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『ダメ!』がダメな理由。
身近な所の、ある障がい者福祉施設にて、
『ダメ!』『❌ペケッ!』『出ていけ!』
否定的なワードを、利用者に連発する支援員がいることを知りました。
利用者が度々パニクってしまうので、毎回他の支援員がフォローをしなければならず、周りの負担が大きくなっているのに、当の本人は「ワレカンセズ」状態。
残念なことに、その支援員は福祉業界ではベテランの方でした。
もしかすると、ベテランの方が前世紀の措置制度の頃のやり方を、引きずってしまいがちなのかもしれません。
⭐⭐⭐
もう10数年前、娘が発達障害と判った頃に、保護者のための研修をずいぶんと受けました。
支援者の基本中の基本として、
否定する言葉は使わずに、次の行動を示す言葉を使う
がありました。
走り回って、今にも車道に飛び出してしまいそうな子には
『アブナイ!』『走ってはダメ!』
ではなくて、
『こっちへおいで!』『ゆっくり歩きなさい!』
と。
「例えはあんまりよくないんだけど…」
と、当時受けた説明で、
「飼い犬が飛びかかってきた時に
『ダメ!』
って言うより
『おすわり!』
って言う方が効果あると思いませんか?」
犬にしてみたら、遊んでくれるかも?と喜んで飛びかかってるかもしれない、『ダメ!』だけだと、犬の気持ちをおさめるのは難しいかもしれません。『おすわり』という次の行動を促す方が効果がありそうです。
この言い換えは、なかなか難しいんです。
今でも、ついつい『ダメ!』って使ってしまいますが、使ったら使ったで、必ず、なぜダメなのかを、その場で丁寧に教えることを心掛けなければいけません。
障がいの有り無しにかかわらず、子育てには必要な技術ですね。
『ダメ!』だけだと、人格全てを否定されるように感じてしまう子もいるそうです。
⭐⭐⭐
ホームセンターなどで購入する小さな家具で、自分で組み立てる商品があります。
で、組み立てる時に、完成図だけを見て『組立説明書』も見ずに、いきなり組み立てていく人と、『組立説明書』を見ながら、説明書通りに順々に作る人と、ザクッと大きく2タイプに分けてみます。
どっちが悪いということではありません。
また、絶対に説明書なんて見ない人は少ないと思いますし、難度とかその時の気分で、作り方は変わると思います。
『いきなり派』と『順々派』と、完全に分けてしまうのではなく、どっちが得意か苦手か?片寄ってるか?ぐらいに捉えておいて下さい。
『いきなり派』の人は、今現在の目に入ってくる情報から行動に繋げるのが得意。
逆に『順々派』の人は、物事の起こった順に情報を重ねて行くのに馴れておられるようです。
どちらも大切な捉え方です。
企業診断するなら『いきなり派』が貸借対照表、『順々派』が損益計算書
に当たります。
昨年、ダイヤモンドプリンセス号に潜入した学者さんは、たぶん『いきなり派』。
潜入してすぐに、船内のゾーニングの不備を指摘してwebで告発しました。
潜入については、悪気は無さそうでした。
一方、現場の指揮をされていた厚労省の副大臣は、たぶん『順々派』。
告発を受けて最初に発したメッセージは、自分の指揮管理を無視された、秩序を破られた事への怒りの方で、指摘された船内ゾーニングの不備については、ちゃんとできてると否定しようと船内画像をwebにあげてしまい、逆に炎上してしまいました。
今現在の状況判断が苦手な方なのかもしれません。
話がそれてしまいました。
すみません。
具体的にデータを取ったわけではありませんが、よく発達障害、コミュニケーション障害では?と言われる方には『いきなり派』に片寄ってる方が多いようです。
ここで、実際に有りそうなお話をフィクションでひとつ。
物事を順々に考えるのがとても苦手な男の子、いきなりくんは、音楽教室からクラスの教室へ戻る途中カバンを振り回してふざけていたので、気付かぬうちにふでばこをカバンから落としてしまいました。
一番最後に音楽教室を出た、じゅんこさんは、廊下に落ちているふでばこを見つけました。
たぶん、クラスの誰かが落としたんだろう
と、じゅんこさんは、クラスの先生に渡します。
先生はふでばこをみんなに見せながら
「このふでばこ誰のかな?
じゅんこさんが廊下で拾ってくれたんだよ…」
いきなりくんは、そのふでばこを見て、いつも入れているカバンの中を見ると、そこにあるはずのふでばこが無い、すぐに
そのふでばこ、僕のだ、返して!
と、先生に叫びます。
この時、いきなりくんには、どういう経緯でふでばこが先生の手元に有るかは、考えの中に無いのです。
ところが、その「返して!」を聞いたじゅんこさんは、自分で落としたくせに、まるで私が盗ったような疑いをかけてこられたと思い、いきなりくんに向かって、泣きながら
「いきなりくんなんて、キライ!!」
先生も腹を立てて
こらっ!いきなり! ダメしゃないか!
じゅんこさんに謝りなさい!
ところが、叱られたいきなりくんは、なぜ、自分が叱られたのか?が、わからない。
ふでばこが無くて、カバンの中に戻した状態にしたくて、今困っているのは自分なのに、自分がダメだと叱られている…
何がダメなのか理解できないのです。
ましてや、なぜ、じゅんこさんが泣いているかもわからない。
自分がじゅんこさんを泣かしてしまったらしい。
なぜか、わからないけど、
ダメなのは、自分…
こんなことが重なると、いきなりくんは、孤立するし、いじめられるし、「ダメな自分」という精神的に辛い環境にどんどん追い込まれることになります。
九九算が苦手な子に
なんで、わからないんだ!ダメな子だな!
なんて言い捨てる先生は、今は流石におられなくなりました。(昭和にはけっこういました)
ところが、
ふでばこを落とす➡️じゅんこさんが拾う
➡️じゅんこさんは、ふでばこを無くした人が困ると思って先生に渡す➡️先生が皆に見せる
と、順序立てて、ふでばこの移動経路を考えたり、拾った人の気持ちを理解するのが苦手な子に、
なんで、わからないんだ!ダメな子だな!
と、言い捨てる先生は、令和でもおられます。
もし、教育、子育てや療育に携わることになった方には、『ダメ!』を使った時には必ず、それがなぜ『ダメ!』だったのかを即座に、丁寧に、そして根気よく理解へと導いてあげるよう、心掛けて欲しいです。
その子が、障がいと認定されているかどうかにかかわらず。
そしてまた、そういった支援は、子どもに限ったことでないかもしれません。
⭐⭐⭐
最後に、こんなことだってあるかも?というフィクションを、オマケにどうぞ。
もし、あなたが、海外への一人旅、たまたまトランジットで降りた見知らぬ国の空港で、突然
バン! バーン!
銃声にも似た爆発音が続いています。
空港ラウンジで、一人、立ちすくむあなたに、空港職員がカタコトの日本語で、
ダメーッ! アブナイョ!
って、叫んでます。
テロリストの銃声? 建物が崩れる?
何がアブナイのかわかりません。
こんな状況なら、たとえ普段冷静なあなたでも、パニックに陥ってもおかしくないでしょう。
もし、銃声だったなら
伏せろ!
とか、天井が落ちそうなら
トイレへ逃げて!
とか、言ってくれたら…
それでも、怖いかな。
でも、『ダメ!』よりは、ずーっとマシなんじゃないでしょうか。