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小説 【 あるハワイの芸術家 】 -10-

その夜。宅配ピザの夕飯後にジェシーは学校での発表会が迫った演劇「不思議の国のアリス」の衣装を着てクリスに見せた。ジェシーは主役のアリス役で、

「最高。似合ってる」とクリスは笑顔で親指を立てた。トーマスのシャツを着たままソファーにいて、

「衣装は私が」とケイトが隣りで言うと、

「つくったの?」と目を丸くし、

「晴れ舞台だから」

「すごい」と感心して何度もうなずいた。「セリフはバッチリ?」

聞かれてジェシーは「もちろん」と胸を張ったあと演劇のセリフを暗唱した。身振り手振りを交え、

「おー」とクリスは拍手し、

「絶対来てよパパも」とジェシーは言ってから「あ、じゃなかった叔父さんも」とすぐ訂正した。「間違えちゃった」と苦笑した。

しかしケイトとクリスは固まり、

「みんな家族来るんだから。ビデオも撮って」とジェシーが自然に続けてやっと、

「あぁ、そうだな、行くよ、うん」とクリスはうなずいた。

「よく着てたシャツだから」とジェシーはシャツを見て言い訳したがクリスの目もケイトの目も見られず、

「ああ、そうだね」とクリスはシャツを見下ろし、ケイトは黙ったまま目を伏せた。

   ***

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