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どこか遠く

「どこか遠く」という名前の予定を、ずっとリスケしていた。
会社員時代の、私のGoogleカレンダーの話だ。

この予定を入れた当初は、「3ヶ月後なら、落ち着いた予定が取れるし、どこかに一人旅しよう」と考えた仮スケジュールだった。期間は一週間。けれど、その休みを取ろうとせず、「どこか遠く」をどこにするのか決められないまま、日にちを更新し続けて5年が経っていた。

その5年の間に、海外旅行も計画だけはした。でも、南の島リゾートも、地球の裏側の秘境も、なんだかしっくりこなかった。「どこか遠く」って、どこのことなんだろう。

そう考えると、私が求める「どこか遠く」は、冒険なのかもしれない。わくわくドキドキを感じていたい。20代のころは、それを恋愛に求めていたけれど、私の人生はそんなに恋愛中心ではないと、ようやく気づいた。片想いをするなら、山や、まだ見ぬ景色にしていたい、永遠の片想いを。

植村直己さんのような冒険家は、自分の命を賭けて旅をするけれど、生死うんぬんより、自分のやりたいことに向き合う人生は冒険そのものだ。
たとえ命は安全でも、心が死んじゃいそうになるときだってあるから、わくわくに向かって全力で人生に取り組めたらいいな、と思う。

私は、これから一年弱、マレーシアに住む。海外生活は、ずっと挑戦したかったことだけれど、いざ「どこか遠く」を目の前にすると、やっぱり足がすくむ。自分の英語がどれだけ通じるのか、新しい世界に馴染めるのか、考えるとキリがない。

だけど、失敗しづらい日本の文化と、それに抗えない自分が嫌で海外に行くのだ。失敗が一つもなかったらつまらないし、失敗のない人生は、誰かの既定路線をなぞっただけの気がする。たぶん、それが、私の今一番行きたい場所、「どこか遠く」なのだろう。


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