2020年モールEC物流クライシス
2018年に起こった物流クライシスと呼ばれる配送コストの値上げ、契約打ち切り問題は社会全体に大きい影響を与えたが、2020年も密かに物流クライシスが起ころうとしている。
2018年配送物流クライシスとは
ECのリーディングカンパニーAmazonのPrime会員特典の配送送料無料や各企業の〇〇円以上送料無料など、送料無料が当たり前みたいな消費者意識を拡大させた。
同時に、EC利用者数が急激に伸び、配送する企業・人のキャパ、人件費が上がり今までのコスト配分では物流・配送ができない状況にまでに陥った。
配送業者で有名なヤマトは配送料の賃上げや一方的な契約打ち切りを実行して、EC提供企業は、運賃コスト上昇、システムの入れ替えコスト上昇、フロー修正時間上昇など様々な企業インフラにまで影響を与え、2018年物流クライシスが発生した。
*2020年5月現在、コロナの影響により外出自粛になりながらもEC利用者は増え、その分配送業者の出荷数棟も増えていることだろう。それが当たり前のように商品を届けてくださる配送会社の物流、配達員様に感謝したい。
2020年モールEC物流クライシスとは
2020年物流クライシスとは、2018年と同じヤマトのような配送企業による問題ではなく、商品の注文、入荷・出荷を請け負うモールEC物流に関わる問題のことである。
これから、アパレル企業を中心にモールEC物流の危機を説明する。
アパレル企業は、自社ECの商品を入荷・出荷する物流、モールEC(ZOZO、SHOPLIST、楽天FASHIONなど)が入荷・出荷する物流がある。
(企業によっては、モールEC側に自社EC在庫を一緒にしている場合もある)
モールEC物流の危機
まず、下の図を見ていただきたい。
1.顧客の商品受取までのフロー
顧客からの注文後の商品の移動する遷移を簡易的に図式化している。
特にモールECに関しては、モールEC側に在庫がある、在庫がないで商品の移動遷移、顧客へのリードタイムも変わってくる。
2.物流の定義
物流1というのは、アパレル企業の物流倉庫
物流2というのは、モールECの物流倉庫
物流3というのは、配送企業の物流倉庫
今、物流2(モール企業の物流)が、物流クライシスに陥ろうとしている
原因1.「在庫集約」問題
在庫集約とは、売れている販売チャネルに他チャネルや店舗、物流から一定数量(もしくは全数量)の在庫を集約して売れている販売チャネルに在庫を移動。機会ロス減少、売上最大化をするためのことを言う。
モール運営の企業担当者は出店企業に対して、売上を更に上げるには、下記のことを特に依頼してくる。
1.在庫連携させてください。(システム的に)
2.在庫をもっと増やしてください。
モールECは売上を大きく左右する在庫数量を確保するため、多くモールEC物流に在庫を入荷するよう依頼をしてくる。
1.在庫連携している。
出店側の在庫システムとモールEC側の在庫システムを連携させて、販売可能在庫を複数チャネル(自社EC含む)で同時に共有・販売可能とする仕組み。
メリットとしては、他チャネルに在庫があるのに、売れるチャネルには在庫がないという機会ロスを招く可能性を軽減できる。
2.在庫連携していない。
予め各モールの目標金額、商品ごとの受注予測、モール内ニーズ、実績に応じて在庫数量を初期投入。(本来は)
初期投入後は、各商品の売上状況に応じて出店側が手動で追加投入指示。
在庫投入数を増やしたいモール側の意向として、本来は売れる在庫投入数を意味する。
ただ、その売れる在庫投入数も企業や担当者によって、どれくらいの数量を投入するのか等明確なルールが決まっている事が少ない。
つまり、「初回投入数量を何の実績・仮説で決めているのか?」である。
追加投入数にしても、自社ECや店舗、他のモールECが売れないからという理由で、本来売れる在庫数以上の自社EC・店舗在庫をモールEC物流に投入する企業もまだまだ多いのが現実だ。
原因2.人材不足、インフラ不足によるモール依存
多くのアパレルは未だZOZO頼み、ZOZO比率が自社ECより大きく貢献している企業が多い。(悪いわけではない)
その大きな原因として、
1.人材不足
2.インフラ不足
が挙げられる。
これらの2つには密接な因果関係があり、EC戦略やオムニチャネル戦略に特化した専門人材の不足により、企業の自社EC戦略、オムニ戦略が将来が描けず、インフラへの投資が後回しになっているため、本来店舗という高コストチャネル(デジタルにはない強み)を生かしれきれていない。
EC戦略やオムニチャネル戦略に特化した経験者や専門人材が市場に少な炒め、経営陣に対してその必要性を納得させきれていない。(経営がやらない=EC事業部が説得できていないと一緒)
経営陣が納得していないので、ECやオムニチャネルに投資ができない。
ただメディアや投資家はEC化率だ、EC強化だ、言っている。
とりあえずはモールEC売上を上げ続ける動きをしていく。
商品の在庫を投入して、クリエイティブを変えたりしながら、モールEC内の販促・広告をする。
当然モールECは独自に集客をしているし、他ブランド目当ての顧客が流れてくる可能性もある。
自社ECの将来描けない + モールECも売れてはいる
これらが、モール依存を促進し、脱却できずにいる大きな原因でもある。
本来は、モールEC側に支払う高い手数料を中長期的に試算して、自社ECにも投資しながら、モールECはモールECのメリットや戦略、自社ECは自社ECのメリットや戦略を同時並行で進めていくことが理想であると考える。
原因3.コロナによる店舗休業
さらに追い討ちをかけるのが、コロナによる店舗休業だ。
1.店舗休業 = 販売できない休業店舗に在庫を置いておく事は非常に機会ロスである。
2.自社ECだと会員数、集客数がモールECと比較するとまだまだ少ない。
結果、モールEC物流に在庫集約する動きになる。
こういう企業が増えてきている。
つまり、通常のモールECへの在庫集約、モール依存、コロナの影響により、売れるかどうかわからない商品も含めて在庫投入数がモールEC物流に急激に増える事になる。
その結果、モールEC側が対応する事としては、物流がパンクする前に入荷受付不可(在庫投入できない)という問題が起こる。
この入荷させたいアパレル企業と入荷受付できないモールEC側の間に発生する問題こそが2020年モールEC物流クライシスである。
なぜ入荷受付不可が起こるかというと、出荷をしないとモールECは売上にならないので、入荷できなくても在庫がある商品の販売・出荷をして売上にする必要がある。
モールEC物流クライシスに備えて
今後モールEC物流クライシスに備えて、
・初回、追加共に精度が高い在庫投入をしていく
*モールEC側の物流が落ち着くのは大前提
・自社ECにも投資
*自社でコントロールできる範囲を広げておく
・店舗出荷できる体制を構築しておく
*店舗ごとのライブコマースやモールECが同一店舗内購買を促進した場合、一番総在庫数を保有しているであろう店舗も整備しておく。