
ONE PIECE ホールケーキアイランド編を語りたい(後編)
この記事は前回の「ONE PIECE ホールケーキアイランド編を語りたい(前編)」の続きです。
⚠️前回に引き続き盛大にネタバレがあるため、注意してください。⚠️
ペドロの死はサンジが選ばなかった未来
今まですでにクルーになった仲間に焦点を当てた章はエニエスロビー編のロビンだけだったが、WCI編はサンジに焦点を当てた章である。
サンジの出生の秘密がわかり、これまで散りばめられていた伏線(北の海出身なのに幼少期から東の海にいたこと、悪魔の実図鑑が家にあった=裕福、なのにバラティエで働いていたこと)がつながる。そしてサンジが誰よりも優しい理由、身体的な強さの理由も明らかになった。
そしてルフィとの決闘。今までも『ルフィ vs. 〇〇(仲間の誰か)』とサブタイトルが付いたのは3回目、ゾロ、ウソップときてサンジだった。お互いを思うがあまり譲れない意思がぶつかり合って戦うことになる。
思えば「vs. ウソップ」で、ルフィが「船を降りろ」と言いそうになったとき、誰よりも最初に止めたのはサンジだった。普段女性には細心の注意を払っていたサンジがナミがいる方向にルフィを蹴り飛ばしたほどに、あのときのサンジは感情が昂っていた。それはおそらく、サンジが誰よりも仲間を想っていたから。
そんなサンジが、船を降りたくないのに仲間達のために船を降りようとする。危険を犯してまで呼び戻しにきたルフィを口では蔑み、蹴り続ける。書いているだけで涙が出てきた。
そしてそのとき、ナミが初めてサンジを呼び捨てにするシーンも良い。思えばナミが敬称を付けて呼ぶのはサンジだけではないだろうか。そして、サンジも「さん」をつけるのはナミだけだ。2人の関係性は表面的なもの以上に特別なものがあると思っている。もちろんプラトニックな意味で。
さらに、特筆すべきはペドロの死。ペドロはルフィ達を次の島に無事向かえるように、自ら犠牲となって海に沈んだ。これは、視点を変えるとサンジが選ぼうとした未来である。なぜならサンジは自分を除く麦わらの一味が次の島へ無事辿り着けることと引き換えに、自らの人生をビッグマムに捧げたことからWCI編が始まったのだから。
しかしサンジはその後、ペドロの死が仲間達に与える影響、それを乗り越えて進む側の心情、それらを図らずも味わうことになった。サンジを犠牲に無事に次の島へ向かったとしたら、仲間達はこんな気持ちになるのだということを身をもって知ったのだ。
バラティエでゼフの代わりに死のうとしたときや空島編でエネルに立ち向かったときなどもそうだったが、サンジは自己犠牲の心が強い。ただ自分が犠牲になった後のことを考えていなかった。それは幼少期の影響かもしれないし、ルフィと出会ったときから描かれていたサンジが背負う課題だった。
WCI編のONE PIECEらしくなさ
なんとなく全編を通してらしくない感じもWCI編の魅力だと感じている。
世界観の違和感
ONE PIECEはいろいろなところにモデルやモチーフがある。わかりやすいところでいうと、ワノ国編がモモの助を中心とした桃太郎の鬼退治だったように。WCIでは不思議の国のアリスがモチーフとなっている。
ビッグマムのお茶会や喋るティーセット、鏡の世界を走り回るウサギなど。これもいつか語りたいのだが、私は不思議の国のアリスの世界観が大好きなのだ。だからWCIの世界観がすごく好き。
でもその中で不気味さも強調されている。特にビッグマムの過去回想で、みんながいなくなるくだりや、終盤でサニー号がビッグマムに追い詰められるシーンでポップな歌が流れるシーン。WCI編は、ゾンビやお化けを題材にしたスリラーバーク編より断然不気味である。
ONE PIECEらしくない作戦
WCI編ではビッグマムを倒すことが当初の目標ではあるが、その作戦が実にONE PIECEらしくない。おさらいすると「悪者っぽかったベッジと手を組んで、ビッグマムの大事な写真にダメージを与えて精神を乱し、その隙に暗殺する」という計画。
「まともにぶつかっても勝てないからトラウマを抉る」まさかの精神攻撃である。考えたのはベッジとはいえ、少年ジャンプの主人公サイドの作戦とは思えない(夜神月を除く)。
今までとにかく真っ直ぐ戦ってきたルフィらしくなさすぎる作戦だが、でもこれはこれでワクワクもする。案の定失敗するのだが。
恋愛要素
WCI編の見どころのもう1つが、今までなかった恋愛要素。ドフラミンゴとヴァイオレットの愛人関係(公式設定)やルフィのことが好きなハンコックなんかは今までもあったが、WCI編の恋愛要素はかなり強い。
実はONE PIECEでキスシーンが描かれたのはおそらく3回目だ。最初はドレスローザ編でフランキーと工場長のシーン。これはギャグシーンとしての扱い。次はWCI編の序盤でレイジュがルフィの毒を抜くシーン。これは恋愛としてではないが、この後のサンジのキスシーンへの「ならし」と考えられる。
つまり恋愛としてのキスシーンはサンジとプリンのくだりが初めてであり、麦わらの一味のメンバーが作中でしっかり恋愛をすること自体が初めてなのである。
おさらいをすると、以下のような流れ。
1. そもそもWCI編はサンジが政略結婚に巻き込まれることが発端
2. その相手がビッグマムの娘・プリン
3. プリンは相手の記憶を消すメモメモの能力を持っている
4. プリンは三つ目族で昔からその恐ろしい目がコンプレックスだった
5. サンジはプリンの目を美しいと言った
そもそも政略結婚が発端になっている時点で、題材に恋愛が絡む。そして最後の2人のシーン。
プリンは「最後のお願い」と言ってサンジにキスをするも、その記憶はサンジの頭から消去。プリンだけが覚えていて、キスシーン自体も足元にサンジのタバコが落ちる画角のみが映し出され、読者からも明確に見えないし、わからない。
でもその後サンジの目はハートになっていて、一人になった後のプリンは泣いてる。つまりサンジが覚えていないし読者も見ていない、プリンだけが知っている秘密の思い出という演出。粋すぎる。能力漫画であることまで活かした完璧な恋愛シーン。ONE PIECEらしくはないけど僕は大好きです。
まとめ
前後編と長くなったが、以上が私の考えるWCI編の主な魅力である。細かい見どころを書くとジンベイやベッジの漢気、ブルックのファインプレーの数々、サンジの料理人としての矜持など数えきれない。
これからもONE PIECEについては語りたいと思う。良いなと思った方は、励みになるので下の♡をお願いします。