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電楽の短編

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#ホラー

翳す人

翳す人

 ジムの更衣室に戻ると、寺田さんがいた。寺田さんは少し強面だけれど面倒見が良く、トレーニングで知らないことならなんでも教えてくれた。いつもスウェットパンツに、紫色のランニングシャツの姿でいるため、遠目でもすぐに分かった。

 寺田さんは重機のような腕を持ち上げて、しきりにお札を蛍光灯にかざしていた。

「こんにちは。何やってるんですか」

「ああ、前沢さん。これです。見てください」

 寺田さんが

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臍帯者

臍帯者

 夜、目の前で老婆が轢かれた。つい20秒前に道を訊かれたばかりだった。僕は駅の行き方を教えてやり、老婆が歩き出したところだった。青信号の交差点でミニバンは老婆だけを綺麗にボンネットで撥ね飛ばした。10メートルほど老婆は転がった。五回も転がるともうネズミの死体と見分けがつかなくなっていた。
 ボロ布の肉塊はカラス避けをしたゴミ捨て場の前で止まった。老婆が最後に残したのはアスファルトに付いた三つの血痕

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rooms

rooms

 あ、ヘッダーの画像気に入ってくれました? これ、私が作ったんです。大学の廊下を思い出して3Dソフトで床から壁から全部やってみました。ぱっと見、意外とそれっぽく見えるでしょ?
 ネットではこういう画像をリミナルスペースと呼ぶみたいです。見たことないのに見た気がする。不気味さとノスタルジーを同時に感じるのが魅力のようです。
 SNSで検索するとこの手の画像を集めて投稿しているbotもあり、フォロワー

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緑の部屋

緑の部屋

 ちょっと会えなくなります

 百合香とのメッセージはサークルの肝試しの後で途切れている。付き合って2年まであと数日だった。私は渡そうと思っていたプレゼントを持て余してしまい、友人から慰めの言葉をかけられた。彼女の住所も電話番号も私は知らなかった。自分から聞くのを躊躇っていただけだと言っても、酒の席で笑いの種にされるだけだった。
「お前に合う女なんかすぐ見つかるって」
 酔うたびに友人が言った。

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ラグ

ラグ

 これは知人のSさんから聞いた話だ。
 Sさんはその日テレワークで書斎にいた。
 会社から支給されてるミニPCを起動して作業をはじめる。しばらくするとカーソルが止まってしまった。マウスを動かすとワープしたように動く。数日、この現象に悩まされていた。
 Sさんが作業指示のため、同僚とビデオ会議を行っていたときだった。そのアプリでは、自分の画面を共有して見せる機能があった。普段のように共有していると、

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仔象寿司

仔象寿司

【しげ寿司】が悪いのではない。ただ、希望に手を伸ばす時期がまずかっただけなのだ。
 そう言い聞かせ、板前である重蔵は赤くなったモップを床にかける。白いタイルには真新しい赤い足跡がべっとりとついていた。次の客が来る前に、どうにかしなければならない。重蔵は床に直に洗剤をかけて強く擦った。ぶくぶくと白い泡がわき立つ。
 足跡は巨大だった。歪んだ楕円が狂ったようにいくつも押され、内臓を破ったのか、足跡のひ

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ワタヌキさん

ワタヌキさん

 4月の暖かさは、脳液にとろみがついてしまう。あの日はもっと日差しが強かった。
 私は何度目か分からない欠伸をした。机はチェックし終えた漢字ドリルで山積みだった。
 脳内はへんとつくりがあべこべになった漢字で溢れていた。「詩」と「持」の寺はどちらが左だっけ……どちらも左か。
 小学3年生の自信満々の創作漢字は、大人を惑わせる魔力がある。
「佐山さん、家庭訪問なんです?」
 ふと後ろから冴島先生の声

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いい日わるい日、揚げたてに

いい日わるい日、揚げたてに

6月8日天気:雨
 妹の葬儀が終わった。病院に駆けつけてから、葬儀会社との打ち合わせ、出棺。眠るヒマもなく過ぎていった。通夜が終わって、久々に会った友人に心配された。その流れで日記を友人に勧められた。感情の整理のためにはアウトプットが大事なんだそうだ。今日から書いていく。
 「事故死です」と珍しくもなさそうに看護師は言っていた。帰り道に煽り運転の車を避けようとして、街路樹に突っ込んだらしい。いまだ

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