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へうげもの鐔
審査に出していて4ヵ月ほど手もとを離れていた埋忠鐔が戻ってきた。
久々に触ると心なしか艶が無くなりザラザラしているので、さっそく布で磨くと艶とスベスベ感が戻る。
久しぶりに手にしたが、すぐ手に馴染み心が安らぐ。
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こうした感情にさせてくれる鐔は非常に稀有で、手持ちの鐔でもこの鐔が随一かもしれない。
鉄でありながら茶器を触っているような、正円のような「均一」を嫌い変化こそが見所なのだとでも主張するような造形美が何とも堪らなく、自身のツボに入ってやまない。
「へうげもの」の世界を体現した鐔にも感じる。
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鑑賞している内に心をやすらいでくれるような刀があるように、手に持つと包み込んでくれるような優しい気持ちにさせてくれる鐔がある。
凝った象嵌の施された豪華で高級な鐔ではないが、そうした鐔からは得られない感覚をこの鐔は持ち合わせているように感じる。
安土桃山時代は秀吉が好んだ絢爛豪華な金色の文化と、千利休が提唱した黒を至上主義とするような侘び寂びの文化が入り乱れており、実に面白い時代に思う。
この鐔はそんな文化の転換点とでも言えるような桃山時代に生まれた作者がその時代の勢いある気風を感じながら製作したもののように感じてならない。
そしてこの鐔の作者もまた古田織部のようなかなりの数寄者だったように思えてならない。
この鐔に描かれた波のような模様の意味を汲み取れない自身の教養の無さを呪いたいほどであるが、こうした作品が何百年と時を経て今の時代に残り、何かしらの感情の変化を今この瞬間に起こしてくれるのは実に面白い。
そうした作品を手にして得られる幸福感というのは、今の忙しない情報化社会の中で一息おかせてくれる貴重な道具になるかもしれないですね。
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それでは皆様良き刀ライフを!
この鐔の詳細は以下にまとめていますので興味あればご覧ください。
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↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)
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