Art Outbound Digest June 9 / 2023「画像生成AIとファインアート」
今日考えたいのは、生成AIとアートの問題です。
といっても論点は非常に多いので、どこからどう切っていったものかと思うのですが。
例えば3月にソニーワールドフォトグラフィーアワードでAI生成画像が部門優勝となり、作者がパフォーマンスとして受賞を辞退するという騒ぎがありました。
去年にはMidjourneyで生成された絵がコロラド州の物産展みたいなイベントのファインアートコンテストで優勝したというニュースがあって、それなりに話題にもなったんですが
このコンペはファインアートと銘打たれているとはいえ、かなり庶民的なものであって、Art Outbound Digestの立場では仮に応募出来るとしてもご紹介はしないレベルのものです。現代アート作家としてのキャリアパスにならないから。
そういうとこでMidjourneyが勝つというのは、Midjourneyの派生型であるNijijourneyを色々と触ってみている私としては、まあそういうこともあるだろうなと。
しかし、ソニーワールドフォトときたら話は別です。
写真の賞としては間違いなく世界最高峰の一つ。
そして問題の作品を出した人も、アーティストとしてはそれなりにキャリアを積んだ人。
問題の画像自体も前年のLens Cultureの白黒写真のアワードでファイナリストまで上がっていた作品です。
Lens Cultureは写真の世界では極めて影響力が大きなウェブメディアで、ここのアワードをいつもの言い方で表現すると、日本国内のどの写真賞よりも、というか木村伊兵衛写真賞とかなんとかを全部束にしたよりハイステータスなやつです。
これ、何となくソニーワールドフォトへの仕込みだったんじゃねーかって気がするんですけどね。
一方、ソニーワールドフォトは審査する側も、AIを使っていることを承知で選んだといいます。
この一件、何故かファインアート界隈ではあまり深く受け止められていないように見えますが、実は結構大きな一里塚の通過だったんじゃないかと思います。
というのはですね。
生成AIが出力したものをアートですというのは、応用芸術の分野では既に始まっているわけですよ。萌え絵やSF/ファンタジーの挿絵もartなので。英語では。
簡単な生成AIが自動で出力するものにNFTをくっつけて売り買いしている世界もあります。ファインアートとは言えない、いわゆるWeb3.0のカジノだと私は思っていますが、カジノのカードに描かれている絵だってartはart。
でも、ソニーワールドフォトのこれは違いますからね。ファインアートの文脈で、これはAIを使いましたねってわかった上で、非常に大きなアワードで、イチオシになった。
ということは。つまり。
生成AIは既にファインアートの世界で、こう言っちゃ身も蓋もないですが「勝ち筋がある」ものになっている。ここまではまず確実に言えます。
では、この事実を受けて我々は、つまりファインアートの世界でキャリアを切り開いていこうという人間は、生成AIとどう向き合っていけば良いのか。
これが今回の大きな論点です。
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