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「刀とくらす。」というコンセプトに掛けた想い

刀の展示ケースを作る上で大切にしているコンセプトがあります。
それが「刀とくらす。」ということ。

150年前までは日常に当たり前のようにあった日本刀も、廃刀令が出た事や、ここ最近の住宅変化により床の間がなくなった事で日常で見る機会は無くなりました。

ちょっと思い返してみて下さい。
ここ10年以内に友人や親族の家を訪ねた際に、日本刀を見たという人は一体どれだけいるでしょうか?
刀にさして興味のない一般の人が日本刀を見れる場所といえば、美術館しかないのです。
刀が好きであれば刀剣店などもちょっと行ってみようと思うかもしれませんが、一般人は美術館に寄るような感覚でふらっと行けるほど刀剣店に敷居の低さを感じていません。
そもそも本物の刀が現在売られている事を知らない人も多いです。


・刀は個人で管理しなければならない物が大半

さて日本刀の現存数ですが、いくら位あると思いますか?
以前こちらのブログで書いたように、現在登録証の付いている物(所持が法的に認められているもの)で約260万振程と思われます。
そのうち国宝や重要文化財で900ちょっと、美術館や神社仏閣に収蔵されている刀は全体で見ても恐らく1万振あるかないか位でしょうか。
つまり大多数の日本刀は個人が管理していかないと後世に残せないのです。

しかし今これだけ刀ブームが起こっているにも関わらず、実際に刀を買っている人は多くありません。
ブームのメイン層が若い女性層でありお金が少ない事や、日本がそもそもどんどん貧しくなっているので買えなくなってきているというのも一つの理由でしょうが、富裕層であるアートコレクターの選択肢に日本刀が入っていないという理由もあると思います。
一方で私が過去デパートや東京ビッグサイトなどで行った刀展示ケースの展示会などでは、日本刀の実物を見た人の大多数はその美しさに魅了されていました。
これを見て実感したのは日本刀そのものに魅力がないから買う人が少ないのではなく、その魅力をそもそも知らない、気づいていない人が多いから、というのが日本刀がアートコレクターの選択肢に入らない理由に感じます。
需要が増えれば価格は上がるので、需要が下がり値段が下がっている今現在だけを見て「アートコレクターの選択肢になっていないのだ」という意見は少し視野が狭いと思います。

いずれにしても日本刀を後世に残すためには、個人での管理が不可欠であり、個人に所有してもらう為には日本刀の魅力に多くの人に記憶に残る形で気づいてもらわねばなりません。

製作した「刀箱 箔漆」


・刀の魅力に気づいてもらう為には美術館だけでは足りない

人に何か物の良さを説明する時に、物だけ見せるよりも何かしら言葉で付け加えた方が魅力が相手に伝わりやすい。
無言で紹介する方が効果的なのだとしたら世の中のCMは全てそうなっているだろう。
しかしそうはなっていない。

美術館に行くとキャプションが書いてあり学芸員さんの工夫が伺えるが、いかんせん物とキャプションの距離が離れているし、キャプションを見ようと目をそらすと刀を見る時間が減る。そして何よりガラスから刀までの距離が遠く刀の魅力がどうしても伝わりづらい。神々しさは感じるが。

一方で個人が手に取り刀を持たせてくれながら魅力を説明された時の魅力の伝わり方は美術館と比べて天と地ほどの差がある。
刀そのものは当然美術館の展示品の方が良いだろうが、そんな事関係なしに五感で感じられる方が遥かに刀の魅力は伝わる。

しかしここでハードルもある。
刀を手に持ってもらうと刀の魅力が多くの人に伝わるのであるが、ふらっと家に来た友人であったり親族に「刀を手に持たせる」というのが実はとてもハードルが高い
相手が刀を好きなら話は早いが、怖がって持ちたがらない人も多い。
相手には刀がどれだけ綺麗かよりも先に鋭利なその姿を見て恐怖が勝ってしまっているのだ。

そんな時に美術館で見るよりも近くで刀の刃文や地鉄といった部分を安全にかつ綺麗に見る事が出来るなら、相手は安心して刀に興味を持つ事が出来る。
興味が出ると手に持ってもらいやすくなる。
そして手に持つと更に魅力が伝わり深く記憶に残る。

今まで愛刀家が減り続けてきたのはもしかすると、第3者に刀を手に取らせて興味を持たせるという行程を踏めなかった愛刀家が多かった事が原因なのではないか。
刀を手に持たせるという体験をさせてあげる事が出来るのは、今刀を持っている人だけであり、美術館には出来ない事である。
刀の魅力を伝えて愛刀家を増やすにはこうした人を増やさないといけないと思う。
今は現代刀匠さんが鑑賞会などを開くケースも以前よりは増えているが、それは行きたいと思って参加した行動力のある人しか刀の魅力を知れないという事でもある。

もっと偶発的に刀の魅力を知れる場が欲しい。
その為には刀を部屋に飾る人が増えれば良いのではないか。

お納めさせて頂いた「卓上刀箱1.0」


・刀とくらす生活は、身近な人に「共感」してもらう事で更に良くなる

刀の所有者が刀が好きなのは当たり前である。
私自身刀の展示ケースを作り始めたきっかけも自分自身が愛刀を美術館クオリティで毎日鑑賞したいからという欲からであり、今回書いているような、第3者が~とか愛刀家が~とかいうような綺麗事は一切考えもしなかった。今回書いたのは正直言ってしまえば、展示ケース作りをしていく中で気づいた事であったり、つまり後付けである。
しかし、的はそこまで外していないと思う。

刀を毎日美術館のように眺めるという生活は自分で言うのもなんであるが想像以上に良かった。

そしてケースを作る前は気づかなかったのだが、作って部屋に飾ってみると、部屋を訪れた家族や友人が刀に興味を持つのだ。
そして刀を手に持ってくれるまでが非常にスムーズで、手に持った事で更に刀の良さについて共感してくれる。

この「共感してくれる」事が想像以上に幸せであった。

その時、刀の所有者の身近な人が刀に理解を示してくれて共感してくれたらその人の刀ライフはとても幸せになるな、とも感じた。
そうした人を増やしていきたい。
そうして刀の魅力を肌で感じた人が、更に別の人に刀の魅力を肌で感じさせることが出来れば、愛刀家は増えるし刀の魅力が多くの人に伝われば、冒頭に書いたようなアートとしての価値も高まるだろうし、需要も増えて刀の値段も上がっていくだろう。

刀は神聖な物であり、武器である。アートなんかじゃない!と御叱りも受けるかもしれないが、大事な事は刀がアートだとか武器だとかそういう所ではない。
大事な事は刀を後世に残していく事ではないのか。
刀の需要を増やす事は、何百年と大切に残されてきた刀をどう次の世代に残していくのかに繋がる大事なことだと私は思う。
そして今の世代が刀をインテリアやアートの一部として日常生活に取り入れていけば、ここに書いたような流れが広がるかもしれない。
そして愛刀は各々の家で大切に受け継がれていくかもしれない。

正解はいくつもあると思います。
例えば鑑賞会を開催して刀の魅力を伝えるのも確実に的を射ていると思います。
愛刀家の皆さん、お互い刀の良さを広めて刀好きを増やしていきましょう!


今回も読んで下さりありがとうございました!
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それでは皆様良き御刀ライフを~!

↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑)

「刀とくらす。」をコンセプトに刀を飾る展示ケースを製作販売してます。


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