態系全体も、文脈の一貫性を保つシステムとみなすことができます。

個体は自分自身の生存を目的とした文脈を持ち、同時に生物種の継続を目的とした文脈にも参加しています。そして生物種は生態系の繁栄という文脈にも位置づけられます。

■一貫性の要素

文脈の一貫性は3つの要素から成り立ちます。

1つ目は、文脈の慣性です。背景や目的に慣性が働かなければ、一貫性は成立しません。

2つ目は、変化への適応性です。変化すると文脈が維持できなくなるのであれば、一貫性を保つことはできません。

そして3番目は、試行錯誤です。あえてやり方を変化させることで、目的を完遂できる道を探すことです。

■美味しい料理の例

例えば、美味しい料理を作りたいと考えたとします。

まず、その美味しい料理を作るという目的を一貫して持ち続けることが必要です。これが慣性です。

手に入る材料は毎回異なり、材料の個体差や室温の影響など様々な要因も調理の度に変化します。

こうした変化に応じて作る料理を変えたり、火を通す時間や調味料の分量を変えるなどの調整が必要です。これが適応性です。

さらに、より美味しい料理を作れるようにレシピやコツについての情報を集めたり、自分で創意工夫することも重要です。これが試行錯誤です。

文脈に対する慣性が働かなければ、変化への適応も機能しません。

美味しい料理を作るという目的が維持されていなければ、材料や気温の変化に応じた調理や味付けの調整を適切に行えません。

また、変化に適応できなければ、試行錯誤が効率的にできません。

試行錯誤はあえて自ら変化を加える行為ですが、闇雲に変化させると文脈から大きく逸れたものばかりになり、一向に改善できません。

変化に適応する能力が下地にあれば、試行錯誤によりあえて変化させた場合でも、その変化に対する適応も可能です。

料理の適応能力がない人が試行錯誤してもなかなか美味しい料理ができません。料理の適応能力が高い人だからこそ、試行錯誤によって新しい美味しい料理を上手く作り出せるのです。

■ブートストラップとフィードバック

この例のように、慣性が適応能力の土台になり、適応能力が試行錯誤の土台になる、という形で積み上がるブートストラップの構図になっています。

また、美味しい料理を作ることができると、達成感や充足感などのポジティブな感覚がフィードバックされます。このポジティブフィードバックが、美味しい料理を作るという目的を持ち続ける動機となります。

つまり、適応能力の強化や試行錯誤の成功が、慣性の強化にフィードバックします。

従って、慣性、適応能力、試行錯誤は、ブートストラップとフィードバックの構造を持ちます。

このような関係の構造が成立することで、文脈の一貫性が保たれます。

■さいごに

この記事では、生物と知能の特性として一貫性を保つ性質についていくつかの観点から検討し、考えを深めました。

重要なポイントは、一貫性の中心は文脈であるという点です。文脈には生物や生命の外部の出来事が反映されますが、文脈自体は生物や知能の内側に保持されます。また、同じ外部の出来事であっても、生物や知能が異なれば、異なる文脈が形成されます。

この文脈を保持する能力が、一貫性を保つシステムが必要とする最も基礎的な能力です。ただし、この段階ではまだ一貫性を能動的に保つシステムとは言えません。単に記録や記憶する能力があるだけで、一貫性を保っているわけではないためです。

内部に保持した文脈に対して、方向性や流れを維持するように行動や思考するという慣性が、一貫性を能動的に保つシステムの基礎能力になります。これに加えて、変化に適応する能力や、自ら変化を加えて試行錯誤する能力がブートストラップされて能力の高度化につながります。そして、高度化された能力により、文脈の一貫性を強化するフィードバックが働きます。

こうした能力を基礎にしつつ、生物と知能は状況に応じてパターンに応じた反射やランダムな選択によって、新しい文脈を方向付けます。そうした新しい文脈の方向性が、慣性、適応、試行錯誤により強化されていきます。

この過程で、より大きな文脈の方向性を形成したり、吸収されたりすることでボトムアップ的にマクロな文脈が形成されていきます。また、反対に既存の大きな文脈により押し戻されたり、補正されることでトップダウン的にミクロな文脈が制御されます。

これにより、ミクロ文脈の反射や決定がマクロ化し、マクロな文脈の影響がミクロ化するという双方向で複雑な階層構造が文脈を特徴づけていきます。

生物であれば、この複雑な文脈の階層構造が個体、種、生態系を形成します。知能の場合、特に人間の場合には、日常的な行動、中長期的な目的、そして人生のあり方に至る複雑な文脈を形成します。

こうした複雑な文脈を形成し、維持し、進化するためには、感性、適応、試行錯誤という一貫性のメカニズムが不可欠です。そして、この一貫性こそが、生物や知能を他のシステムと区別する特性であるというのが、この記事での私の主張です。


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