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映画「遠いところ」を鑑賞して

 映画「遠いところ」を映画館で鑑賞してきたので、その感想や少しだけ考察をしてみたいと思います。

 ガッツリとネタバレになりますので、本作を観ていない方で、今後観る予定がある方はこのnoteは見ない方が良いです。

 ご注意下さい。

本編のあらすじはこちら。→ https://afarshore.jp

【以下、ネタバレ】
 題材となる「沖縄における女性貧困問題」は、過去にドキュメンタリー的な取材本などが幾つか出版されていた事は知っていたので、何と無く漠然と興味はありましたが、実際に作品として触れたのは本作が初めてでした。

 前提情報として、沖縄県が発表している沖縄県本島内の市町村民所得一覧を眺めてみると、本作で舞台となった沖縄市(昔で言うコザの辺り)はある程度人口規模に比例しているとおり、那覇市、浦添市に次ぐ県内で3番目(人口は2番目)に高い所得の市町村となっているものの、一人当たりの市町村民所得は県内39番目に位置しており、大宜味村や今帰仁村と同じぐらいの所得規模となっています。(令和元年調べ)

 沖縄に住んでる者が本作の音と映像について端的に言うと、生活音とロケーションは非常に身近に感じる音と映像でした。
 映画の中で轟き低く響く戦闘機の音、沖縄県独特の狭く車が通れないような狭い路地や家の量水器など、いつもの生活音とよく見る風景だったのが、より一層生活感の身近さを彷彿とさせました。

 出演している女優さんや俳優さん達もほとんど(祖母役の吉田妙子さん除く)は沖縄県外の出身者にもかかわらず、撮影前における方言指導や撮影前から沖縄で生活するなどして、沖縄訛りの方言を非常に勉強していた様に感じました。
 むしろ、その映画の中で出てくる方言は、沖縄に縁もゆかりも無い方だと言葉の意味が伝わるのだろうか?とも思ったぐらいです。沖縄県外出身の自分も何と無くの意味は分かっても方言の真意までは分かりません。(本作の監督は敢えて字幕を付けないという判断をしているようです。)

 実際に沖縄にいると言うか、日本全国どこにでもこういうDVをする働かない夫(佐久間祥朗)や自分の子供を疎ましく思い、縁を切りたがっている親(宇野祥平)などはいるよねと思いつつも、主人公アオイ(花瀬琴音)の置かれている状況があまりにも不幸な状態を感じさせます。「沖縄における女性貧困問題」を扱う映画としては、大変問題提起なる映画になるのではと思いつつ、どうやってこの"映画"としての終わり方をするのだろうかと考えながら鑑賞を続けておりました。

 本作の中盤でも、ラジオの音声で沖縄県知事の声で「誰一人取り残さない社会やSDGs」について流れたりと、理想論と現実性との差を皮肉に表現しているところも問題提起をより一層強く訴え掛けている様に感じました。
 また、夫からDVを受けて顔がボコボコに腫れ上がっている状況にも関わらず、駆けつけた友人海音(石田夢実)と共に携帯のカメラで笑いながら撮り、その状況を受け入れてしまうシーン、行政や周りの大人に相談する事無くキャバクラから転向しデリヘルや売春をせざるを得ないと考えてしまう主人公の環境を示すようなシーン、主人公である沖縄の女性が中国人観光客に買春されぞんざいに扱われているシーンなど、一つ一つのシーンが取材を基にしたと思われる表現が観ている人に対して深く考えさせられる内容でした。

 ただ、物語後半になるにつれ、どうやってこの"映画"としての終わり方をするのだろうかと考えながら鑑賞していた身としては、"映画"としての脚本は不完全だったように見えました。

 脚本が不完全だと思った理由は、次のとおりです。

◼️友人役海音(石田夢実)の死因が明示的に表現されていない。
 これは物語前半に、ビーチで遊んでいるシーンでボソっと海音が「遠くに行きたい」って言っていたので、もしかしたら海音は主人公よりもっと前から売春せざるを得ないと考える環境になっていて、その環境により心身が極端に病んでいたのかなとも思いましたが、後半にその様な伏線回収も無く、半グレの様な人たちとのトラブルとして描かれている。

◼️2人いた半グレの様な人ひとりを主人公がその場にあった物を使って頭を殴り続けるが、修羅場に慣れているだろうもう1人の半グレ者が呆気に取られて(?)一切動かないシーンにリアリティが無い。
 これは想像になってしまいますが、この様な場面であれば、目の前にいる華奢な女性1人を抑える事はそう難しい事では無いと思いますので、何もしないで殴りつけた後の主人公を外に出してしまう流れに違和感がありました。

◼️「知らない母子が倒れるシーン」が余りにも不自然である事と、この場面を見た事によって児相から自分の息子(長谷川月起)を連れ出すきっかけになったり、連れ出した後に「笑っている様な泣いている様な表情」で海へ入水していく事なる流れが明示的に表現されていない。
 恐らく、脚本の作製側としては、児相から連れ出すに至る思いや海へ入水した理由などは「鑑賞された皆さん一人一人が考え、その後の結末を想像して下さい」と意図していると思いますが、伏線回収も無く、物語後半における明示的な表現が無かった事から、もう少し芸術寄りの表現よりも問題提起作品らしく現実性を持たせた表現で結末を迎えた方が良かったのでは?と思います。

 加えて違和感があったのは、お金が無いハズなのに冷蔵庫には発泡酒や第三のビールでは無いオリオンビールがたくさん保管されていたり、(沖縄感を出したいのか)沖縄ではマックに比べると割高なA&Wに食べに行ったりと、ツッコミたくなる細部のセッティングは凄く気になりました。(まぁ、そういう所に無頓着だからこそ、貧困であると言いたいのかもしれませんが・・)

 一方、脚本と一部のセッティングには不完全さがありましたが、主人公アオイ役を演じる花瀬琴音さんの演技は終始圧巻でした。特にラストの入水するシーンで、花瀬琴音さんが演じる表現力は正に圧巻です。
 新海誠監督の映画「すずめの戸締り」で、すずめが愛媛で出会う同い歳の活発な少女「海部千果」役の声をしていた様ですが、今回の映画では総勢600人を超えるオーディションから選ばれたとの事です。
 この花瀬琴音さんは、今後女優として凄く伸びそうな方だと感じる迫真の演技がとても印象的でした。

 ここまでダラダラと書いてきましたが、まとめてみると、

◯ 映画の音と映像については、生活音とロケーションが非常に身近に感じる音と映像になっていた。

◯問題提起の表現方法としては、皮肉表現やショッキングなシーンを用いて鑑賞者へのインパクトはそれなりあった(と思う)。


◯脚本内容が前半の映像や音などの表現の良さを忘れさせる程良く無かったため、''映画"としての作品評価は低かった。

◯主人公を含む出演している女優さんや俳優さんの演技はとても迫真的あり、それだけでも見る価値はあるのではと思った

以上、稚拙な感想と少しだけ考察っぽいのを記述してみました。

 ちなみに、私は沖縄県に住んでおり、沖縄県出身の男性の親族が多くおりますが、私の周りにいる沖縄の男性は皆一生懸命働いています。(サンプル数1)

おわり


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